「諸君らには、特殊任務を与える。なお、当然ながらここでの出来事は他言無用である」
密かに集められたイコンパイロットたちを前にして、部隊の指揮官であるその男は言いました。
初老の壮健な顔と体つきをしていて、片目は眼帯で隠しています。古びたシャンバラ教導団の制服を着てはいますが、傭兵のようですので、現在も所属しているとは限らないでしょう。
「秘密作戦のため、我が隊は各種エキスパートの混成部隊として編成されている。当ミッション限りの専用部隊であり、二度目はない。作戦遂行上、私の命令は厳守とする。命令違反は許さん」
各パイロットの前を威嚇するように歩きながら、隊長が言いました。
「へへっ、そんなこと言っても、始まっちまったら現場の判断って奴で……うがっ!」
傭兵の一人が減らず口を叩きかけて、最後まで言えずに隊長に叩き飛ばされました。
いったいどうやったのか、動きとして隊長の攻撃を見極められた者はいませんでした。かなり高位の契約者のようです。
「拘束しておけ。いいか、作戦を乱すような者は必要ない。場合によっては処分するので肝に銘じておけ」
壁に激突して気絶した男を、彼のパートナーがあわてて連れていきました。
「作戦を説明する。最終目的は、未知の新型イコンの確保である。これに関しては、情報がほとんどなく、現地で確認することとなる。
作戦は、次の4つのシークエンスによって構成されている。
ファーストシークエンスで、イルミンスール北部にあるポイントαのオベリスクを破壊する。事前調査では、このオベリスクがポイントβにある遺跡の防御結界発生装置であることが分かっている。抵抗は微小であると考えられるため、銃火器で一気に施設を破壊しろ。ただし、殲滅する必要はない。あくまでもターゲットはオベリスクのみである。
セカンドシークエンスで、ポイントβにある茨ドームを焼き払う。この茨は、生きた結界である。オベリスクと呼応して無限の再生能力を有しているが、オベリスクを破壊してしまえば再生はストップする。その間に、すべてを焼き払え。退路を確保するためにも、ナパーム・火炎放射器などですべて殲滅せよ。機外に出ての帯域魔法による攻撃も許可する。
サードシークエンスでは、遺跡内への突入を行う。遺跡の構造は未知であるため、イコンで侵入できるかは不明だ。可能であればイコンで内部に突入するが、不可能であれば、イコンから降りて突入する。
フォースシークエンスで、遺跡内部でメインターゲットであるイコンを捜索、確保する。確保次第撤退となる。
以上だ。
全員、即刻イコンに搭乗。出撃する!」
作戦概要を説明すると、隊長は質問すら許さず、部隊の全員に出撃を命じました。
★ ★ ★
「イルミンスールの森で大規模な森林火災ですって!? ただでさえ、今やまともな緑は貴重なのよ。すぐに消火にいかないと!」
イルミンスールの展望台からその火の手は見えました。
かなり大規模な火災のようです。このまま放っておいては消失の被害は大変なことになるでしょう。
「ただちに消火隊と救援隊を出しましょう。消火にはイコンの使用も許可が出ています」
さっそく、消火隊と救助隊が組織され、火災が起きた場所へとむかいました。
けれども、彼らはその火の中から何が現れることになるのか、まだ想像だにもしていなかったのです……。