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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)

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【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)

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シナリオガイド【イコン参加可】

大蛇復活。迫り来るは百鬼夜行。血よりも朱い空の下……決戦の刻は至れり!
シナリオ名:【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話) / 担当マスター: 桂木京介

 冴え冴えと冷たい床の感覚が、素足から体に伝わっていきました。
 うす蒼い暮明を横顔に受けながら、グランツ教マグス(高位神官)カスパールは廊下を歩んでいます。
 剥き出しなのは彼女の足だけではありません。そもそも彼女は、素肌に紗(うすぎぬ)一枚を羽織っているにすぎませんでした。長い黒髪も解き、生まれたままの姿をさらしているのです。
 彼女は、長い行(「ぎょう」と読む。瞑想のこと)から醒めたところでした。なにかに急かされるように、その足取りは真っ直ぐにグランツ教ツァンダ支部内の廊下を進んでいました。
 つと、その爪先が静止しました。
 無人の廊下、その突き当たりのドアにたどり着いたのです。
 カスパールは扉に施された電子錠を外すと、そよ風のように音もなく、内部に身を滑り込ませました。
「要らぬ」
 部屋のスイッチに手をかけようとしたカスパールを、石臼を挽くような声が制しました。
「視(み)える」
 男性の声です。
 ひどく掠れていますが、威圧的というか、逆らうことを許さぬような重みがあります。
「失礼いたしました」
 カスパールは振り返ると、唇に紅い笑みを浮かべたのです。
「大蛇(おろち)様」
 ぱりぱりと乾いた音がしました。
 男性が、身を屈めて立ち上がったのでした。
 暗い部屋の中央、木の椅子に彼は腰掛けていたのです。
 長身です。そして長い、長い髪をしています。それこそ、髪の先が床に触れそうなほどに。
 酷く年老いていました。
 髪は骨のように白く、肌は土色です。刻まれた皺は大樹の表面を思わせ、濁った目は錆の色をしています。ぱりぱりという音は、彼の乾燥した表皮が剥がれ落ちる音のようでした。
 墨染めの衣を着ているのですが、その黒い色が肌色の悪さを強調しているようにも見えるでしょう。
 今の彼を見て、これが伝説の八岐大蛇だと、誰が信じるでしょうか。
 八岐大蛇は、やはり掠れた声で言いました。
「足りん……」
 カスパールは、彼の膝元に跪くようにして言います。
「おそらくは仁科耀助らの企て……大蛇様の復活を彼らは人為的に早め、しかも意図的に、不信心な乙女ばかりを封印を解く鍵に使った……そのことが、大蛇様が真の力を得られないというこの状況を作り出したものでしょう」
 大蛇は、半月のような目でカスパールを見ました。
「『不信心』などとよく言う。余に抵抗できる堅牢な意思を持つ者どもであろうが」
「仰せの通りです……ですが」
 カスパールは顔を上げました。
「手だては、あります。大蛇様に真の力を取り戻すための手だては」
 


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 黄土色と緑、それに黒が混じったような、実に気味の悪い色味の空です。
 空ばかりではありません。地も……それどころか地面と思っている足場も、すべて同様の色に覆われていました。
 しかもその色が刻一刻と、止むことなく変化を続けています。明るいオレンジが混じったかと思えば、氷のような青が進入してきます。
 これは一体なんなのでしょう。
 時間の流れも感じられず、生命の息吹もまるでない、悪夢さながらの世界です。
 いえ、実際に悪夢なのかもしれません。
 高熱を発した夜に見る夢のように、重苦しい気持ちでアルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)は目を開けました。
 アルセーネはアルセーネとしての意識を保ったままで、自分が今、カスパールと対面して話しているのを感じました。
「『不信心』などとよく言う。余に抵抗できる堅牢な意思を持つ者どもであろうが」
「仰せの通りです……ですが」

 ――これは、八岐大蛇の意識……?
「気がついた? どうやら、あまり楽しい状況じゃなさそうよ」
 龍杜 那由他(たつもり・なゆた)が呼びかけてくるのが聞こえました。すると忽然とアルセーネの眼前に、他ならぬ那由他の姿が現れたのです。
「私たちは今……」
「そう、大蛇の精神世界に囚われているみたい。ここはいわば、大蛇の心の片隅ね。私たちがこうやって自意識を保っていることは、大蛇にとって決して快適な状況じゃなさそうよ。自分を見失って同化されてしまってはダメ、大蛇に抵抗しなくっちゃ」
「つまり、自分の意思を保っていれば大蛇を弱体化できるということですね」
「そういうこと! 他の六人にも呼びかけて目を醒ましてもらわなきゃ」
 と笑みを浮かべた那由他ですが、たちまちその笑顔は驚愕にとって代わられました。
 二人の周囲に、鋼鉄の檻が飛び出したのです。降りてきたというよりは、急に出現したというのが近いでしょう。
「あーらら、そのまま眠りつづけて心が溶かされてくれればよかったのに〜」
 歌うような声がします。
 正円の眼鏡をかけた少女が、檻の外側から近づいて来ました。髪はポニーテール、蒼空学園の制服を着ています。
「私、加古川みどりって言うの。那由他ちゃんはご存じよね、私をさらった人だもの」
 少女は不気味な笑みを浮かべて言いました。
「まんまとさらったつもりだったろうけど、実はね、それって計画通りだったの。だって私、グランツ教の信徒だから!」
 ひゃひゃ、と甲高い声でみどりが笑うのと、檻の鉄格子が赤く染まるのは同時でした。ただ赤くなったのではありません。それは熱と、光をともなうものでした。真っ赤に燃えているのです……檻が。
「精神世界は想像力の世界! 心が強い者が勝つ……! 二人の精神にはここで死んでもらうね。でも安心して。文字通りの意味で『死ぬ』わけじゃないから。ただ、偉大なる八岐大蛇様の心に抵抗できなくし、同化してもらうだけなんだから」
「せっかくのご提案ですがお断りします」
「同感ね、負けてられない!」
 アルセーネと那由他は、檻の炎が消えるよう念じました。
 すると火は勢いを弱めましたがそれもつかの間、次の瞬間にはよりいっそう強く燃え上がったのです。
「あら弱っちいのね。そんな想像力じゃ勝てないよ! 抵抗勢力は大人しく消え去りなさーい!」
 嘲るみどりの舌そのもののように、二人を包む火は激しく踊りはじめました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 大蛇の顔に赤みが差しました。
 心なしか、髪に艶が戻ってきたようです。乾いた肌にも血が通ってきたように見えます。
「効いてきた。余の精神より、抗うものが消えつつあるわ」
 力強い歩みで、八岐大蛇は扉に向かいました。
「さすれば抵抗の眼を根絶やしにせん。うぬらの言葉にいう『契約者』を喪わせれば、その『パートナー』たる娘どもは簡単に支配できよう」
 陥落(お)とすぞ、と、大股に歩ながら大蛇は言うのでした。
「きゃつらの拠点を」
 それは、蒼空学園。
 大蛇が片手を上げると、その背後からずるずると尾を曳きながら、黄金の光に包まれた異形の存在が次々と現れ、一体、また一体と主の背を追うのでした。彼らを呼ぶ正しい名称はありませんが、強いて言うならば『龍の眷属』というものが近いでしょう。
「ご武運を」
 薄く眼を細めて、カスパールは大蛇の背に一礼しました。
「この時代の人々は、私を邪教の徒と思っていることでしょう。世を混沌に導いた者と罵ることでしょう」
 彼女の唇より、呟きに似たものがこぼれました。
「……わかってもらうつもりはありません。けれど私のこの行動は、マホロバの地と、なにより母上……あなたを救うことになるのです」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 蒼空学園に向けて進む、百鬼夜行のような集団が目撃されたのはそれから間もなくのことです。
 恐るべき集団でした。いずれも爬虫類を想像させるところもありますが、ただの爬虫類ではなくそれに甲虫を混ぜたようなものばかり、聞いて想像するよりずっと不気味で、ずっと悪趣味な姿形をしていると言います。
 その数というのも半端ではない。天を覆い尽くすほどに有翼の存在が舞い、山と見紛うばかりに巨大な蠕虫(ワーム)が、建物をやすやすと薙ぎ倒して進んでくるのでした。
 百鬼夜行の中心に、墨染めの衣を着た男性の姿が目撃されています。はっきりと口に出す者はありませんでしたが、その男性が八岐大蛇であることは自明でした。
 空は妖しくかき曇り、まだ午前中だというのに夜のように暗くなりました。しかもその空の色は、赤黒い色彩を帯び始めたのです。
「……来るべき時が来たか。むしろ、予想より遅かったと言うべきか」
 蒼空学園校長馬場 正子(ばんば・しょうこ)は、すっくと立ち上がって号令をかけました。
「迎撃する! わしも出るぞ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ツァンダの街に非常警報が流れます。
 耳を聾するサイレンの中、緊急避難する市民とはまるで逆方向に、歩む姿がありました。
 飄然とした彼を、ナンパ男と認識した人はきっと、美人と言って通る女性に違いありません。
 そう、彼こそは仁科 耀助(にしな・ようすけ)
「こんなこともあろうかと! ……なーんてな。けっこう必死でかけずり回ったんだよな〜、これでも」
 勝算あり、といった表情を彼は浮かべていました。
 耀助は、生身のまま大蛇の精神世界に入る方法を見出していたのです。
 実地で試したことはもちろんありません。出たとこ勝負の一発本番。
「けど、そーいうのってさ、オレに似合ってると思わないか? もちろん、この酔狂に付き合うみんなにとっても、な」

 

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 お読みいただきありがとうございます。ツァンダを舞台としたキャンペーンシナリオ、最終第3話となります。
 連続シナリオですがこれまでの参加は必須ではありません。最終回のみの参加も歓迎いたします。
 今回は比較的ストレートな戦争シナリオとなることでしょう。
 これまでの集大成として挑む方はもちろん、「細かいことは知らんがイコンを駆って龍の眷属と一戦交えたい!」という人にも対応したお話にしたいと思います。

 第二話の結果、大蛇復活を目論んでいるのがグランツ教であることが明らかになりました。
 大蛇率いる百鬼夜行を阻止し、蒼空学園を守りきることが今回の使命となります。
 使命を達成するために、おそらくは大蛇の再封印が必要となることでしょう。

 主として以下の行動が想定されます。
○(第2話で舞いを習得したキャラクター限定)龍の舞で大蛇とその眷属の力を弱める
 八岐大蛇を鎮めるとされる『龍の舞』は大蛇自身はもちろん、彼が引き連れる『眷属』に対しても大いに有効です。龍の舞を舞うメンバーの前では、大蛇と眷属は弱体化していきます。また、この行動を取る人が多ければ多いほど積み上げ的に効果は大きくなります。
 事実は不明ながら八岐大蛇は龍神族最強と言われているそうです。実は現在の『老いた』八岐大蛇でさえ、このままいけばツァンダを容易に飲み込めるほどの力を持っています。ですので舞い手が少なければ力負けする可能性があります。
 ただし、舞いは本シリーズ第2話でこれを習得したキャラクターしか行うことができません。(お手数ですが習得している人はその称号を装備して参加するようにして下さい)。また、舞いに関しては極度の集中力が必要となるので、舞っている間は他の行動が難しくなりそうです。契約者とパートナーで参加する場合は、『舞うキャラクター』と『舞うメンバーを護衛するキャラクター』に別れるのが賢明かもしれません。(この場合、契約者とパートナーが離れないようにするのであればダブルアクションとはみなしません)
 舞いに『どんな想いを込めるか』を書いて下されば効果も高くなることでしょう。
 NPCの雅羅・サンダース三世ユマ・ユウヅキはこちらに参加します。

○舞うメンバーを護衛する(+大蛇と対決する者)
 龍の眷属は巨大なものばかりではなく人間大の存在も少なくありません。また、八岐大蛇も人間の姿をしています。
 この役割も重要なものです。展開によっては大蛇との直接対決になる場合があります。
 龍の舞を舞うキャラクターから離れないようにするのであれば、「○龍の舞で大蛇とその眷属の力を弱める」契約者と「○舞うメンバーを護衛する」パートナー(あるいはその逆)という組み合わせはダブルアクションとしません。
 NPCの馬場正子クランジ・パイ(ことパティ・ブラウアヒメル)カーネリアン・パークスはこちらに参加します。

○龍の眷属(巨大怪獣の類)の蒼空学園侵攻ををイコンで食い止める
 蠕虫(ワーム)や人型の巨人など、黄金の光を放つ百鬼夜行には恐るべき存在が多数含まれています。
 イコンに乗って巨大怪物と激闘を繰り広げましょう。外骨格に身を固めた蠕虫の装甲を破る方法、そして、長槍を持ち二足歩行する爬虫類とどう戦うかが腕の見せ所です。敵にイコンが混じる可能性もあります……!
 ※イコンを単身で動かすのは不可能ではありませんが、その場合イコンの本来の能力を十全に発揮することはできません。副座にパートナーを座らせるようにして下さい。(メインをパートナーに任せ契約者キャラクターが副座でも可です)

○大蛇の力を内部で抑える
 精神世界で大蛇の手の者と対決します。
 第2話でさらわれたパートナーはこの行動を選ぶのが基本となるでしょう。
 腕比べと言うよりは想像力の勝負となるでしょうか。相手は想像したものを次々と繰り出してきます。大蛇自身も荷担しているので、同じものを想像してもこちらのほうが力は数段落ちます。
 NPCの仁科耀助クランジ・ロー(こと、ローラ・ブラウアヒメル)はこちらに参加します。
 
○グランツ教ツァンダ支部に乗り込みカスパールと対決する
 カスパールを倒すことがこのシナリオの目的ではないことにご注意下さい。
 多くの人数でカスパールに挑み、撃破したとしても、大蛇の百鬼夜行を止められなければ本末転倒です。
 当然ながらツァンダ支部も多数の信者が護衛していますので案外難しいかもしれません。
 しかし首尾良くカスパールを倒すことができれば、事態が好転するきっかけになるかもしれません。

 以上、皆様のご参加を楽しみにお待ち申し上げております。

▼サンプルアクション

・龍の舞で大蛇とその眷属の力を弱める(第2話で舞いを習得したキャラクター限定)

・舞うメンバーを護衛する

・龍の眷属の蒼空学園侵攻ををイコンで食い止める

・大蛇の力を内部で抑える

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2013年03月07日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2013年03月08日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2013年03月12日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2013年04月01日


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