なし

「あれ。どうなさったんですか、校長？」
　
卜部　泪（うらべ・るい）が業務報告書を届けに訪れた校長室では部屋の主、山葉　涼司（やまは・りょうじ）が難しい顔をして考え込んでいました。
　

「ああ、卜部先生。実は……」
　涼司が泪へと差し出したのは、一枚の書類。そして──……一本の、どこにでもある風な細い、線香花火でした。
　受け取った泪はしげしげと、糸のように細いそれを眺め回します。別段、特に変わったところがあるようには見えません。
　涼司のほうを見返すと、視線で書類に目を通すよう促してきます。はて、この花火が一体……？
　
「……『情愛の八尺玉』？　八尺って……これって、打ち上げ花火？　なんですか？」
　
　書類には、黒々とした巨大な球体の写真と、その説明と。使用上の注意について記載されていました。

『情愛の八尺玉』。それは着火作業を必要としない、打ち上げ花火としてもあまりに大きな夜空に咲く花の『種』でした。
　その導火線は、物理的な熱量に反応することはけっしてなく。ただ、周囲にある人々の心の熱さ、想いの発する熱の量に反応し、そこに火を灯すと、涼司の渡した資料にはあります。

「今度の学内花火大会にあわせて紹介してもらった業者から、ぜひ使ってみてほしいと譲り受けたのですが……どうやら、ここまで大きいものだと打ち上げるために必要な心の熱量も非常に大きいらしく。どうしたものかな、と」
　このサンプルくらいのサイズなら別ですが、と涼司は線香花火を握り締めます。
　するとなるほど、ぱちぱちと音を立てて、今まで火の気のなかった花火の先端が、繊細な光を放ち始めるではありませんか。
「心の熱量、ですか。だったら──やっぱり、そんなの愛しかないんじゃないですかね？」
「愛……ですか？」
「はい。愛って、心の他の、どんな部分よりもきっと熱くって、あったかいものですから」
　お祭り。星空。花火。浴衣。ほら、花火大会には幸い、シチュエーションもばっちりそろってますし。カップルのみなさんや、パートナー同士。好きな人と一緒に。
　告白したり。愛を深めたり。感謝を伝えたり。みんなにもっとずっと、いっぱいいっぱい、いろんな愛を育んでもらいましょうよ。
「さしずめ、カップル花火大会ってところですね。中央広場に組んだ櫓で告白のチャーンス、なんてどうでしょう。きっかけで勇気を出せる子たちもいると思うんです」
　そしてそれがきっと、八尺玉に火を灯してくれるはずです。そう指折り数えて、泪は涼司へと提案をします。
「きっとみんな、大好きな人たちと一緒にこの花火が打ちあがるところを見れれば、喜んでくれますよ」
　
　さあ。皆の心のぬくもりで、その想いの熱で。夜空に大輪の花を咲かせましょう。

　ごきげんよう。ゲームマスターの６４０です。今回は、夏らしく花火大会をイメージしたシナリオを用意させていただきました。
　この花火大会で涼司たちが提供された『情愛の八尺玉』。これは、普通に着火しても打ち上げることはできず、花火として咲かせるためには多くの人々の「心の熱」、つまり「熱い想い」を集める必要があるという一風変わった花火です。今回のシナリオの最終目的としては、これを打ち上げ、花火大会の有終の美を飾ることにあります。
　無論、普通の花火も無数に用意はされていますが、涼司たちは花火大会を成功に導くためにさまざまな趣向を凝らしているようです。
　中央広場に組み上げられたメインステージの櫓を利用した、『大告白大会』、……例えば片想い中の相手に対して気持ちをぶつけたり、付き合っている相手に、一層の想いを吐き出したり。身近な人たちへの日ごろの感謝を、思いの丈をこめて夜空高く声にする、そんな舞台であったり。
　浴衣での来場者や、カップル、パートナー同士での参加者たちには『情愛の八尺玉』と同じく想いに反応しその先端に火を灯す線香花火が全員に配られます。
　大切な人と静かな場所でふたりきり、淡い花火の光に照らされてみるというのもいいかもしれません。
　金魚すくいや、綿菓子や。出店をまわり、大いにはしゃぐのだって選択肢のひとつです。
　
　思い思いに、大切な人たちと熱い夏の夜に、その心のぬくもりで花火の、あるいは様々なかたちの花を咲かせてください。

・パートナーに、「好きだ」ということを伝える！

・彼女と一緒にふたりきりで花火大会を過ごす。