薔薇の学舎生徒のシモン・サラディーは、綺麗な顔を怒りで赤く染めています。
「蒼空学園から研修で我が校に来る砕音アントゥルース(さいおん・‐)って教師、パートナーが女のうえに女子高生に手を出してるらしい! そんなフケツな奴、薔薇の学舎の教師にふさわしくない! 奴はヘタレらしいから、皆で協力して嫌がらせして追い出そう!」
おぼっちゃんのシモンは、尾ヒレの付いた噂をうのみにしているようです。
パートナーのバロムが彼を止めます。日に焼けた肌の、優しい好青年です。
「イジメは良くないだろ。俺は先生を守るからな。シモン、お前、ヘルとつきあうようになってから変だぞ」
「かっ、関係ないだろ、そんな事!」
シモンはさらに赤くなって怒ります。
吸血鬼ヘル・ラージャは褐色の肌で長身、金の長髪に紫の瞳と、印象的な美貌の持ち主で、何人もの美少年、美青年に手を出しています。
さらに生身の相手だけでは足りないのか、美術展示室にある等身大の青年天使像を毎日なでまわして愛をささやいています。
「君が早く僕のモノになればいいのに……。こうして毎日、君を暖めていれば、いつか応えてくれると信じてるよ」
そうして、像の胸元にはまる二億円のルビー『エンジェル・ブラッド』を赤い舌でなめまわすのです。
ヘルのパートナー智彦はお気楽で「ヘルのやりたいようにやればいいよー」と、いっさいを止める気がありません。かわいいのに何も考えていないようです。
砕音先生(25歳)をイジメようという生徒と守ろうという生徒が火花を散らす中、学舎に当の本人がやってきます。ヘタレていなければ端整で色気があるのに残念です。
「薔薇の学舎に一ヶ月の出向かぁ。薔薇に染まってくれば女生徒に手を出す心配も無い、とかお偉方に思われてんのかな。ははは……」
学舎は女人禁制で、研修中はパートナーの少女型輝晶姫と会えません。さらに学内は寮も含めて全面禁煙。愛煙家の砕音には生き地獄です。
彼の担当教科はダンジョンの罠探知/設置の実習と講義。罠にかかると金ダライが降ってきます。容姿端麗な学舎の生徒が、こんな授業につきあってくれるでしょうか?
とはいえ、この研修に参加するのは彼だけではありません。蒼空、魔法、教導団など各学校の男子生徒が学校間交流のために集っており、砕音はその引率教師なのです。
ちなみに、シモンが怒るのはヘルのこんな言葉のせいです。
「本当は、砕音が僕のモノになれば、他は何もいらないのに。……ノンケのヘタレ? そんな設定? なかせちゃおっかな。あのアントゥルース」
砕音がヒドイ目にあうかどうかは、生徒たちにかかっています。