なし

　表通りは煉瓦の洒落た建物が軒を連ね、富裕層が住み。
　裏通りに入るに従って、家は素朴に、その暮らしぶりも慎ましやかになってゆく。
　ヴァイシャリー近くにあるラテルはそんな街でした。
　地球との交流が始まってから、ヴァイシャリーは急速に発展をしてゆき、その物品はラテルにも流れ込んできています。けれど、ラテルにはまだ電気すら来ていません。
　流れ込んでくる物品と昔ながらの暮らし。ラテルはその２つが同時に存在している街なのでした。

　この街に絵本図書館ミルムが開館して、もうすぐ４ヶ月。
　そんな短い期間に、ミルムに集う人は図書館を変え、そこに集う人の心を変え、その動きは図書館のみならず、街にまで広がりました。
　人の思いの力、そしてそれを行動に移した皆の力によって、多くのものが変化を遂げたのです。

　その物語も今回でひとまずの終わりを迎えます。
　最後の回は……世知辛くも現実的な問題……運営資金に関わる話です。
　
　
　リッツォ家の若奥様、ソフィアからの定期的な資金援助の申し出がありました。ミルムを見て気に入ったら、という話ですけれど、もしうまく行けばミルムの運営はずいぶん楽になるでしょう。

「折角の申し出だから、ソフィアさんにミルムの見学に来てもらおうと思うの。その時に出来れば、絵本の世界のようなお茶会をしたらどうかと思うのよね」

　絵本図書館を見てもらい、その上で印象を良くするためのお茶会が出来たら、ソフィアの気持ちも援助に動くのではないだろうか、というのがサリチェの考えです。
　子供っぽい処のあるというソフィアですから、絵本のお茶会を喜んでくれるのではないでしょうか。

「ただちょっと……心配なこともあるの。今、ソフィアさんはあまりご機嫌麗しいとは言えないのよね……」
　旦那様の母親との仲があまりうまく行っていないようで、ソフィアはふさぎ込み。こんな状態でお茶会を楽しめるかどうかは心配なところです。
「原因は、産まれてくる子供に対しての、ソフィアさんとお姑さんの考え方の違いにあるみたいなの」
　ヴァイシャリーにある百合園女学院に入りたかったけれど、両親が許してくれなかった、というソフィアは、赤ちゃんができたと知ると空京にまで行って、性別を調べてもらいました。
　お腹の子が女の子だと分かると、この子は百合園女学院に入れるのだとソフィアは言い張りました。姑はラテルでつつましやかに育て、良き跡取りとなる夫を取らせるべきだ、と言い張り、衝突しているのです。

「お姑さんは厳格で保守的な人だから、珍しいもの、新しいことはお好きじゃないの。そんなことをしたら子供が笑われたりしないか、世間はどう思うか、に重点をおいた考え方をする人よ。厳しく育てたはずの息子さんが、大人しいのんびり屋さんになってしまった為に、お嫁に来たソフィアさんに家を守るしっかりした要になって欲しいようだけど……」
　ほわっとしたソフィアにそれを要求するのは酷かもしれない。

「それともう１つ……空京で漢字を見て気に入ったソフィアさんが、漢字で子供の名前をつけたい、と言いだして、街の人が読めないような名前をつけても困る、というお姑さんと争っているの。それも結構難しい漢字で……ええっと、確か私もお土産にもらったはずだけど……」
　サリチェは引き出しを探り、ハンドタオルを取り出しました。
「この文字よ。よろしくお願いします、と頭を下げる美しい挨拶の言葉なんだ、ってソフィアさんは言ってたわ」
　サリチェが広げたハンドタオルには、墨痕淋漓と、『　夜　露　死　苦　』の４文字が描かれていたのでした……。

　
　みなさま、こんにちは。桜月うさぎ（さくらづき・うさぎ）です。

　絵本図書館ミルムもこれで最終回となります。
　最終回、と思うと、感慨深くもあり寂しくもあります。
　これまで関わってきて下さった方、そしてこれまで関われなかったけどせめて最後だけは〜、という方、ぜひご参加下さいませ。
　学校外の話なので、学園による制限等はありません。初心者さんも玄人さんもお気軽に〜、なシナリオです。

　ソフィアについては、番外編の一番最後にちらっと、どんな雰囲気の女性なのかが載っています。
　お姑さんは厳格な昔気質の人で、ソフィアのことを頼りなく思っているようです。
　ソフィアの機嫌が良くないままでも、見学とお茶会が大成功すれば資金援助は成せるでしょうけれど、できれば最後はみんなにこにこと……といけるといいなぁと思ってます。

　では、みなさまのお越しを絵本図書館にてお待ちしております。
　

・絵本図書館ミルムをソフィアに案内する

・絵本のお茶会に参加する

・ソフィアに会いに行く

・ソフィアの姑に会いに行く

・それ以外のことをする