プリッツ・アミュリアは、ツァンダ郊外にあるとある村に住む少女です。幼い頃に母親を亡くした彼女は、父親であるラッド・アミュリアに育てられながら、二人で平和に暮らしています。
父親のラッドは亡くなった母親の代わりに立派に育てようと、必死で炊事洗濯を勉強したものです。もちろん、プリッツも手伝って……。今では、立派に家事をこなすようになったラッド。プリッツはそんな一生懸命な父親を誇りに思っています。
「お、今日も、あそこに行くのか?」
「うん。ちゃんとお手入れしないとね。あそこだけは、枯らすわけにはいかないんだから」
ラッドに別れを告げたプリッツは、自慢の金髪を束ねて麦わら帽子を被り、近くの森へと向かいます。
やがて辿り着いたのは、見事なまでのお花畑。
ここは、誰にも知られていない秘密の花園。プリッツの母親が残した、美しい景色です。
「よっし、頑張ろうー!」
プリッツは気合を入れると、早速花の手入れに取り掛かりました。
「んあぁ……疲れたぁ」
土だらけになって汚れた身体を放り出し、プリッツは地面から飛び出したこぶ岩の上に座り込みます。
プリッツは胸元のロケットを開きました。そこには、彼女と父親のラッド、そして母親の三人で写っている写真が挿し込まれています。
「母さん、ほら、もうこんなに育ったよ」
母親が生きていた頃よりも立派になった花畑を見て、プリッツは誇らしげに呟きます。
すると、その目の前に白いものが飛び出してきました。
「な、なに……!?」
プリッツがその姿を明確に確認する間もなく、白い影はロケットを弾くように奪います。地面に降り立ったその白い影は、愛くるしいウサギでした。プリッツも普段なら可愛いがるところですが、今回は違います。なにせ、母親の形見であるロケットを取られたのですから。
「ちょ、ちょっと……!」
プリッツが立ち上がると、ウサギはビクっと反応して駆け出しました。
もちろん、追いかけないわけにはいきません。ウサギの逃げた先へと、プリッツもまた駆け出しました。
ウサギが逃げ込んだのは、何の変哲もないほら穴でした。
プリッツはきっと袋小路になっているだろうと、ほら穴へと駆け込みます。しかし、そこにウサギの姿はありません。
「そんな、でも、こっちに……」
そう、確かにプリッツは、ウサギがほら穴へと逃げ込んだのを目撃しているのです。
そう広くもない空洞で、プリッツは呆然と辺りを見回します。すると、僅かな隙間に気が付きました。それは、ちょうどウサギ一匹ぐらいの動物が入り込めるような隙間です。
もしかして、ここに……?
プリッツはまさかと思いながらも、隙間の中へ手を伸ばしました。
プリッツは眉をひそめます。奇妙なことに、隙間の中は想像していたよりも人工的なのです。プリッツが手探りで中を探していると、その手の先が奇妙な凹凸に触れました。すると、軽く力を入れただけで、ガタン! と何かがはめ込まれたような音がしました。それと同時に、ほら穴の壁は地震でも起きたかのような崩壊の音を鳴らします。
「な、なになになになにぃっ!」
すぐに手を引っ込めたプリッツの目の前で、ほら穴の壁が隙間を中心として扉のように開きました。
なんと、開かれた壁の先には地下に続く階段が。そして、そこにはウサギがいたのです。
「あー! あなた……!」
プリッツがウサギに気づくと、ウサギもまた彼女の声に驚いて階段の先へと逃げていきました。
プリッツはすぐに追いかけようとしましたが、耳を澄ませば階下からは不気味な声が聞こえてきます。それは、まるで腹の底まで響くような唸り声です。プリッツは身震いしました。
まさか、モンスター?
いずれにしても、未知の地下迷宮です。このまま一人で突っ込むにはあまりに危険すぎます。
考えを巡らせて、プリッツはふと思い出しました。そういえば、ここツァンダには、蒼空学園という学校があったはず。そこに頼めば、もしかしたら――。
プリッツのお宝を取り戻すには、皆さんの協力が不可欠です!
どうか、彼女を助けてやってください!