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【カナン再生記】黒と白の心(第2回/全3回)

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【カナン再生記】黒と白の心(第2回/全3回)

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シナリオガイド

石像奪還計画――砦攻めへの進軍が始まる!
シナリオ名:【カナン再生記】黒と白の心(第2回/全3回) / 担当マスター: 夜光ヤナギ

「シャムス」
 心地よい音色のような声に呼びかけられて、シャムスはいつものように振り向きました。
 身体は汗でびっしょりです。今日も剣術と弓術の稽古。いつものようにノルマをこなし終わったところでした。
「なに? 父さん」
「いいか……この世で大切なのはな、絆だ」
 シャムスの父――南カナンの地を治めるシグラッド・ニヌアはそう言うと、屈託のない笑顔で息子の頭にぽんと手を乗せました。
 子どもだったシャムスには、それがとても大きな手に見えました。すっぽりと、自分の頭を覆ってしまうのです。
「絆?」
「そう……絆だ。俺とお前の絆。母さんとお前の絆。そして……エンヘドゥとお前の絆だ」
「…………」
 シャムスは、父の言葉を考えながら父を見返していました。
 子どもの彼には、難しすぎたのだろうか。そんな風に思って、シグラッドは豪快な笑みを浮かべます。
「はははっ! ……まあ、まだ分からなくてもかまわん。いずれお前にも分かる時がくる」
「絆……」
 シャムスは、再び父の言葉を考え込みます。
 すると――突然、目の前は真っ暗になり、彼の前方で何かが振り向きました。
 それは、双子の妹でした。名前はエンヘドゥ。女の子らしいとても可愛らしい笑みで、彼女はシャムスを見つめていました。
「エンヘドゥ!」
 真っ暗になった世界に戸惑いながらも、シャムスは彼女に声をかけ、そして駆けよりました。
 しかし、まるでそれがスイッチになったように。
「エ、エンヘドゥ……?」
 エンヘドゥの身体はしだいに灰色の石へと変化していき……やがて全てが石化してしまいました。
 そして――
「ねぇ…………ほんとはわたしなんていらないんでしょ?」
「…………!」
 真っ暗だった世界は、彼女の悪魔のような微笑で消えたのでした。

「…………ッ!」
 シャムスが起き上がったとき、そこは勝手知ったる自分の部屋でした。
 びっしょりと濡れた背中。しかし、それは夢にうなされたことによる寝汗だとすぐに分かりました。
 なんという夢なのでしょう。まるで、幸せと不幸が混ざり合ったような奇妙な夢。
 エンヘドゥの微笑が、いまだに自分の頭の中にこびりついていました。
「――ムス様」
 あれは……あの微笑の意味は一体……。
「……シャムス様……シャムス様?」
「……!」
 声をかけられたことに気がついて、シャムスははっと横を向きました。
 扉の前には、ロベルダが怪訝そうな顔で彼を見つめています。
「うなされたような声が聞こえたのでお邪魔したのですが……いかがなさいましたか?」
「いや……何もない」
 シャムスはロベルダに呟くよう返答して、自分の着替えに移りました。
 ロベルダは、部屋を出ていく前に心配そうにもう一度シャムスを見やります。
「大丈夫だ、ロベルダ。……本当に、本当になんでもないんだ」
 それでもやはりロベルダは腑に落ちない顔でした。
 しかし、そこはやはり執事です。ロベルダは、主人が言うのであればと頭を下げると、シャムスの部屋を後にしました。



 砂漠の空を飛ぶのは小型飛空艇であり、砂上の大地を駆けるのは馬でありました。
 南カナンの地へと集まるのは、各地より集められた兵士や志願兵。そして、シャンバラよりやってくる援軍の数々です。
 戦いへ向けた空気が漂う中で、荒野と砂漠しかなかった大地にわずかな開拓の原型が見え始めています。街の住民も活気を取り戻しつつあり、来たる戦の日に備えているのでした。

「陽動?」
「そうです」
 シャムスに怪訝な声をかけたのは、わずか10歳程度にしか見えないカナンの豊穣の女神イナンナでした。
 彼女に返事を返して、シャムスは机の上の駒を動かします。
 同時に、ニヌアに残るシャンバラの勇士やロベルダがその駒に目を移しました。
「ただ砦を攻めるだけでは、敵を倒すことはできません。まずは人質――エンヘドゥを奪還しなければオレも兵士たちも自由に攻撃をすることができない」
「だから、ある程度の戦力で敵の気を引く間に、別の部隊が石像を取り戻すの?」
「……その通りです。部隊は二つに分かれます。陽動部隊と奪還部隊。オレが目立った行動をすれば、エンヘドゥはすぐに利用されてしまうかもしれません。オレは……奪還部隊で動きます。イナンナ様には、陽動部隊をお願いしたいのです」
「…………」
 イナンナは、考え込むようにしばらく口を閉ざしました。
 やがて、その小さな唇が返事を返します。
「そうね。“攻め”への象徴としても、あたしが前線に立つ方がいいのかもしれない。……陽動は、任されたわ」
「わたくしも、ついていますわ」
 と――イナンナたちの目は、穏やかでありながらも凛とした声を発する女性に向けられました。
 そこにいたのは、かの一匹狼の空賊、フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)の5000年前の祖、ユーフォリア・ロスヴァイセでした。
「陽動部隊にイナンナ様だけではなくわたくしもいるとなれば、より大きな陽動効果が得られると思いますわ」
「ありがとうございます、ユーフォリアさん。わざわざ援軍を送ってくださるだけでなく、自らも戦地に赴いていただけるとは……」
「気になさることはないですわ。いつの時代であろうとも、わたくしの使命は変わりません。……それがシャンバラであろうとカナンであろうとも。わたくしの力がお役に立てるのであれば、尽力を尽くさせていただきますわ」
 ユーフォリアはそう言って、穏やかに微笑んでみせました。
 ユーフォリア、イナンナ、シャンバラの勇士たち、そして我が南カナンの民。シャムスにとって、皆が心強い味方でした。
「シャムス様、準備が整いました」
 話し合いの最中、部屋に入室した兵士がシャムスにそう告げました。
「いよいよか……」
 シャムスは呟きます。
「そうね」
 それに答えるのは、イナンナです。
 彼女の真摯な瞳が、シャムスを見つめていました。
 自分のために戦地に赴かせてしまう。そんな心配そうな色がイナンナの顔に浮かんでいます。
「……覚悟は決まっております」
 だから、シャムスはイナンナに向きなおりました。そして決然とした顔でイナンナに笑ってみせます。
「そんな顔をしないでください。これは……オレたちの戦いでもあるのです。オレたちが、自分たちの居場所を取り戻すための戦いなのです。そこには、オレたちの誇りと信念があります」
 そう。だから、彼らは立ちあがるのです。
 エンヘドゥを救うため、そして、南カナンの地を取り戻すため。
 立ちあがったのはシャムスだけではなく、その地に住む人々、その地を愛する者たちです。
 そして、その思いに応えようと、遠くシャンバラの地からも。
 シャムスの真っ直ぐな瞳に、イナンナはそれ以上何も言いませんでした。
 漆黒の鎧を身に纏って、ロベルダとイナンナとともに、シャムスは居城から姿を見せました
 領主を見た兵士たちは、士気を高めるような盛大な歓声をあげます。
「皆の者よ!」
 水を張ったように、シンと静まる兵士たち。
「……戦いのときはきた」
 シャムスの声は、兵士たちの間に響き渡りました。
「あの日、あの時、我らはネルガルの支配に敗北した。しかし、今一度立ちあがるときがきたのだ。砦にあるとされるは、人質となった我が双子の妹エンヘドゥである。だが、これは逆に好機。エンヘドゥを救い、そして砦を壊滅させ、我が南カナンをまずは解放する!」
 兵士たちは、高揚と興奮の声をあげます。
 戦いが始まる。まずは『神聖都の砦』。今こそ、敵にひと泡を吹かせてやる。
「南カナンを、そして、あの美しきカナンの姿を、我らの手で取り戻すのだ!!」
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!」
 兵士たちの雄叫びのような声が、戦いの鐘となったのでした。



「そうですか……南カナンの方々が」
「はっ……! いかがいたしましょうか?」
「そりゃあ、攻めてこられるのでしたら反撃しなくてはいけませんよ? チェスでも動かなければ負けてしまいますからねぇ」
 不気味に笑うモートは、それ以上何も言いませんでした。
 つまり、「敵の攻撃に備えて反撃の準備をしろ」という命令か。モートの性格をそれなりに知っている部下は、そのように解釈して、丁寧に会釈するとモートの部屋から退室していきました。
「チェスの駒ですか。実にあなたらしいですね」
 すると、部屋の隅から、いつの間にいたのか女神官が姿を現わしました。アバドン――ネルガルに仕える女神官が現われたことに、モートはさして驚きの様子を見せません。
「いらっしゃっていたのなら、一言申し上げて下さればよろしいものを……いやはや、趣味が悪いですねぇ」
「あなたに言われたくありませんね」
 一応は部下という立場とはいえ、何を考えているか分からぬ男。アバドンは注意深く相手を見ながら、続けて告げました。
「しかし……本当に大丈夫なのですか? 南カナンは一度破られたとはいえ軍事力は計りしれません。手立てはあるので……?」
「それはもちろん。知っていますか、アバドン様? 人の心は強き者ほど殻が壊れてしまっては脆いものですよ? ひゃひゃひゃ……例えば、双子の絆などはねぇ」
 腐ったような声。アバドンの顔は自然としかめられました。
 だが、それ故に……頼もしくもあります。
「ネルガル様も心配はしておいでですが、あなたを、ひいては私を信頼して南カナンを一任しております。なにせ、最近では各地で多くの反乱が起きているものですから……そちらでも手を焼いているのです」
「東と西ですか? そういえば、東のバァルさんは面白い方でしたねぇ。あの方の目は私、好きですよ?」
「バァル様ですか。反乱軍との戦いへ向けて進軍されたようですが、果たしてどうなるものか」
 龍の逝く穴より強力な竜を連れてきたのは良いが、結局はバァル自身にかかっていると言っても過言ではないのでしょう。モートではありませんが、人の心はやはり脆きもの。
 アバドンも心中穏やかではいられませんでした。
「いずれにしても……お任せしましたよ、影の魔女」
「ひゃひゃひゃ。お任せくださいませ。こちらには最強の駒があるのでねぇ」
 モートは水晶化されて人形のようになった少女を指先でひょいとつまみあげました。
 盤上に置かれるであろうその駒はキングかナイトか、あるいはクイーンか。それは、アバドンですら分からぬことでした。

 ついに南カナンは『神聖都の砦』を攻めるため進軍! 泉美那――いや、エンヘドゥの運命は? 歯車となるのは、あなたです!

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

初めましての方は初めまして。
そうでない方はお世話になっております。
雪合戦しようと友人に言ったら一人でやれと言われた哀しきMS、夜光ヤナギです。

【内容補足】
今回のシナリオは、【カナン再生記】南カナンのメインストーリーとなっております。
少しばかりのコメディは許容範囲内ですが、コメディのみで貫きとおすことは難しいのでご了承ください。

●神聖都の砦について
今回、神聖都の砦は臨戦態勢をひいております。
戦いに向けて敵もすでに準備を整えており、数々のモンスターも砦を護っております。
主にサンドウルフ、サンドワーム、ゴーレム、シャドーの4種です。
兵士は上級兵になるほど鎧の装甲が上がっております。
また、弓兵と魔法使いも兵として参加しているため、敵も遠距離攻撃を仕掛けてくると思われます。
魔法使いはあまり芸に凝った魔法が使えないようで、ポピュラーな攻撃魔法(炎術、氷術、サンダーブラストなど)を使用してきます。威力はさほどですが、その代わり敵は部隊編成と詠唱速度が高いです。その点はお気をつけください。
また、砦は前回調査ではっきりとしたところ、基本的に城のような構造で城壁で守られており、4階まであるようです。

●サンドウルフ、サンドワームについて
砂漠と荒野に棲むモンスターです。
本来はむやみに人を襲うことのないモンスターですが、今回は様子が違うようで……目が闇色に光っており、非常に狂暴になっております。
サンドウルフは一般的な狼の風体ですが砂漠に適しており、砂の扱いが上手いです。
サンドワームは逆に巨大であり、人を丸のみすることが出来るほどです。
その点から考えれば、サンドワームは城の中には入らないと言えそうですね。

●ゴーレム、シャドーについて
モートの使役する魔法生物です。
ゴーレムは基本は人型を形成しつつも、土で出来ていますので、ある程度は砂地や土のあるところでは再生が可能です。
シャドーは決まった固形形態を持たず、影そのものと言えます。
相手のモノマネをすることが得意で、目の前に立ちはだかる敵の動きをコピーしてしまう特徴が。
ゴーレムは魔法に対する適性が高く、シャドーは物理攻撃がまるで効きません。
どうやら彼らはモートに生み出された魔法生物であるため、モートのみに従うらしい。

●モートについて
ネルガルの配下である男の魔女です。
ローブを身に纏っており、常にフードを眼深く被っています。
人の憎悪や嫉妬がうずまくことが大好きであり、小馬鹿にしたような笑いで人の神経を逆なでします。
エンヘドゥを水晶化させたことで、黒水晶を失っている状態。

●NPCについて
【シャムス】
南カナンを統治する若き領主。
漆黒のフルプレートメイルを身に纏っていることから、“黒騎士”の異名で知られている。
正義感が強く男義にあふれているが、融通がなかなか効かない頑固な性格でもある。
常に漆黒の兜をかぶっていることから、その素顔を見た者はほとんどいない。
【エンヘドゥ】
泉美緒の妹、泉美那を名乗っていた。
しかし、その正体は南カナン領主シャムスの双子の妹、エンヘドゥである。
心優しくわけ隔てなく性格で民に慕われている。
【ロベルダ】
南カナンの領家に代々仕えてきた老執事。
シャムスとエンヘドゥのことを一番よく知る人物であり、自分の子供のようにも思っている。
語らずも、誰より二人にとって味方である老人。
【ユーフォリア・ロスヴァイセ】
名声高き一匹狼の女義賊フリューネ・ロスヴァイセの5000年前の祖先。
古王国時代に活躍した、ロスヴァイセ家の英雄であり、フリューネにとって憧れの存在。
ヴァーチャースピアとヴァーチャーシールドを持ち、ペガサスを駆って戦います。


※以上はアクションを考える上での参考情報です。あくまで参考となるものなので、必ずしもMCやLC自体がそれを知っている前提でなければならない、ということはありませんのでご安心下さい。(もちろん、周知を前提にされても結構です)

▼サンプルアクション

・陽動部隊として敵の気をひく

・シャムスと石像を奪還する

・モンスターと戦う

・拠点で働く

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2011年01月31日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2011年02月01日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2011年02月05日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2011年02月21日


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