なし

　とある冬晴れの日の空京市内―。
「きゃ！」
　走っていた矢上チェリッシュは石につまづいてずさっと転んでしまいました。
　すぐに彼女は起き上がりましたが、両目をうるうると潤ませています。
「っ……チェリッシュ、泣かないもん」
　そして立ち上がった彼女は、前方に見知った顔を見つけて声を上げました。
「あー！　カナお兄ちゃんだー！！」
　先ほどまでの泣き顔はどこへやら、すっかり笑顔になっています。
　思いがけず指をさされた由良叶月（ゆら・かなづき）は苦い顔を浮かべました。
「ぁー……また迷子になってるのか、お前」
　と、チェリッシュの前で立ち止まります。
「まいごじゃないもん！　今日はね、ヴュレーヴの花をさがしてるの」
「何だ、それ。お前一人で探してるのか？　どこにあるかとか、ちゃんと分かってるんだろうな？」
「ううん、知らない」
　と、首を左右に振る少女を見つめて、彼は溜め息をつきました。
「で、どこに行こうとしてたんだ？」
「まちの外にある森だよ。ヴュレーヴの花のにおいをかぐとね、勇気がでてくるの。チェリッシュね、それでお兄ちゃんにこくはくするの」
「ふぅん……まじないみたいなものか？」
「ちがうよ、本当に勇気をくれるんだよ！」
　少女の瞳はまっすぐでした。
　今日の叶月の予定は「空京のジャンクショップで趣味を楽しんだ後、ツァンダの自宅で恋人の松田ヤチェル（まつだ・やちぇる）が来るのを待ち、彼女の作った夕食を一緒に食べる」というものでした。
　本来なら他の用事をする暇などないのですが、チェリッシュは幼い頃のヤチェルにそっくりなアリス・リリです。別人だと分かってはいても、心配性の叶月が彼女を放っておけるわけがありません。
　叶月は再び溜め息をつくと、チェリッシュの頭に手を載せました。
「分かった。お前が迷子になったら気分悪いし、付き合ってやるよ」
「本当に！？　ありがとう、カナお兄ちゃん！」

　ヴュレーヴの花はその昔、冬になるとあちらこちらで見ることができました。そのため、バレンタインデーである２月１４日には恋人たちが互いに花を贈り合うという習慣も存在し、花の力を借りて関係を進展させていったのです。
　しかし環境の変化によって、現在では森の奥へ行かないと見られません。
　しかもヴュレーヴの花が咲いている周辺には魔物の住処があります。あまり騒々しくすると魔物たちが目覚めてしまいます。
　かよわい女の子や小さな子どもだけで行くには、とても危険です！

　バレンタインデー間近のこの季節、ヴュレーヴの花の力を借りたいと考える人たちは多いでしょう。
　チェリッシュのように片想いをしている人はもちろん、両想いの人は相手と進展するためにヴュレーヴを探し求めます。
　叶月は興味なさそうにしていますが、実はヤチェルとの関係がまったく進んでいないことを気にしていました。キスはおろか、未だ手をつなぐことさえ出来ずにいるのです。
「花が見つかったら、どうするんだ？」
「お家にかえってお兄ちゃんに大好きだよってこくはくするの。カナお兄ちゃんは？」
「え、俺？　俺はー……彼女の気持ちに、素直に応えたい」

2012年2月10日：追記
公式ＮＰＣについての説明を追記致しました。


バレンタインデー後のチョコレートの安売りに期待。
どうも、瀬海緒つなぐです。

今回は恋愛シナリオです。
森の奥へ行ってヴュレーヴの花を見つけ、恋愛を進展させよう！　というものです。
どちらかというと片想い向けですが、両想いの方も大歓迎です。
ヴュレーヴに関係なくいちゃつくことも可能ですので、お気軽にどうぞ。

＜目的について＞
「花を見つける」ことが本来の目的ですが、今回はその後の
「勇気を出して告白する」等の描写も、希望があればリアクションに書かせていただきます。
ぶっちゃけダブルアクションですが、バレンタインデーなので気にしません。
従って、文字数確保用のＬＣ追加はＯＫです。

＜魔物について＞
熊型と蛇型がいます。
冬眠から覚めたばかりなので寝ぼけているかもしれません。
はたまた、睡眠を邪魔された怒りで暴れまくるかもしれません。
いずれにしても注意しましょう。

＜その他＞
叶月はチェリッシュの護衛です。主に魔物と戦うことになるのはこの人。
チェリッシュはいつもどおり、森の中で迷子になります。ひたすら我が道を突き進みます。
ツァンダで買い出しをしているヤチェルに絡むことも可能です。
その他、公式ＮＰＣは一切呼べません。瀬海緒のＮＰＣは希望があれば登場させられますので、その旨を明記してください。


それでは、よいバレンタインデーをお過ごしください。

・ヴュレーヴの花を見つける

・護衛する

・花に頼らず勇気を出す

・恋人に花を贈る