なし

「魔法……少女？　代々──ずっと？」
　
　中庭のベンチで出会った少女は、夏來　香菜（なつき・かな）の呟いたその問いに、小さく頷きました。
　いや、出会ったというのには些か語弊があるでしょう。なぜならその少女は香菜と同じく新入生で、やはり同じクラスメートだったのですから。

「はい。これが我が家の務めだ、って。鏖殺寺院や、悪い人たちや。そういう危険からご町内の人々を護るのが使命だって、昔から言われて育ってきたんです」
　
　少女の名前は、詩壇　彩夜（しだん・あや）。香菜が見つけたそのとき、彼女はベンチに座り、深々と溜め息を吐いていました。

「もしものときのために備える。その力を持ち続ける。そのための一族だっていうのはわかるんです。でも、今は国軍の人たちだっている。この学校だけでもわたしよりずっと強い力を持ってる人たちもたくさんいるわけじゃないですか」
「それは、そうかもしれないけれど」

　なにも、わたしがやらなくても。わたしにだって、もっと他に夢があるんです。やりたいことが、あるんです。彩夜はそう言って肩を落とします。
　また、ため息。そしてその左手に巻かれた包帯を彼女は、ぎゅっと握りしめます。

「その怪我は？」
「昨日、夜に。……変な人がいたのを、止めようとしたら。わたし、運動音痴ですから」

　──と。

「！？」

　地響きが、二人の足元を、そして中庭を流れていく風を爆音とともに揺らしました。

「な、なにっ！？」

　遠くのほうに、煙が上がっているのが見えます。そして周囲に警報が鳴り響きます。
　研究棟の爆発。警報に混じって聞こえてくるアナウンスが告げるのは、爆発物への注意の喚起を促すものでした。
　爆発物……そう、爆弾。研究施設を狙った、爆弾テロ。
　更に──……、

「え、ええっ！？」

　思わず立ち上がったふたりの前に巨大な、無数の動物が混じりあったような奇妙な生物が降り立ちました。
　統一感もなにもなく。ただ闇雲に猛獣たちの特徴を混然としたようなその胸元には、知る者ならば知る印象的なエンブレムが刻み込まれています。
　古きものたちを滅ぼし、今なお存在し続ける──そう。それは鏖殺寺院の紋章です。

「あれは──まさか。鏖殺寺院の合成獣……？」

　さあ、皆さん。隠された四つの爆弾と、狂暴な合成獣から学園を守ってください。

　ごきげんよう。ゲームマスターの６４０です。今回は蒼空学園研究施設を狙って、鏖殺寺院が襲撃をしてきます。
　学園所属の皆さんが敷地内外にいるタイミングで、他校の皆さんもそれぞれの所用で蒼空学園に訪れている。状況としてはまさにそのとき、事件は勃発します。
　鏖殺寺院の使った手段は主に二つ。蒼空学園のどこか、四か所に設置された爆弾による無差別爆破。そしてもうひとつが鏖殺寺院の持つ生物合成技術によって生み出された、複数体の合成獣（キメラ）を使った破壊活動です。
　皆さんには合成獣たちの迎撃と、爆弾の捜索・解除を中心に行動してもらうことになります。
　爆弾の場所を探し、それを止めるために香菜が協力をしてくれ、また今回初登場のＮＰＣ・詩壇　彩夜は突然の出来事に戸惑い、自分が弱音を吐いたせいだろうかと動揺しつつも、委員長肌の香菜から指示を受けて合成獣たちの迎撃へと向かいます。
　彩夜の家系はシャンバラ人の血を受け継いでおり、代々鏖殺寺院と密かに戦うことを義務付けられてきた血筋です。
　ですがそれゆえ幼い頃から生傷が絶えず、彩夜自身は自身のやりたいこと──平穏な生活と、将来の夢と──と義務付けられたつとめとの間にあるギャップにうんざりして滅入ってしまっています。入学はしたものの、魔法戦技術を磨くことや実戦にもどこか積極的にはなれないようです。
　しかし、彼女の代々受け継いできた知識と力はこの騒動の終結にきっと役に立つはずです。彼女と力をあわせることができれば合成獣たちの弱点である背骨の細胞安定装置の位置をはじめ、様々な知識や情報を得て戦いを優位に進めることができるでしょう。彼女が自分の役目と力に前向きになることができるよう、あるいはやさしく、あるいは厳しく。それぞれ、手伝ってあげるといいかもしれませんね。
　また、彩夜は本年度の新入生ですので、初対面の方も多いと思います。初見の先輩として接して頂いても、知り合いとして接して頂いても構いません。

　なお、今回は事態が事態ですので、夏來　香菜へとニルヴァーナのこと、探検隊のことを訊いても答えてはくれませんのでご了承ください。
　それでは皆様の参加をお待ちしております。

・合成獣を迎撃する！

・爆弾を探し、解除する！

・合成獣からパートナーを護る！