星野夢美は恋する16歳。
最近は、隣の席の福山君にラブラブです。
けど、福山君はとってもクールでなかなか本心を明かしてくれません。
誰にでも優しくて、夢美にも優しいけど、本当は誰の事が好きなのか分からないのです。
それで、夢美ある日決心しました。
夢見が得意な手作りクッキーに、とある魔女からもらった『魔法の薬』を入れて、福山君の本音を引きだそうと思ったのです。
そして、ついに完成させました。
本音を引きだす星の形のクッキーです。
さて、ちょうどその頃蒼空学園では舞踏部主催で仮装舞踏会が企画されていました。
仮装舞踏会とは、その名のとおり仮装してダンスを踊るパーティーの事です。
会場は、特別にツァンダ市内のお金持ちの広間を借りられる事になり、蒼空学園の生徒はもちろん、他校からもさまざまな人が訪れ、会場の広間は華やかに盛り上がっていました。
夢美ももちろん参加します。
だって、大好きな福山君も参加するんだもん。
仮装舞踏会の当日、夢美は子供の頃から大好きな小説『小公女』のヒロインの『落ちぶれた後』のコスプレをしてルンルン気分で走って行きました。
「もう、夢美ったらドジなんだから。こんな大事な日に遅刻なんて!」
夢美は舌をぺろりと出してつぶやきます。
その手にはクッキーを詰めた袋を持っています。
実は、夢美は一大決心をしていました。
今日の、パーティーが終わるまでに、福山君を呼び出してこのクッキーを食べさせて、本音を引きだそうと思っていたのです。
でも、ホントいうと怖くて仕方ありません。
万が一福山君に他に好きな人がいたらどうしよう……でも、
「コラ、夢美! そんなに臆病じゃ、幸せはつかめないぞ!」
夢美は頭をコツンと叩いて自分に言い聞かせました。
「心配しなくても大丈夫! クッキーはたくさんあるんだから」
量の問題ではないと思うのですが、夢美はそう言って勇気を奮い立たせたのです。
その時。
いきなり、どこからか台車が突進してきました。
「うおう!」
思わずガニ股で避ける夢美。
しかし、そのショックでクッキーを入れた袋を落としてしまいます。
ガッシャーーーーーン!
ものすごい音をたてて台車が倒れました。
その拍子に台車の上に置いてあったフルーツがみんなばらけてしまいました。夢見のクッキーもその中に混じってしまいます。
「ああ! 夢美のクッキー!」
青ざめる夢美。クッキーを回収しようとしたその時、背後から一つの陰が近づいて来て言いました。
「そこの女中!」
振り返ると、恐ろしい形相の中年女性がこちらを見おろしています。
「こんな所で、何をしているの? お前達の持ち場は台所のはずよ」
どうやら、夢美の服装をみて女中と間違えたようです。
「あの。私は女中じゃなくて、パーティーに来た生徒なんですけど……」
夢美はおずおずと言いました。
すると、中年女性はさらに恐ろしい形相で言いました。
「まあ、口答えするとは随分偉くなったものね。でも、そういう事は、死んだ父親の借金を返してから言ったらどうなの?」
「あの、私のお父さん、まだ生きてるんですけど……」
「いいから、さっさと台所にお帰りなさい。それから、セバスチャン、お菓子を元通りにして、早くお客様のところに運んでちょうだい」
「はい、奥様」
セバスチャンは答えると、夢美のクッキーの入った袋ごと台車を会場へ運んでいってしまったのです。
「ああ! 夢美のクッキーが!」
夢美の目から滂沱の涙が流れました。しかし、無情にもクッキーは会場に運ばれてしまったのです……