なし

　ここはアトラスの傷跡。
　夜空に、星がひとつ増えました。

――それは愛涙（あいるい）の島と呼ばれる、すでに消滅した浮遊島の、幻影でした。

「うへへっ。今日もガキどもがよく売れたぜ」
　鏖殺寺院の奴隷商人たちが、アトラスの傷痕を渡っていきます。
　彼らの目に映るのは、手にしたばかりの札束で、星空の変化にまったく気づいていません。
「ちょっと待て。あそこに誰かいるぞ」
　商人のひとりが、立ち止まって言いました。
　彼が指さした先には、背中に翼の生えた美しい少女が、うずくまって泣いています。
「見ろよあの羽……。３対で、しかも金属製だぜ」
　奴隷商人たちは、すぐに少女を取り囲みました。
「間違いねぇ！　こいつぁ、滅びたはずの熾天使だ！」
「ははっ！　サイコーの拾いものだぜぇ！」

　狂乱する彼らでしたが。
　そのとき、雲海が禍々しくゆらめきました。
　雲が凍結し、鋭い氷の槍となって大量に降りそそぎます。
　グサリ。グサリ――。
「あっ……」
　悲鳴を上げる間もなく、氷の槍が奴隷商人たちを貫いていきました。


　翌朝。
　一匹のドラゴンが、血の海で泣き崩れる少女を見つけました。
　ドラゴンは羽を差し出し、少女を背中に乗せます。そして、竜哭（りゅうこく）の滝にある巣まで連れて行きました。
　少女はいっこうに泣き止みません。
　でも、彼女はドラゴンの言葉を理解できるようです。怖がることなく、身を委ねます。
　いつしか少女は、親身になってくれるドラゴンを、愛しはじめていました。


『熾天使の末裔がドラゴンに恋をした！』
　彼らの噂は、しだいに広がります。
　メディアもこぞって取り上げ、テレビドラマや小説など、さまざまな分野で作品化。パラミタでは【熾天使×ドラゴン】がちょっとしたブームになりました。
　作品の舞台になった場所へ、多くの人たちが訪れます。
　ところが。
　竜哭の滝の周辺には、氷の槍が次々と降りそそぐので、近づくことができません。
　人々は、不満と恐怖を募らせていきました。
――そして。噂はいつしか、このように変わっていったのです。
『熾天使の力を得たドラゴンが、人を襲う』



「……やっと思い出したわ。これって、星辰異常（せいしんいじょう）じゃない」
　ペガサスを駆りながら、フリューネ・ロスヴァイセ（ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ）がぽんっと手を叩きます。
　星辰異常。それは、消滅した浮遊島が幻影となって現れる、大変めずらしい現象でした。
　真相を突き止めるため、フリューネはアトラスの傷跡へと向かいます。
　彼女が見下ろした先には、周辺の町から有志を募ったドラゴン討伐隊が行進していました。
　さらに遠方の空からは。
　鏖殺寺院の構成員が、小型飛空艇に乗って押し寄せます。
「さすがに私ひとりじゃ無理ね。……みんな、力を貸して！」
　フリューネは、契約者たちに援護を求めました。


　一方そのころ。
「熾天使の恋よりも、オレには気になることがある」
　長曽禰　広明（ながそね・ひろあき）がアトラスの傷跡を登ります。
　この辺りから発見されたという、強いエネルギーを秘めた鉱物。
　通称・アトラスの瘡蓋（かさぶた）と呼ばれる天然資源が、テクノクラートを中心として話題になっていたのです。
「鏖殺寺院も動いてるみたいだし……早くしないとな」
　氷の槍をかいくぐり、彼は未知なる鉱石を探し求めました。

　水琴桜花です。
　よろしくお願いいたします。

　今回のシナリオでは、アトラスの傷跡全域に、異常気象が発生しております。
　ガイドにもあった『氷の槍』の他、弾丸のように鋭い雨粒、視界が完全に塞がれる濃霧がＰＣを襲います。
　これらの異常気象は、アトラスの傷跡にいるすべての人物へ猛威をふるいます。

　少女をかくまったドラゴンは、全長１０メートルほどで、よほどのことがない限り人間を襲わない温厚な性格です。　
　彼も氷の槍に襲われたため、翼を怪我しており飛べません。


●鏖殺寺院について
　彼らは二手に分かれて、アトラスの傷跡を襲撃します。

　上空からは、熾天使と噂される少女を奪うため、氷結耐性を施した小型飛空艇に乗った部隊が攻めてきます。ＰＣの氷結攻撃も無効となりますので、ご注意ください。
　飛行能力がなくても参加できますが、行動はかなり限られてしまいます。
　この戦いには、フリューネ・ロスヴァイセが同行します。

　地上からは、『アトラスの瘡蓋』を奪うため、強力な武器を持った部隊が攻めてきます。氷結への対策は特にとっていません。
　この戦いには、長曽禰　広明が同行します。


　また、たくさん赤い言葉が出てきて戸惑わせたかもしれませんが、下記にて説明するので、お目を通していただけると幸いです。


●愛涙の島について
　かつてパラミタの遠い空に存在した小さな浮遊島です。今回、アトラスの傷跡上空に、その幻影が現れました。
“星”の一つとし、古い記録に残っています。


●星辰異常について
　消滅した浮遊島の幻影が現れる、非常に珍しいとされる現象です。

　過去の記録によれば、『愛涙の島』の星辰異常が起きた場合、その島の生存者は情緒不安定になって泣きつづけるといいます。
　気象にも大きな影響をあたえ、強力な攻撃魔法に匹敵する天災が起こります。
　治療法は、島の生存者が愛するものに抱かれて眠りにつくこと、と記されています。


●ドラゴン討伐隊について
「ドラゴンが地元の人を脅かすので退治しよう！」と、地元の有志によって結成されました。
　あまり強くないですが、善良な人たちです。争いは避けたいところです。


●竜哭の滝について
　かつては滝が流れていたと噂される崖です。
　今では水がすっかり枯れていますが、崖の前で愛を告白すると、滝があふれ出るという伝説があります。
　竜哭の滝があふれれば、ちょうど討伐隊の進路を塞ぐことができます。

　ＭＣは、自分のＬＣに対して告白をすることができます。
　また、かつて私のシナリオに登場したＮＰＣを連れ出すことも可能です。面識がなくても大丈夫です（主なＮＰＣは、マスターページ下部を参照してください）。

　恋人への愛はもちろん、家族愛、師弟愛、略奪愛など、愛の種類は問いません。ギャグあり、シリアスあり、ほのぼのあり。
　限りなく欲望に近いものでも、本人が愛と主張するならＯＫです。


●アトラスの瘡蓋について
　赤黒い色をした、光沢のない鉱石です。
　プルトニウム２３９に似た、核分裂を起こす放射性物質が多く含まれています。人体へは、ただちに影響はないとされます。
　似た形状の鉱物がまわりにゴロゴロしていますが、それらには何の価値もありません。



　お読みいただきありがとうございました。
　本シナリオを要約すると、以下の３つになります。

・フリューネといっしょに、少女とドラゴンを守る（鏖殺寺院との空中戦）
・長曾根といっしょに、アトラスの瘡蓋を探す（鏖殺寺院との地上戦）
・竜哭の滝の前で、愛を告白する

　もちろん、上記以外のアクションも歓迎いたします！

　
　皆様の素敵なアクションを、お待ちしております。

・少女とドラゴンを守る

・アトラスの瘡蓋を採掘する

・竜哭の滝で愛を告白する

・人身売買ルートを探る