なし

　
　ある嵐の夜。
　一人、パラミタ内海まで遠出したその人魚は、波に揉まれた船が難破する場面に遭遇したのでした。

　必死に板切れに掴まる青年が、目の前で力尽き、波間に沈んで行きます。
　咄嗟、彼女は青年を抱きかかえて、近くの岸まで泳いで行ったのでした。

　青年にはまだ、息がありました。
　人魚は安心し、彼が目覚めるのを待ちました。
　ところが、その時、人の声と足跡が聞こえて来たので、人魚は咄嗟に、近くの岩陰に隠れました。
「あそこに誰かが倒れています！」
　声と共に走り寄り、何人もの人が青年を囲みます。
「しっかりして下さい！」
　青年は目を覚ましました。
　目の前には、美しい姫君が、心配そうに彼を膝の上に乗せています。
「おお……貴女が私を助けてくれたのですか」
　感極まる青年の言葉に、岩陰に隠れている人魚の胸が痛みました。
　助けたのはあの姫君ではなく、自分なのに……。


「そんなわけないでしょう」
　そこへ、冷静な否定の声が割って入りました。
「貴方は海で溺れたのですよ。
　我々はしっかり服を着て濡れてもいないのですから、明らかに違うと解るでしょう。夢見がちなのも大概になさい。
　さあ、怪我をしていないなら自分で立って歩いてください、エイリーク殿」

「ソルヴァルドの道楽息子は、凝りもせずに遊覧パーティーか」
　招待状の差出人名を見ただけで、エリュシオンのミュケナイ選帝神イルダーナは、その手紙を放り投げました。
「数ヶ月前に難破事故を起こしたばかりだというのにね」
と、彼の弟イルヴリーヒも呆れて肩を竦めます。

　数ヶ月前、ミュケナイ半島とその先にあるオタハイト島の間にある海峡で、船が難破する事故があり、イルヴリーヒは、ミュケナイ側から救助活動を指揮したのです。
　大多数を救助できたものの、犠牲者も出た悲惨な事故となったのでした。

「彼の新しい船の処女航海パーティーだそうだよ。
　それにかこつけて、どうも、射止めたい女性がいるらしい。
　流石に今度の船は、親がしっかり作らせたそうだけど。
　兄さんに招待状が行くくらいだから、まあ大丈夫なんじゃないかな」
「行く気か？」
「あんな事故を起こしてくれた後だしね。
　牽制の意味でも顔を出しておこうかと。兄さんは？」
「行くわけねえだろ」
　予想通りの即答に、イルヴリーヒは微笑しました。




　その日、豪華な客船の船上にて、パーティーが催されました。
「全く、馬鹿な妹」
　その船に乗っている末の娘を案じて、海の中から、人魚達が様子を伺っていました。

　人間に恋をして、声と引き換えに足を得て、エイリークの屋敷の女中となり、彼に気に入られて妹のように可愛がられているものの、恋が実ることはなく、彼女達の末の妹は、このままでは海の泡となって消えてしまうというのです。
「人間の為に海の泡になるとか冗談ではないわ。
　こうなったら私達の手であの男の心臓を一突きし、あの子にその血潮を浴びせてやるのよ」
　人魚達は、そんな物騒な相談をしていたのでした。

　
　このシナリオは、子供の頃読んだ有名童話のラストがむかついたので、あのラストを改変してやろうぜ、という内容のような違うような。


　高慢なことで知られる人魚達は、普段はローレライというミュケナイ・バージェス境の大河に生息していますが、末の妹が人間としてミュケナイ地方領主の女中となっているのを心配して、一時的に人間の姿になれる薬を入手して密かに船上パーティーに乗り込もうとしています。
　末の妹の思い人を殺して、彼女が海の泡となってしまう呪いから救い出そうとしています。
　ちなみに、人魚達は、もし上手くいかなかった場合、「この際、思い人じゃなくても適当にいい男ならいいんじゃね」という認識でおります。
　人魚達は全て、とてもレベルの高い歌姫です。

　人魚の末の妹は、アリーと呼ばれています。
　声と引き換えに人間になれる魔法の為に、話すことができません。
　１６歳程の少女で、オタハイト島の海辺で途方にくれていたところをエイリークに拾われ、彼の屋敷で、女中として働いています。
　アリーを含めたエイリークの屋敷で働いている者達も、今回の船旅に特別に招待されています。
（船内の従業員は別に雇っています）

　オタハイト島は、ミュケナイ半島に隣接する島です。
　地熱の影響で常夏の島ですが、エリュシオンにはリゾートやレジャーの習慣はありませんので、ただの常夏の島です。
　都市ミュケナイと海峡を挟んだ対岸にある、テ・ヘヌア・エナナがメイン都市であり、島にある火山の溶岩は「溶かせない鉱石は無い」と言われる、有数の鍛冶の町でもあります。
　反対側のパラミタ内海側には、美しい海岸が広がっています。ワイハというよりはタヒチなイメージです。

　テ・ヘヌア・エナナの領主ソルヴァルドは有能ですが、その息子は馬鹿息子、というのが、イルダーナ達兄弟の共通認識です。
　２０歳ほどで、顔はそれなりにいいです。
　エイリークは新しい船の処女航海パーティーを行います。
　オタハイト島を一周しながら、夜通し行われる社交パーティーで、舞踏会が行われたりご馳走が披露されたり、という表向きで口説きたい相手がいる婚活パーティーです。
　ちなみに島の外周を一周するのは一日では不可能で、スケジュールとしては、一日目から二日目がパーティーで、その後は普通に遊覧の旅、となる予定です。
　イルヴリーヒはパーティーのみ出席し、二日目の午後には船を下りて帰るつもりです。

　難破から助け出された時、エイリークの目には二人（というのも錯覚で実際は自分一人）の世界が広がっていましたが、実際は数人の人達に囲まれており、姫君と思ったのも救助活動に携わっていた女騎士（武装はしていませんでした）です。



　既出のＮＰＣは、とりあえずイルヴリーヒのみ登場予定です。
　一応他のＮＰＣはアクションをかけてくだされば出てきます。
　イルヴリーヒが口を利いてくれますので、船上パーティーにはどなたでも自由にご参加できます。
　イルヴリーヒとこれまで関わりの無い方も、どなたかに同行していた、等、いくらでもこじつけられますのでここを気にすることはありません。
　船内は、エイリークが見せびらかしたいこともあり、他の人が使っている個室以外、自由に散策できます。
　それぞれに客室も用意されています。
　人魚達の企みは知らないので、密かに入り込んでいることには気づいていません。
　が、まあその辺は細かく考えず、気楽にアクションをかけてくださればと思います。

　参照する必要のあるシナリオ等はありません。
　どなた様もお気軽にご参加くださいませ。

・船上パーティーに参加する

・客船の警備員として雇われる

・アリーと仲良くなる

・船には乗らずにオタハイト島のビーチで過ごす