なし

　ヴァイシャリー、人形工房。
　その日、クロエはテレビを見ていました。

「…………」

　豊浦宮のＣＭを、食い入るように見つめます。
　じぃーっと。
　見つめた後。

「とよみちゃーん！」

　突如、大きな声を上げました。
　それは人形作りに集中していたリンス・レイス（りんす・れいす）が、びくっと肩を跳ねさせるほどに唐突で、溌剌としたもので。

　しばし見守る時間も与えず、

「呼びましたかー？」
「！？」

　リンスの背後から、飛鳥　豊美（あすかの・とよみ）が返事しました。

「まほうしょうじょになりたいの！」
「いいですよー」
「やったー！」
「ちょ、えぇ……？」

　脈絡ないクロエの発言にも驚かず、豊美ちゃんはにこにことOKを出します。
　第三者、見守っているリンスの方が戸惑っているほどです。
　リンスはというと、話をまとめてきゃっきゃする二人を数秒見つめてから、まあ自分には関わりないだろうと判断して人形作りに戻りました。
　しかしそうはいかないのがお約束というもので。

「その代わり、あとでリンスさんにお願いがあるんですよー」
「……は？」

　豊美ちゃんの言葉に、リンスが一瞬嫌そうな顔をします。
　しかしクロエを見て、その顔は引っ込めました。クロエはどうやらかなり本気で魔法少女になりたいらしく、捨てられた子犬のような目でリンスを見つめていたのです。

「……先に言っておくけど、俺は魔法少女にならないからね」
「あ、違いますー。そういうのじゃないです、人形師のリンスさんにお願いがあるんですよー」

　人形師として頼まれるのならお安い御用です。
　それならいいよと二つ返事で請け負うと、豊美ちゃんがにこーっと笑いました。

「これで心置きなく魔法少女に専念できますー、ありがとうございます」
「うん。クロエをよろしく」
「よろしくね、とよみちゃん！」

　こうして、魔法少女クロエが誕生したのですが。

「で、魔法少女ってさ。具体的になにするの？」
「あ、はい。こちらをどうぞー」

　そう言って豊美ちゃんがパッ、と出したのは、『あなたの街に、魔法少女。』と言葉の載せられた、『豊浦宮』を紹介するパンフレットでした。
　ぺらり、パンフレットのページをめくるリンスの脇からクロエが覗き込みます。
　『魔法メイド喫茶　きゅあ☆はにー』の運営。
　ヒーローショーならぬヒロインショーでの活躍。
　孤児院で子供の世話をしたり、というのもありました。クロエが、「あ」と声を上げます。

「こんじおにぃちゃんがいるところ？」
「さあ？　それはわからないけど、あいつも知ってはいるんじゃないかな。魔法少女」
「そっかぁ。ねぇねぇみせて」
「どうぞ」

　リンスの手からパンフレットを取って、クロエが興味深げに最初から最後まで見つめます。
　きらきら、きらきら、目が輝いています。
　すぐにでも駆け出しそうなクロエに、

「クロエさんは私と一緒に行きましょうー。最初ですので、まずは皆さんとのふれ合いを楽しんでみてくださいー」

　豊美ちゃんが先手打って言いました。

「はいっ」
「いいお返事ですー。これなら素敵な魔法少女になれますよー」

　こうして。
　クロエの魔法少女としての最初の一日が、幕を開けたのです。

◆ごあいさつ。
　初めまして、あるいはこんにちは。灰島懐音と申します。
　ガイドを一読してくださってありがとうございます。
　今回は魔法少女スピンオフということで。
　猫宮マスターのお力を借りつつ（猫宮NPCの箇所を監修していただきます）クロエさんが魔法少女になった日のお話を書かせていただくこととなりましたー。
　ちなみにクロエがなぜ魔法少女になりたがったかというと、単に面白そうだとか衣装が可愛かったとか、そんな単純な理由です。深いこと考えてないです、きっと。


◆内容について。
　クロエさんが魔法少女になりました。
　ただ、まだまだ新米ひよっこ魔法少女なので、心得だとかなんだとか、わかっていないことが多いです。
　なので皆様に教えてもらいたいなという所存。
　魔法少女に助けてもらいたい、というアクションでも歓迎です。
　また、これは世界情勢に関係ない日常系シナリオであることも明記しておきます。


◆NPCについて。
　登場可能NPCは以下の通りです。
・クロエ・レイス
・飛鳥 豊美
　あとは『一応関われるよ』という感じで、
・リンス・レイス
・紡界 紺侍
・フィルスィック・ヴィンスレット
・飛鳥 馬宿
・馬口 魔穂香
・馬口 六兵衛
　以上の面々も描写可能です。
　日常系だからね。自キャラなら大放出です。


　普段以上にNPC劇場かつゆるーっとしたシナリオですが、皆様に楽しんでいただければと思います。
　ご参加お待ちしております。

・魔法少女として、新入魔法少女に色々教えてあげる

・魔法少女としての活動を、各地で行う

・顔馴染みの人に関わる