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年の初めの『……』(カギカッコ)

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シナリオガイド

教えて下さい、あなたの過ごす2022年元旦の一日を
シナリオ名:年の初めの『……』(カギカッコ) / 担当マスター: 桂木京介

 浮遊大陸パラミタの師走。それも年の瀬。
 大変に忙しない毎日が続いています。2021年を締めくくり、2022年を迎えるための準備に誰もが追われているようです。

 それは彼、シャンバラ教導団長金 鋭峰(じん・るいふぉん)にしても同じことなのでした。
 ここは教導団の執務室。深く腰掛けた彼は、眉間に皺を寄せながら書類を読んでいます。
 それにしても、鋭鋒の姿勢は見事の一言に尽きます。しゃんと伸びた背筋、真っ直ぐに揃った両脚、それでいて、今現在突然敵に襲われたとしても、即座に防ぎ、反撃できるほどに整った体勢です。さすがは国軍の長といったところでしょうか。
 されどやはり、鋭鋒の目にはいささか迷いがあるのです。
「私は、外来以外の行事は旧暦で祝うことにしているのだが……」
 忙しくてなかなか眼を通せなかった計画書をようやく読み、彼はその内容に戸惑っているのでした。
 計画書のタイトルは『新年閲兵式』、来たる新年1月1日を予定した行事です。教導団に集まり、講堂の壇上にて参加団員がそれぞれ今年の抱負を発表して鋭鋒団長がそれぞれに激励などのコメントを付けるという内容でした。ある活動熱心な団員が作成し、奏上した計画書です。士気の向上と綱紀の引きしめを目的としたものであり、参加は教導団員に限るとされています。
「新年の始まりを宣誓の場とするわけか。殊勝な心がけではあるが……」
 鋭鋒が難色を示したのは、これを教導団の公式行事とするという部分でした。
「参加は強制したくない」
「ジンらしい言葉だな」
 いつの間にか、赤い表紙の計画書は、鋭鋒のパートナー羅 英照(ろー・いんざお)の手にありました。
「強制された『抱負』が抱負たり得るか、そう考えているのだろう?」
 鋭鋒は何も応えませんが、その沈黙こそが肯定のしるしです。
「ならば任意参加ということを明白にしては? 数人の参加であれば参加団員との懇親会とするも良し、人数が多ければ、それはそれで大がかりな舞台とすればいいだろう」
 おや、とでも言いたげな様子で、鋭鋒は眼の端を軽く上げました。
「私もそう考えていたところだ」

 *****************

 パラミタ屈指の巨大ショッピングモール『ポートシャングリラ』、ここにも、師走の限られた時間を慌ただしく過ごしている二人連れの姿があります。
 一人は蒼空学園の校長たる山葉 涼司(やまは・りょうじ)、もう一人はその私設秘書であるローラ(ことクランジ ロー(くらんじ・ろー))です。学校が休みになる年末とはいえ、新年に向けなにかと物入りなのが大規模校の現実、二人は大量の物品を買い付けつつシャングリラ内を巡っているのです。
「すまないな。荷物、そんなに持たせて」
 涼司はローラを見上げて言いました。ローラは大量の箱や手提げ袋、それに工具類などをかついで涼司の後を追っているのです。
 涼司自身も多数の手荷物を運んでいますが、ローラの量は多いなんていうものではありません。抱える箱は幾重にも積み重なって、まるでそびえ立つ塔のようです。遠目には山が動いているようでもありました。
「気にしない。ワタシ、秘書らしい仕事、全然、できない秘書ネ。修理以来だいぶ落ちたケド、それでもやっぱり、力自慢。それだけが得意。だから得意なことで涼司の役立てる、嬉しい」
 大きな眼と口でローラは笑いました。
「だが女性に荷物を持たせるというのは抵抗が……」
「遠慮無用。ワタシ、重くない。涼司、買うほうに集中する」
 といったやりとりをしながら二人はショッピングモール内を歩いていたのですが、しばらくして、
「あっ」
 二人の目の前で、六歳くらいの男の子が階段につまずいて転びました。少し段差のある一段を踏み外したもののようです。
「大丈夫か?」
 と、荷物を置き手を貸そうとした涼司より、ずっと早くローラが行動に出ていました。
「怪我ないか? 立てる?」
 男の子の前にしゃがみ込み、その擦り傷が小さいのを見て笑顔で手を差し出しました。
「うん、ありが……」
 男の子の言葉は遮られました。
 ローラの手が激しい勢いで払いのけられたのです。少年の母親とおぼしき女性によって。
「やめてッ! うちの子に何する気!?」
 母親は眼を三角形にしてローラを睨んでいます。
「その子怪我したか心配しただけ。手伝いを……」
 ローラの言葉は通りません。母親はますます激昂して叫びました。
「嘘言わないで! あなた元塵殺寺院の殺人機晶姫でしょう!? グランジとか言う……」
「いまそういうの、違う。あと、『グランジ』じゃなく、『クランジ』……」
そういう言い訳は聞きたくありません! あなたの仲間が七夕のときに暴れたとも聞いているわ! そのグランジも国軍の一員として安全とか言われてたけど、突然豹変して大暴れしたって! テロリストがうちの子に触らないでちょうだい!」
 母親はそれだけまくし立てると、男の子の手を握りひきずるようにして、早足にその場を去りました。
「あなたみたいな危ない人は外に出てこないで!」
 という捨て台詞を残して。
 涼司は、ローラのことを特に喧伝した覚えはありません。といっても隠したわけでもない。人の口に戸は立てられないものです。いつしかローラのことは知れ渡っていたのでしょう。女の子にしては長身で肌はカフェオレ色、黒豹のようにつややかで豊かな髪をもち、エメラルドの瞳を持つローラは目立つ外見です。しかもそれが涼司と一緒にいるのです。簡単に見抜かれたのも致し方ありません。
 それにしても……と涼司は唇を噛みしめました。酷い誤解です。腹が立ちます。ローラがそのように侮辱されたことはもちろん、七夕での ユマの件 が『大暴れ』などと針小棒大に誇張されて流布されていたことについても。
 けれども涼司がいずれよりも腹が立ったのは、あの母親の勢いに圧倒され、とっさに言い返せなかった自分の不甲斐なさなのでした。
(「俺が責任もって預かったローラなのに……こんな目に遭わせてしまって」)
 できることならば数十秒前に戻ってやり直したい。あの母親にローラのこと、ユマのことをきっちり話して謝罪させたい――と涼司は思うのですが、すでに親子は人混みのなかに消えてしまっていました。
「ローラ、気にすることはない。間違ったことを言われても無視すればいい」
 涼司が声をかけると、意外にも彼女は満面の笑顔を見せました。太陽のように明るい笑顔を。
「ワタシ、気にしてない。心配いらない」
 ローラはそのまま、脇に置いていた荷物を積み重ね始めました。
「ワタシ、有名なっちゃって大変ね。セレブね。セレブ、悪口も言われるもの。だけどセレブ人気者だからいい……人気者だから……平気ね。平気……」
 それは嘘でした。ローラの眼から涙がこぼれ落ちたのです。やがてローラは荷物を下ろさぬまま、しゃくりあげるような嗚咽を漏らし始めました。彼女は積み上げた荷物で顔を隠したのですが、大粒の涙をぼろぼろとこぼしている様子が、涼司には容易に想像が付きました。
「……帰ろう。ローラ。今日の買い物は終わった」
 涼司は決めました。元旦は、ローラが寂しくないように仕事を入れよう、と。
 冬休み明けに取りかかるつもりだった大量の仕事を元日から始めればいいだけのことです。
 ごく簡単なことならローラも秘書らしい仕事ができるようになりました。出かけたくなるのが元旦ですが、人出の多いところにローラを行かせれば、またこんなことになりかねません。それに、忙しくしていれば気も紛れるでしょうから。
 その一方で涼司は、自分の恋人に申し訳なく思います。具体的な約束はまだしていませんが、一緒に初詣に行くつもりだったからです。「仕事で行けない」と言えば彼女をどれだけ落胆させることでしょう。しかし事情を話せばわかってくれるはずです。そう信じます。
(「ということはパーティも不参加か……」)
 実は同じ元旦の昼から、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)主催によるバイキング形式の立食パーティが開かれる予定なのです。会費制、空京にある高級ホテル『空京ロイヤルホテル』のレストランフロアを借り切った豪勢なもので、和洋中、それに山海の珍味を、その道のエキスパートたる料理人が仕上げます。あっと驚くような料理も並ぶ予定とも聞いています。
 追放や指名手配を受けていなければ誰でも参加可能ですが、涼司は環菜からじきじきに招待を受けており、初詣を済ませてから参加する予定でした。環菜には断りの電話を入れなければならないでしょう。
(「しかし……これでいい」)
 不思議と涼司は惜しい気はしませんでした。

 涼司たちから数百メートル離れた場所、ここもポートシャングリラの敷地です。
「出前、行ってきましたーッ!」
 鉢巻き姿の若い店員が、うどん屋の軒先に姿を見せました。片手には出前のオカモチがあります。
「おう、次これな!」
 恰幅の良い店主が、彼のオカモチに新たなうどんを入れました。
「七番ブロックのブティック、えーと、ひす……ひす、『ひすてりあ(Hysteria)』って読むのか? そこにきつね定食一人前だ。大至急!」
「はい!」
 若い店員は颯爽と飛び出していきます。
 が、わずか五分ほどでふたたび軒先に姿を見せました。
「出前、行ってきましたーッ!」
「おいずいぶん早ぇな!? 七番ブロックってぇとだいぶ先だぞ」
「早い? 七番ブロック??」
「おめぇさっき出てったばかりじゃねぇか?」
「んなこと無いッスよ」
 慌てて店員は、自分はその前の出前の注文から戻ったばかりだと言いました。んな馬鹿な、と店主は主張します。
「じゃあ、さっき出てったばかりのヤツは誰なんだ!?」
 人通りが絶えたのを確認すると、出前のオカモチを持った若い店員は、さっと路地裏に隠れました。
 隠れたその先に、もう店員の姿はありません。
「……」
 黄金の半仮面をつけた黒髪の少女に姿を変えていました。
 彼女はクランジΚ(カッパ)、塵殺寺院の機晶姫です。
 Κはゴミバケツに腰を下ろすと、オカモチを開けてうどんをすすり始めました。よほど空腹だったのでしょうか、むさぼるようにかきこみ、定食のおにぎりもガツガツと口にしています。
「……この方法に、もっと早く気づくべきだった」
 人心地ついた彼女は口元を拭うと、バケツのフタを開けそこに出前の用具を放り込んで立ち上がりました。
 本来の姿に戻ったΚは、体にぴったりと合ったライダースーツのようなものを着ています。合成レザーで丈夫な服なのですが、酷く汚れ、所々に切り傷のようなものが付き、一部は破れてその下の白い肌を露出させています。
 路地裏に北風が吹き込みました。
「……寒い」
 新しいライダースーツを調達する必要がありそうです。
 しかし同様の方法を用いようと、万引防止の行き届いているこのショッピングモールから服を持ち出すのは難しいでしょう。
「……」
 風はチラシをΚの足元に運んでいました。何気なく彼女はそれを拾い上げました。
『1月1日は初売り! 大バーゲン開催!』
 多数の客が押し寄せるバーゲンであれば、あるいは突破する方法が見つかるかもしれません。
 くしゃ、と丸めたチラシがΚの手に握りこまれました。

 *****************

 やがて大晦日となりました。

 清潔な環境です。清潔すぎるほどに。
 そして少々、静かすぎる場所でもありました。
 なぜならここは病室だからです。個室。実は部屋の外には見張りが立ち、軟禁状態でもあります。
 病室にかかっている名札は、『小山内 南(おさない・みなみ)』です。
 読んでいた手紙を封筒ごと、窓際に置きます。まっ白な壁を見つめて、南は静かに溜息しました。
 それは、Zanna Biancaの事件で関わりをもった村からのものでした。復興を果たせた記念とこれまでの礼を込めて、元日に契約者のみなさんを招待したい――という主旨です。発見された温泉でリフレッシュするも良し、スキーやスノボといったウィンタースポーツに興じるも良し、ささやかながら郷土料理でおもてなししたい、とのことです。
 もう少し健康であれば、南も応じたかもしれません。
 けれど、病室から出ることも叶わない現状では、夢のまた夢と言わざるを得ません。
 心に深い傷を負い、南はここで治療を受けています。
 治療の経過は、正直、良好とは言えないものでした。
 強固な洗脳を受けていた南の精神は、倒壊したブロック塀のようです。ブロックを積み上げ、心を立て直そうとしても、そのブロック片がいちいち砕けているのです。簡単ではありませんでした。
 今でも、強制的に植え付けられた記憶がフラッシュバックを起こし、夜中に飛び起きることや目眩がして崩れ落ちることはしばしばなのでした。そればかりではありません。
(「いつまた私は……」)
 南は両手で顔を覆いました。このまま死んでしまいたいと思ったことも、一度や二度ではないのです。
 ……いつまた自分を『クランジΣ(シグマ)』と思い込み、狂える刃をふるうかもしれない、そう考えることが病的なまでの恐怖として南の心に巣くっていました。今度精神のスイッチが切り替われば、もう『小山内南』に戻ることはできないのではないか――そうなる前に、自分で自分に決着を付けたい――とも思えるのです。
 ですがそのたび、少ないながら友人たちの姿を彼女は思い浮かべます。
 彼らの存在こそが、南をこの世界につなぎ止めているものなのです。
「……あっ」
 窓の外に目を向けた南の頬に、わずかながら笑みが戻りました。
「……雪」
 彼女はそこに、ちらちらと粉雪が舞うのを見たのです。



 新しい年がやってきます。2022年のパラミタ大陸。
 その1月1日の一日を、あなたはどのように過ごすのでしょうか?
 年の初めの『……』(カギカッコ)。『……』には、あなたの好きな言葉を入れて下さい。
 『新年会』と入れてもいいし、『ホテルでバイキング』でもいいでしょう。
 『初売り大バーゲンでお買い物』にせよ、『温泉&スキー』でも、『恋人と二人きり』でもご自由に。
 教えて下さい。あなたの『……』を

 ご参加、お待ち申し上げております。

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介(かつらぎ・きょうすけ)です。よろしくお願いします。

【シナリオ概要】
 このシナリオは、2022年の1月1日一日に絞って、参加者の元旦の生活を描くという主旨となります。2021年12月や2022年でも1月2日以降のアクションをかけても描写されないのでご注意下さい。
 殺伐とした展開はないでしょう。学校による参加制限もありません。
 シナリオガイドには数人のNPCの物語を載せていますが、彼らの動向に合わせる必要はまったくありません。ご自分の望む2022年1月1日の過ごし方をアクションにしてご提出下さい。

【NPCについて】
 以下の公式NPCが登場します。
 山葉涼司――蒼空学園でローラと事務仕事です。手伝ってあげてもいいかもしれません。
 御神楽環菜――空京のホテルで新年パーティを行います。参加費は結構しますが料理は豪華です。参加してグルメを楽しんでは?
 金鋭峰、羅英照――当日夕刻より教導団の新年閲兵式を行います。参加して気持ちも新たに2022年を迎えませんか?(※閲兵式には教導団の所属キャラクターしか参加できません)
 エリザベート・ワルプルギスとアーデルハイト・ワルプルギス――環菜のパーティに来ています。
 リンネ・アシュリング――環菜のパーティに参加予定。ただし結婚相手のキャラクターがシナリオ参加した場合は相手に合わせます。
 イングリット・ネルソン――ポートシャングリラの初売りの見物に来ています。
 高円寺海――コートを買うべくポートシャングリラの初売りに来ています。
 小暮秀幸――教導団の閲兵式に参加しています。
 李梅琳、レオン・ダンドリオン――閲兵式に出る予定。ただし恋人のキャラクターがシナリオ参加した場合は相手に合わせます。
 金元ななな――教導団員ですが、温泉を楽しむべくヒラニプラの村を訪れています。
 アッシュ・グロック、アゾート・ワルプルギス――雪遊びをすべくヒラニプラの村を訪れています。
 雅羅・サンダース三世――LCを伴い、空京神社に初詣に来ています。

《桂木担当NPCの動向も記しておきます》
 クランジΡことローラ――事務仕事に没頭しています。
 クランジΠ、ユマ・ユウヅキ――登場しません
 大黒美空(クランジΟΞ)――登場しません。ただし空京神社でどことなく似た人を見かける可能性があります。
 クランジΚ――他者への擬態を繰り返しながらポートシャングリラにいます。
 リュシュトマ少佐――午後からの閲兵式にも出ますが、早朝は教導団で一人黙々とトレーニングをしています。
 小山内南――病院にいます。短い時間なら庭の散歩もできます。
 イースティア・シルミットとウェスタル・シルミット――小山内南のお見舞いに行きます。
 
 NPCとアクションを絡めたい場合、どのNPCと接触を持つか、そして、該当NPCとのこれまでの関係(初対面なのか友人同士なのか等)を書いておいて下さると大変助かります。
 また、NPCと絡めることを希望されても、上手く行かない場合があることをあらかじめご了承下さい。

 以上、ほのぼのしたシナリオを目指したいと思います。どのような一日を過ごすも自由です。のびのびとアクションをかけてみてください。
 皆様のご参加、楽しみにお待ち申し上げております。
 それでは、次はリアクションでお目にかかりましょう。
 桂木京介でした。

▼サンプルアクション

・巨大ショッピングモールの初売り大バーゲンセールに参加。

・御神楽環菜の新年パーティに参加する。たくさん食べる


Zanna Biancaの舞台となった村を訪れ、ウインタースポーツを満喫

・空京神社に初詣に行く。

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2012年01月05日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2012年01月06日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2012年01月10日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2012年02月07日


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