なし

　先日のシャンバラ・カナン・ザナドゥ間にて採択された『リッシファル宣言』によって、魔族の住む地ザナドゥも、ひとときの平和を手に入れていた。しかし、バルバトス軍勢によって破壊された街並みは、いまだ復興の最中にあった。
　とはいえ、アムトーシスを治める芸術の魔神アムドゥスキアスは、ようやく訪れた平和を楽しんでいるようで……。
　これは、彼の気まぐれから生まれた一言からなる物語である。


「日本のお正月――かぁ」
　アムトーシスの中央にそびえ立つ一本の芸術作品のような塔。
　その塔は、この地を治める魔神の居城でもあります。その最上階で、芸術魔神　アムドゥスキアス（まじん・あむどぅすきあす）はなにやら一冊の本を片手にぼんやりと独り言をつぶやいていました。
　と、そこに、一つの足音が近づいてきました。
「どうかされたのですか？　アムドゥスキアス様。……先ほどから、なにやらぶつぶつと独り言を口にされているようで」
「あ、サイクス」
　寝転がっていたアムドゥスキアスはむくりと起き上がります。
　彼の目の前に立つのは、どこか健康的な艶美を雰囲気に纏う、褐色肌の女剣士でした。動きやすさを考慮された軽装の鎧は必要最低限の部分しか覆っておらず、露出された肌が、見る者の煩悩を刺激します。とはいえ、すでに慣れたということもあるでしょうが、アムドゥスキアスはそのへんには無頓着です。
　いつものように、彼は側近の女剣士が向ける疑問の視線に答えました。
「これだよ、これ」
「……フォーキンス社出版『日本のお正月』……ですか？」
「そっ」
　地球というシャンバラと繋がった契約者たちの故郷において、最もシャンバラに近いと言われるのが、この日本――かつては黄金の国とも言われた東洋の島国です。その日本の標準時間において、旧年が無事に終わった事と新年を祝う特別な時期。その特別な時期が、いわゆる「お正月」なのです。そして、そのお正月について詳しく書かれた本が、このアムトーシスで一番の売り上げを誇る出版社フォーキンス出版の『日本のお正月』なのでした。
「これがなかなか面白くってねー。いやー、日本って楽しそうなところだね」
「そうですか。そんなに……」
　サイクスは、確か契約者の割合も日本人が多かったのではないかと思い出します。
　そもそも、地球とパラミタを結ぶ上で最も近しい立場にあるのが日本であり日本人なのです。当然の結果として交流地として開拓されたシャンバラおよびザナドゥにおいては、日本に関する出版物や口伝も多くなる。日本びいきのシャンバラ人・魔族が増えることは、自然なことだと言えました。
　しかし――その日本びいきが魔神の心を掴んでしまうと、また、結果も違ってくるのでしょう。
「あ、そうだっ！」
　突然、なにかを思い至ったようにアムドゥスキアスが声を張り上げました。
「ねえ、サイクス」
「はい」
「『お正月』、やろうよ！」
「……はい？」
　こうして、アムトーシスで、なんちゃってお正月をやることになったのでした。


　数日後、南カナンの首都ニヌアでは――。
「アムドゥスキアスから手紙？」
「はい。アムトーシスのサイクスから届け出のようですが」
　中庭で弓矢の鍛錬をしていた南カナン領主シャムス・ニヌア（しゃむす・にぬあ）のもとに、〈漆黒の翼〉騎士団長のアムドから手紙が届けられました。
　とりあえず、最後の矢を的に射貫いて、鍛錬を終えるシャムス。
「はい、どうぞお姉さま」
「ありがとう、エンヘドゥ」
　姉の鍛錬を見ながらティータイムに興じていたエンヘドゥ・ニヌア（えんへどぅ・にぬあ）が持ってきた手ぬぐいで、シャムスは汗をぬぐいます。そして、彼女は兵からその手紙を受け取りました。
　確かにその手紙の押印はアムドゥスキアスのものでした。
　さっそく、中の手紙に目を通すシャムス。
　エンヘドゥは、興味津々といった様子でそれを見守っていました。
「お姉さま、何が書かれているのですか？」
「これは……」
　そこに書かれていたのは、あるイベントへの招待状でした。
　そう――『お正月』という名の。

　魔族の地ザナドゥのアムトーシスで、日本のお正月に倣ったイベントが開催されることとなりました。それはイルミンスールを通じて、シャンバラ各地へと伝えられました。もちろん、契約者たちへも招待状が送られます。
　ぜひ、皆様そろってお越しくださいませ！

初めましての方は初めまして。
そうでない方はお世話になっております。
野菜ジュースのドロッとした飲み応えにハマってきているＭＳ、夜光ヤナギです。

【内容補足】
このシナリオは先日大団円を迎えました【ザナドゥ魔戦記】シリーズの後日談（アフター・ストーリー）となっております。ＮＰＣに関しての詳細は【ザナドゥ魔戦記】シリーズ、および特設ページをご参考にしてください。もちろん、飛び入りの方も大歓迎です。これまでシリーズにご参加くださった皆さまも、初心者さんからそうでない方まで、お気軽にご参加ください。

●アムトーシス
水辺に面した、ザナドゥの街で最も美しいとされる街で、芸術の魔神アムドゥスキアスが治めています。
それゆえに、芸術や絵画をたしなむ魔神アムドゥスキアスの性格が反映され、街の作りから既に芸術的であり、街の至るところには芸術作品が並んでいます。とはいえ、軍事的側面もおろそかになってはいません。そこからは、やるからには軍事でも手を抜かないアムドゥスキアスの性格の一面がうかがえるでしょう。

●お正月イベント
どうやら、アムトーシス全域を使って住民全員を巻き込んだイベントのようです。
日本のお正月を倣ってという趣旨ですが、お正月の解釈が少しずれているようで、似てるけどなにか違うといった、曲解したものになっています（かなり娯楽要素が強いようです）。
メインイベントは隠し芸大会で、わざわざ大型ステージを組み立てて披露するようです。
その他、アムトーシスの各場所でサブイベントが開催されています。
代表的なものは例えば、餅らしきものつき大会、福笑い魔法大会、歌魔法で戦え紅白歌合戦、血肉わき踊る羽子板戦争、なんちゃって仮装大賞、ｅｔｃ……、です。
個人商店の店で独自にイベントを開催しているところや、それこそお正月セールをやってる店もあるようで、通りには出店も数多く出店されて、街は大賑わいとなっている様子。
お正月を逃してしまったっ！　という方は、これを機会に魔族の国ザナドゥでお正月を楽しんでみてください。

●ＮＰＣについて
【魔神アムドゥスキアス】
イベントの主催者であるアムドゥスキアスは、運営・管理なんてそんなものに縛られたくはないと、途中でサイクスにそれらを任せ、自分自身は街に遊びに繰り出しているようです。もちろんメインイベントの際には隠し芸大会の審査委員長であるため、その際には戻ってくるようですが、それ以外の時間は街の住民との触れ合いに使うとのこと。
【サイクス】
アムドゥスキアスから運営と管理を任されて、そちらに奔走しています。
本来、彼女はアムトーシスの街を守る兵隊長であるため、特に警備体制には厳重を敷いているようです。
ちなみに、警備員や運営スタッフは随時募集中のようです。
【シャムス・ニヌア】
姉妹揃って、メインイベントには参加するようです。
しかし、シャムスは主に隠し芸のみ参加する方針でいるとのこと。
一緒に参加する人が交渉したら、彼女をその他のイベントなどに参加させるのも可能かもしれません。
……なんのかんのと、頼まれ事には弱いですから。
【エンヘドゥ・ニヌア】
姉と一緒に、メインイベントには参加するようです。
彼女はシャムスと違ってその他のサブイベントにも参加する気満々のようで……。
もしかしたらパートナーを探したりしているかもしれませんね。
どうやらまだアムドゥスキアスがかけたブロンズ像の魔法は解けていないようで、任意にブロンズ像になることが出来るとのこと。
隠し芸では、それらを利用したショーを披露することも、考えているかもしれませんね。
【アムド】
サイクスの手伝いということで、警備スタッフの一員として厳戒態勢をとっています。
持ち前の屈強な肉体と背中に背負った大剣ゆえに、威圧感はたっぷりのようで、警備としてはかなり役に立つとのこと。
街を巡回することにしているらしく、各場所にとりあえずは顔を出すようです。

※以上はアクションを考える上での参考情報です。あくまで参考となるものなので、必ずしもＭＣやＬＣ自体がそれを知っている前提でなくてはならない、ということはありません。ご安心下さい。（もちろん、周知を前提にされても結構です）

・隠し芸大会に参加する

・むしろサブイベントを自分で開催する

・警備スタッフのひとりとして厳戒態勢

・出店を見て回って食いまくる