なし

「皆さん、お帰りなさいませ」

　東カナンから戻った数日後、コントラクターたちの元へ空京大学に留学中の南カナンの姫君エンヘドゥ・ニヌア（えんへどぅ・にぬあ）が訪ねてきました。

「戻られたばかりでお疲れとは思いますが、よろしかったらわたくしと一緒にカナンへ行きませんか？」
「またカナン？」

　松原　タケシ（まつばら・たけし）が聞き返します。

「ええ。実は昨日、お姉さまから書状が届きましたの。そのなかに、ハディーブのオアシスが数十年ぶりに現れたと書かれていたんですわ。とてもめずらしいオアシスですので、ぜひ皆さんを誘って遊びに来られてはどうかとあったものですから」

「ハディーブのオアシス！？」
「って、何？　それ」

　エンヘドゥが話したのは、こういうことでした。


　昔々、あるところにとても美しいお姫さまがいました。それはまるで月の光のようなきよらかさともっぱらの評判で、地方領主である両親はたいそうかわいがっていました。
　ところがある日ハディーブと名のる老魔術師が現れ、お姫さまに恋慕したあげく、連れ去ってしまったのです。
　老魔術師はオアシスをつくり、湖の中央の小島に塔を建て、そのなかにお姫さまを閉じ込めました。そしてお姫さまが自分以外だれの目にも触れぬようにとオアシスを隠してしまったのです。
　お姫さまは涙にくれ、老魔術師にお願いをしました。
『せめて１年のうち数日だけでもいいのです。どうか地上を見せてください』
　老魔術師はお姫さまの願いをかなえ、数十年に３日だけ、オアシスを隠す魔法を解いてお姫さまが塔の外へ出られるようにしたのでした。
　運よくハディーブのオアシスにたどり着けた者は、湖の小島の塔から現れるお姫さまを見ることができるかもしれません。


「物語ですわ。オアシスは過去幾度か目撃されてきましたが、塔から現れるお姫さまを見たという証言はないそうです」
「えー。そうなんだ。ざんねーーーん。
　でも、湖はあるんだよね？」
「はい。エメラルドグリーンに光り輝くとても美しい湖だそうです。ですから、水遊びをいたしましょう。――月明かりのオアシスは、とっても雰囲気があってロマンティックだそうですわ」
「絶対行く！！！」

　リーレン・リーン（りーれん・りーん）は握りこぶしで答えました。
　そしてさっそく持って行く物を揃え始めます。

「ビキニはデフォでしょー？　ビーチボールに、あと何持って行こっか？」
「おれはビニールボート持ってく！　やっぱ、塔を間近で見たいしな！」
「ふーん。あ、ハリールは？」
「あたし？　うーん、そうね……浮き輪かな……」

　ハリール・シュナワは恥ずかしそうに少し顔を赤らめながら言いました。

「え？　もしかしてハリール、泳げないの？」
「泳げるわよ、５メートルくらい」
「５メートル？」
「だ、だだだ、だって、うちの村、ネコ系で、水浴びはそんな得意じゃなくってっ」
「ネコでも好きな子いるよー」
「リーレン、だれにだって得意不得意はある。触れないでやれ」

　日焼け止めが入ったバッグに本を突っ込みながら周臣　健流（すおみ・たける）が言いました。その横でアスール・ガディアンはビーチパラソルが壊れてないか点検しています。

「はいはーい。
　じゃあ、エンヘドゥさんは何持って行くの？」
「わたくしですか？　わたくしはなみなみくんです」
「え？　何ソレ？」
「なみなみくん？　ペット？」

　きょとんとなったタケシとリーレンに、エンヘドゥはにっこり笑って答えました。

「造波装置ですわ」

●東カナンの街　ベルゼン

「この街でも、情報は得られなかったか……」

　照りつける太陽を見上げながら青年ジャファルは落胆のため息をつきました。
　ですがそれもいつものことと首を振り、少ない荷物の入った袋を抱えて歩き出します。すると、彼を呼び止める者がいました。

「若者よ、ハディーブのオアシスを探しているのだね」

　それは杖をついた老人でした。家屋の壁に背を預けて座り込んでいますが、物乞いのようには見えません。散歩をしていて、ひと休みするためにそこに座り込んだようでした。

「そして、塔に入るための鍵を探している」
「はい！　そうです！　あなたはそのありかを知っているのですか！？」
「知っているとも。わたしが持っているからね」

　老人はゆっくりと懐からガラスでできた鍵を取り出しました。
　それを目にした瞬間、すべての疲れが吹き飛んで、ジャファルの顔が輝きます。

「それです！　ああ、どんなに探していたことか……！　どうすればそれを譲っていただけるのでしょうか！？」
「何もいらないよ」
「え？　ですがそれでは――」
「年老いたわたしにはもう不要の物だ。持って行きなさい」

　ジャファルは不思議に思いましたが、それ以上何か口にして老人が気を変えるのを恐れて、黙って受け取りました。
　老人は「それでいい」というようにうなずきます。

「ありがとうございます」
「満月の夜、月が塔のてっぺんにかかったとき、１時間だけ入口が現れる。そこにこれを使用しなさい。
　さあ急いで。塔の入口が出現するまでにオアシスへたどり着けるかはおまえ次第だよ」
「はい！」

「……シャディヤに、よろしくな…」

　ついに鍵を手に入れたことに思わず早足となるジャファルの背に向けて老人が最後につぶやいた言葉は、ジャファルの耳には届きませんでした。

※本シナリオのリアクション公開日は９月２３日の予定となっております。あらかじめご了承ください。


　こんにちは、またははじめまして。寺岡志乃といいます。
　このシナリオは扱い的には東カナン番外編となりますが、本編を全く知らなくても全然関係なくご参加いただけますので、よろしくお願いいたします。

　今回皆さんには、東西南のカナンの国境付近に現れたハディーブのオアシスで夏のレジャーを楽しんでいただけたらと思います。
　アイテムは夏の遊びグッズでしたら１ＰＣにつき１つ、何でも持ち込むことができます。ただし、常識的に考えて手に入る範囲でお願いします。
　ガイドではエンヘドゥが巨大な造波装置を持って行くことになっていますが、これは彼女がお姫さまだからできることです。

　造波装置を湖に設置することによって、湖に波が生まれます。この造波装置はいろいろ強度を変えられますので、サーフボードを持ち込んでサーフィンをすることもできます。
　また、湖にはエメラルドグリーンに輝くイルカに似た生き物や魚もいます。彼らは人懐っこいので、一緒に泳ぐのもいいでしょう。
　バーベキューしたり、イカやトウモロコシを焼いたり屋台を出すのもいいですね。


●ＮＰＣについて
　今回のシナリオでは東西南北カナンのＮＰＣの呼び出しが可能です。このほか、寺岡のＮＰＣも呼び出せます。（※ジェド・トゥンナーンは除く）
　以下は初期位置です。移動可能です。
　松原　タケシ……ビニールボートで塔を目指す気満々。
　リーレン・リーン……ビーチボールで遊びます。
　周臣　健流……ビーチで読書。
　アスール・ガディアン……健流と一緒。
　ハリール・シュナワ……浮き輪でぷかぷか。また、ジェドへのお土産は何がいいか考えてます。

※ＮＰＣとアクションでからむのであれば、ＮＰＣ分としてＬＣ追加を１名につき１名お願いします。そのＬＣはシナリオ内に登場しません。ただし、アクション欄をＭＣや登場するＬＣ用に使用することはできます。
　ＧＡの場合、全員が追加する必要はありません。どなたかのＬＣをＮＰＣ用として入れてください。
※カナンＮＰＣが誘えるのは昼間のレジャーのみです。冒険には誘えませんのでご注意ください。
※ＮＰＣは必ずしも登場するとは限りません。アクションがかからなかった、あるいは展開上不必要と判断した場合は登場しないこともあります。


●塔について
　小島にある塔には入口となるものは一切なく、窓もありません。昼間、小島に近付くことはできますが、見えない何かによって守られていて、上陸することはできません。また、上空からも侵入できず、塔を破壊することもできません。
　唯一できるのは、真夜中に満月が塔の上にかかる１時間のみです。
　また、以下はＰＬ情報となりますので、アクションに組み込む際は気をつけてください。
　老魔術師ハディーブはネクロマンサーです。そのほか、時を操る魔法を使用します。時空の穴を開いて、そこに落ちると過去へ飛ばされます。いつのどこに飛ばされるかは不明です。ただ、開く際には１分程度魔力の溜めを必要としますので、避けるのは比較的難しくないかと思います。
　また、アンデッドモンスターを使役するほか、翼の生えたライオンを２頭飼っており、１頭は氷結系、１頭は炎熱系の魔法を用います。塔の侵入者に襲いかかります。こちらも対策が必要です。

こちらに登場するＮＰＣです。この２人にからむ場合はＮＰＣ分のＬＣ追加は不要です。
シャディヤ……１８歳。数百年前に老魔術師ハディーブにさらわれたお姫さま。数年〜数十年に３日だけ地上に出るため、ほとんど歳をとっていません。たおやかでつつましく、控えめな少女。
ジャファル……１９歳の若者。１０年前世話役として老魔術師にさらわれた際にシャディヤと知り合いました。しかしシャディヤがかわいがったため機嫌を悪くしたハディーブに放り出されて、それ以後ずっとシャディヤに会いたいとオアシスの情報を求めてカナン中を旅していました。


●注意点
・今回、アクションをかけられるのは原則昼か夜のどちらかになります。昼間は湖で遊んで夜は塔に冒険！　ということはできません。
　また、夜のオアシスで恋人とロマンチックに過ごしたあと冒険に出かける、ということもできません。基本的に１シーンアクションになるようにまとめてください。ダブルアクションになっていました場合は、マスター側で判断させていただきます。
・持ち込めるアイテムは、装備アイテムはカウントされません。装備アイテムのほかに何か１品持ち込めますのでアクションに書いておいてください。
・服装は指示がない場合特に描写はしません。ワンピース、パレオ等描写希望される場合は書いておいてください。



　それでは、皆さんの個性あふれるアクションをお待ちしております。

・湖で泳ぐ！

・ビーチで遊ぼう！

・屋台を出すぞ！

・ＮＰＣと一緒！

・恋人と一緒！

・ジャファルと塔を目指す！