「あっつ〜い!」
9月に入ったというのに、蒼空学園では暑い日々が続いていました。
そう、蒼空学園でだけ、熱波と呼ぶしかないような不快な暑さが観測されていたのです。
「これも災厄ってやつ……とか言わないよな」
最近日課となっている見回りをしつつ、井上陸斗が顔をしかめました。
とはいうものの、今日も異変らしい異変は発見できず……いえ。
「……なんだ、コレ?」
この日、陸斗は見つけました。
鮮やかな赤い色をしたトカゲが、構内をちょろちょろと動いていたのです。
「これがこの暑さの原因、なんてことないか……熱っ!?」
ひょい、摘み上げた陸斗は指先に走った痛みに慌てて手を引っ込めました。
「陸斗ったら本当、陸斗よね。それどう見てもサラマンダー……火とかげじゃないの」
「火とかげ?…………分かってたよ!、わざとだよ、ツイだよ、うっかりだよ」
誤魔化すように声を荒げる陸斗は、気づきました。
火とかげが心なしか、先ほどより大きくなっている事に。
「これ、ただのサラマンダーじゃない?」
どうやらこのサラマンダー、不快感や怒りといったものに反応し成長するらしい、と気づいた時にはもう手遅れでした。
突如湧いたとしか思えない、大量のサラマンダー。学園のあちこちから悲鳴やら怒声やらが響きます。
そして。
「陸斗! デカくなったサラマンダーが図書室を襲ってるって連絡が入ったわ! 立てこもった図書委員や先生と交戦中!」
「こいつらも放ってはおけないが……とにかく図書室に向かおう!」
「これで良し!」
学園の掲示板に、花壇で花を植える春川雛子達の写真を貼り出した羽入勇(はにゅう・いさみ)は、満足そうに笑みました。
「これって例の花壇……?」
「うん、いい活動でしょ? 今、お手伝いしてくれる人、絶賛募集中よ」
通りがかった女生徒に力説した勇は、その表情が曇っているのに気づき、首を傾げました。
「でもそこ、噂になってるよね。夜中、その花壇から変な声が聞こえるって」
気味悪そうに立ち去る女生徒の背を見つめ、勇は呆然と立ち尽くしたのでした。
「にゃにゃにゃ〜、大変なのにゃ!」
「うん。どうしたらいいのかしら?」
噂の花壇では、雛子とパムが困っていました。
植えた花や苗に、虫が付いていたのです。小指の先ほどの、赤黒い虫です。形はちょっと大きな蚊、といった所ですが、その口を花や苗の茎に突き立てている様子。
更に。
「御柱さん?」
『……すみませ……何だか……眠く……』
白い少女・御柱が何だかぐったりしています。よく見ると、その手足を覆う蔦がゆっくりとその面積を増していくようで。
「にゃにゃにゃ、まさかこの虫のせいにゃ?」
「可哀相ですが……退治しましょう」
形が形だし、焦っていたりで、とりあえず目に付いた虫を叩こうと伸ばした手。
「……痛っ」
「にゃにゃ、ケガしたのかにゃ?」
「大丈夫です、ちょっと刺されただけです」
「刺すのにゃ? 怖いのにゃ、どうしたら駆除できるのかにゃ〜?」
「…………」
「やっぱり一匹一匹潰していくしか……にゃ、ヒナ?」
「……花なんて、気持ち悪いです」
「にゃ?」
吐き捨てるような雛子の声に、パムはビックリしました。そんな口調、初めて聞いたのですから。ですが、そんなパムを更なる衝撃が襲いました。
「いっそ全部引っこ抜いたらスッキリするんじゃないかしら」
言いつつ、花に……あんなに一生懸命植えた花に手を伸ばすと、雛子は躊躇無くそれを手折ったのです。
「どっ、どうしちゃったのにゃ〜?!」
「別に、どうもしないですよ」
取りすがるも、雛子の暴走を止める事は叶わないパム。
「にゃにゃにゃ、止めるにゃヒナ!」
「お黙り、この猫もどきっ」
「にゃぁ〜、ヒナが変なのにゃ〜、誰か……誰かた〜す〜け〜て〜」