蒼空学園

●『煉獄の牢』：下層部

「ウオオオオォォォォォ！！」

　空間を揺るがす咆哮が、流れる溶岩を活性化させます。壁や天井から剥がれ落ちた岩が溶岩の海に落ちて蒸発します。
「炎龍レンファス……それがあなたの名前か」
　中層部近くまでの巨体をもって現れた、溶岩を積み上げた風貌の生物――『炎龍レンファス』――を見上げ、サラ・ヴォルテール（さら・う゛ぉるてーる）が呟きます。今の咆哮に潜む炎龍の意思を、サラは感じ取ったようでした。
「レンファス？　それがあいつの名前なのね！
　じゃあ、早く落ち着くように言って！　このままじゃあたしたち焼け死んじゃうわよ！」
　隣で叫んだカヤノ・アシュリング（かやの・あしゅりんぐ）が、降りかかる溶岩から必死に逃げ回ります。炎熱の精霊であるサラですら額に汗を浮かべるほどの熱気に、『煉獄の牢』は包まれようとしていました。
「……駄目だ。こちらの呼びかけに全く答えようとしない。リングの力をもってしても、熱波を食い止められる程度に過ぎんな。
　これは先程感じたものからの私の推測だが、炎龍をこのような状態に強制した者がいる」
「そういえば、下層部で見つかった『サークル炎塊』がひとりでに動き出したとありましたが……もしかして、その方が炎龍の復活にも関わっているのでしょうか」
　セリシア・ウインドリィ（せりしあ・ういんどりぃ）の疑問に、サラは詳しいことは分からないと首を振ります。
「ただ一つ分かっていることは……私達が炎龍を鎮められなければ、彼とともにこの地に生き埋めになってしまうということだ」
　そう言っている間にも溶岩の流れは活発化し、壁や地面の至る所から噴き出してきます。このままでは『煉獄の牢』は、自身の中に居る者達全てを永久に閉じ込める“牢”になってしまうでしょう。
「熱波の影響は私が食い止める！　その間に二人は契約者方と力を合わせ、炎龍を鎮めてくれ！」
　宣言したサラの、嵌められていた『ファイアーリング』が光り出すと、周囲の熱波が幾分か収まったようでした。
「セリシアは下がって、援護をお願い！　援護向きの契約者も居るはずだから、その人の事もよろしく！」
「はい、分かりました。カヤノさん、十分お気をつけて！」
　セリシアに後方の一切を任せ、カヤノは残していた魔力増幅薬の全てを飲み干すと、六枚羽を目一杯広げて炎龍と対峙します。
「こんくらいしないと、あんたに焼かれてオシマイだもんね。後のことが怖いけど知らないわ！
　何があったか分かんないけど、メチャクチャに暴れちゃって、頭冷やしなさいよね！」
　口にしたカヤノの、羽の先端部分が分離して自律運動を始め、飛び交う溶岩を発する冷気で撃ち落とします。カヤノ自身も両手に絶対零度の冷気で作った氷塊を飛ばし、炎龍を鎮めんと奮闘します。
　――三人の精霊長と契約者達は、この危機を乗り越え、炎龍と交流を持つことが出来るでしょうか。


●『煉獄の牢』：中層部

　炎龍との戦闘の余波は、【中層Ａ】に居たリンネ・アシュリング（りんね・あしゅりんぐ）とフィリップ・ベレッタ（ふぃりっぷ・べれった）にも届きます。吹き付けられる熱風は、突然サウナの中に放り込まれたような錯覚を思い出させました。
「暑い、暑いよ！　これじゃ炎龍の所に行く前に、熱中症で倒れちゃうよ！」
「その程度で済んだら僥倖ですよ！？　まずは皆さんと合流して、準備を整えてから行きましょう」
　リンネの手元には、燃える炎を閉じ込めた『サークル炎塊』があります。強力な魔力反応を秘めているそれは、炎龍を鎮めるのに役立ちそうな感があります。ですが今現在、二人はそれまで同行していた者たちと一時的に離れてしまっていました。しかもその内二名は、自分を守る格好で負傷し、万全な状態ではありません。モップス・ベアー（もっぷす・べあー）が居ますが、やっぱり不安です。
「そ、そうだね。じゃあまずは戻ろう！」
　頷いたリンネを先頭に、フィリップがそれに続く形で、合流を果たそうとします。
　――果たして二人は、無事に合流を果たし、炎龍の元へ辿り着くことが出来るでしょうか。


●『煉獄の牢』：ベースキャンプ

　『煉獄の牢』入口付近に設置されたベースキャンプにて、予備戦力として待機していたアメイア・アマイアと元第五龍騎士団の面々は、一瞬の間に塞がれてしまった入口を見つめ、悔しげな表情を浮かべていました。
「うお、マジで塞がれちまってやがる。しかもご丁寧に溶岩で固めやがって、オレでも骨が折れるぜ、ありゃあ」
　聞こえてきた馴染みのある声に振り返ると、共存都市イナテミスに待機していたはずのニーズヘッグの姿がありました。
「お前、イナテミスの方は大丈夫なのか？」
「あんまし良かねぇな。気温がすげぇことになっちまってる。オレも気にしたんだが、精霊長の二人が「ここは俺達に任せて、煉獄の牢へ行ってくれ」って言うんだ。……それに、オレの契約者も中に閉じ込められてるとありゃ、行かねぇわけがねぇだろ」
　ニーズヘッグの話では、今のイナテミスは気温が５０度を超えているものの、セイラン・サイフィード（せいらん・さいふぃーど）とケイオース・サイフィード（けいおーす・さいふぃーど）の指揮の下、暑さに強い炎熱の精霊と魔族が活発に動き、特に体力の弱いお年寄りや子供を優先として、『ブライトコクーン』を張ったイナテミス広場に避難する計画が進められているとのことでした。
「夜明けまでは持たせてみせる、だとよ。となりゃ、オレたちのやることは決まってるよな？」
「ああ……中に至る入口を作り、彼らの助けとなる。彼らを守れなかった失態は、取り返させてもらう」
　決意の表情で口にするアメイア、そしてニーズヘッグの下へ、震動で出来た新しい入口となり得る穴の場所が教えられます。
　――二人と、ベースキャンプに待機していた者たちは、中の者たちを救出することが出来るでしょうか。


●イルミンスール：校長室

　『煉獄の牢』からの緊急情報を受け取ったアーデルハイト・ワルプルギス（あーでるはいと・わるぷるぎす）は、手の空いている者たちに魔法薬の調合と運搬、現地での作業を手伝う旨の放送を流します。その一方で、日中の調査によって明らかになった事柄や、世界樹イルミンスール地下で起きた襲撃事件の要項を取りまとめ、一つの結論を導き出します。
「……煉獄の牢とここ、二箇所に最低一名、私達の知らない者が紛れ込んでおる。
　その者が今回の『炎龍』復活を手助けし、また世界樹の不調に関わっている可能性がある」
　アーデルハイトの結論を耳にしたエリザベート・ワルプルギス（えりざべーと・わるぷるぎす）が椅子から飛び上がり、やる気満々といった様子で言います。
「誰ですかぁそれは！　見つけて懲らしめてやるですぅ！」
「待ってくださいお母さん、相手の姿が見えない内からむやみに動くのは危ないです」
　ミーミル・ワルプルギス（みーみる・わるぷるぎす）に窘められ、不満の顔を浮かべつつもエリザベートが椅子に座り直します。
「襲われた者の意識回復を待って、可能な限りの情報を集めるのじゃ。それからでも遅くはない。
　敵か、そうではないか分からぬが、契約者が行動不能に陥らされる相手じゃ。くれぐれも気をつけよ」
　情報が集まれば飛び出していくであろうエリザベートを予想したアーデルハイトの発言に、エリザベートがこくり、と頷きます。


●？

　――『炎龍』の内部、真っ赤な溶岩の海にあって、そこだけがまるで別世界のように遮断された中に、少年の姿がありました。
「うん、凄い力だ。とても僕一人だけじゃこんな力は出せない。やっぱり契約者は凄いね」
　少年が呟き、炎龍を通して外を見ます。三人の精霊長、そして調査に当たっていた契約者の姿が見えます。
「さあ、君たちの力で、レンファスを鎮めてみせてよ。
　君たちが鎮めることで、世界樹は生き長らえることが出来る。……僕たちの未来も、変わるかもしれないんだからさ」


●？

　――世界樹イルミンスールの地下、絡み合った根の隙間に縮こまるようにして、少女の姿がありました。
「……おにいちゃん、早く帰ってこないかな……」
　少女が呟き、傍にあった根に触れます。触れた手が根のように変わり、一瞬で元に戻ります。
「あと、百年くらいかな。……がんばって、千年くらい長生きしてもらわないと。
　そのためにわたしたちが送られてきたんだもんね」


　出現した『炎龍レンファス』、そして存在が明らかになりつつある者たち。
　皆さんの力で炎龍を鎮め、真相を明らかにしましょう！

■2012年9月14日：追記
「●前回のシナリオで制限を受けたＰＣについて」に説明を追記致しました。


猫宮烈です。

前回『五精霊と守護龍～溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』』の展開を引き継ぐ冒険シナリオです。
今回は出現した『炎龍レンファス』を鎮め、交流を持とうとする所と、何やら暗躍しているらしい者たちとの遭遇までを扱います。
『炎龍』に関しては（シナリオの成否次第ではありますが）このシナリオで決着予定です。


●『煉獄の牢』の現在
最初に契約者達が入った入口は、完全に塞がれてしまいました。
外部を調査していた契約者により、別の入口となりうる可能性のある穴が発見されましたが、中までの道を開くためには一定の人員が必要でしょう。

内部は『炎龍レンファス』の出現により溶岩が活発化し、壁や地面から蒸気と共に吹き出しています。
温度自体はさらに上昇していますが、アーデルハイトの魔法薬の効果によりこの暑さは感じません。既に中で調査をしていた人も、これから入ろうとする人も同じです。それでも溶岩の海に落ちれば流石に一発アウトですが。

内部情報については、前回の調査で殆どが判明していますので、ＰＣは事前に知っているものとします。ただ、崩落していたり溶岩が流入して立ち入れなくなっている場所があるかもしれません。
ちなみに中層部に居た獣達は、溶岩の流入から逃げるように、入口のあった上層部を目指して進んでいます。

下層部で契約者に立ちはだかっていた『マグマフィーチャー』は、『炎龍レンファス』の命令を受けているかのように周囲を飛び回り、契約者の前に立ちはだかります。挙動や弱点、有効武器については前回の交戦情報から判明しているものとします。

前回『鍵』であった『サークル炎塊』は、下層部で発見されたものは『炎龍レンファス』出現に使われてしまったようです。
中層部で発見されたものは、ＰＣが所持しているものとします（称号を付与していると思います）。これは自身が使うと、びっくりするほどの力を発揮することが出来ます。だいたいの困難は解決出来ると思います。
それともう一つ、『炎龍レンファス』に対して使うと、今後の彼との交流の面で有利になるようです。
（ＰＣは『サークル炎塊』について、凄い魔力を秘めていること、開放すれば凄い力を出せそうなこと、『炎龍』を鎮めるために必要なのではないか、くらいまでは知っているものとします。実際どうなるかまでは知りません）


●前回のシナリオで制限を受けたＰＣについて
個別コメントで【軽傷】を負った、力の○割しか発揮できない、閉じ込められた、等受け取った方がいると思われます。

【軽傷】は、このシナリオのみ力の７割しか発揮できないと考えてください。この状態でさらに負傷すると【重傷】になり、今後の自分のシナリオにおいて力に制限が入ります。身体の一部を欠損するなどの状況に追い込まれる可能性もあります。
他のマスターシナリオへの影響はありません。（影響させたい場合はどうぞ）

力の○割しか発揮できない、はその通りです。
主に【軽傷】以上の怪我を負ったり、自由設定で人外設定だったりした方に設定していると思います。それなりに酷い怪我ですが、影響はこのシナリオのみです。ただしアクションの判定次第では、【重傷】と同じようなことになるかもしれませんし、もっと酷いことになるかもしれません。

閉じ込められた、は下層部にて、キーとなるキャラクターに遭遇したものの正体を気付かれたくないために閉じ込められてしまった方に設定しています。この方達は基本、他のＰＣの助けがなければ閉じ込められたままシナリオを終えます。その場合前回で得た情報を全て失います。（それ以外、身体の一部を失うなどはありません）
アクション次第では脱出出来て、キーキャラの後を追う展開も用意されているかもしれません。


【下層Ｂ】にて閉じ込められてしまった人達の情報（誰が閉じ込められたのか、どこに閉じ込められたのか）は、
他の人達は特にスキル等使わずとも、知っているものとします。ただし『炎龍レンファス』が出現した衝撃で、場所については変化があるかもしれません。


それ以外、前回内部に居たＰＣは、特に力の減少などはありません。
生身の方も、イコン搭乗の方も、全快の状態で挑めるものとします。


●登場するＮＰＣ
リンネ・モップス／フィリップ：【中層Ａ】で『サークル炎塊』を手に入れた所で、『炎龍レンファス』の出現に遭遇しました。
リンネとフィリップは、先に別れた者たち、彼らと一緒にいるはずのモップスと合流を果たそうとしています。

エリザベート・アーデルハイト・ミーミル：イルミンスール校長室にて、状態の把握に務めています。
『炎龍レンファス』の出現と、世界樹の異変に関係ありそうな人物の存在に気づき始めました。到達することが出来るでしょうか。

サラ／カヤノ／セリシア：『炎龍レンファス』を鎮めるため、サラは熱波の勢いを弱め、セリシアは後方支援に回り、カヤノは前線で奮闘中です。
カヤノに『飲んだくれ』属性が付加されそうな勢いで魔力増幅薬飲んでますが、激マズな上に胃に悪いので一回きりにしたいそうです。

セイラン／ケイオース：イナテミスで住民の先頭に立ち、避難計画を進めています。
これ以上の異常がなければ、事件が解決するまで無事が保たれます。

アメイア／ニーズヘッグ：『煉獄の牢』入口付近に出来たベースキャンプにいます／来ました。
中に居る者たちの脱出路を作り、救出することを第一に行動します。


それでは、皆さまのご参加をお待ちしています。

・中に居る者達を救出する！

・炎龍レンファスと対峙する！

・中に居るみんなの力になる！

・その他、思う所で行動をする