ある晴れた日の朝。
蒼空学園の掲示板に、一枚の書類が貼り出されます。ほぼ同時刻、生徒たちの携帯電話にも学園から同じ内容のメールが届きました。
蒼空学園のあるツァンダの南東に、コンフリーという町があります。名湯のある温泉地として知られる小さな町です。
そこに携帯電話のアンテナ基地を設置することになり、工事を手伝う学生を募集するというものでした。工事は課外授業で、期間中は出席扱いです。また参加者の成績も考慮するそうです。差出人は校長の御神楽環菜。
生徒に使用人のように仕事を押し付ける、「カンナ様」からのいつものお達しでした。
「私、レイン・コンフリーといいます。お願いします、皆さんみたいに携帯電話が使いたいんです! そうすれば、お父さんとも話せるし……。他にも空京で働いている人はいます。みんな、家族と会えなくて寂しがっています」
生徒たちに向かって、案内役のシャンバラ人の美少女が頭を下げます。どうやらレインの父は、建設ラッシュの空京で出稼ぎ中のようです。その為、レインは一人で実家の温泉宿を守っている状態だとか。工事中は、彼女の宿に泊まることになります。
現在のパラミタで携帯電話が使えるのは、各学校のある6都市と主要な幹線道路沿いだけです。それ以外の地域ではアンテナ設置の予定すらありません。
出稼ぎの家族と、せめて話がしたい。地球の技術に望みをかけるコンフリーの住人が、蒼空学園に陳情にやってきたのです。ツァンダの領主の口添えもあったため、環菜も無下には出来なかったようです。
問題もあります。アンテナ基地は、コンフリーの北の山の山頂付近に設置することになりました。しかしその山頂は、付近に住むドラゴンの飛行ルートになっているのです。ドラゴンといっても小型の種類で、性質も温厚です。よほどのことがなければ、人間を襲うこともありません。町の住人とは、上手く共存しているようです。
ただ、飛行ルートにいきなり高いアンテナが出来れば、衝突などの事故が起きる危険もありますし、壊されても困ります。なにか対策が必要です。
またコンフリーの人たちに、携帯の使い方を教える必要もあるでしょう。
資材と技術者は、ツァンダから運びます。ただ、途中の治安があまり良くありません。レインも、パラ実の生徒に危うく襲われそうになったといいます。高価な資材を運搬していれば、横取りを狙ってくるでしょう。