しゃりーん、しゃりーん!
突然。
大量の鈴の音が耳に届きました。
百合園女学院の化学室で研究をしていたアディが窓を開けると、先程迄のうだるような暑さが一変して、空を覆い尽くした厚い雲から大粒の雹が降って来ていました。鈴の音だと思っていたものは、雹が落ちてきている音だったのです。
外を歩いていた生徒達も慌ててこちらに避難して来ます。
「みんな、大丈夫!?」
砲丸程もある氷の固まりにぶつかったら、惨事は免れません。
ですが不思議なことに、その雹は触れただけで粉々に砕けてしまいます。
「クリスタルティアーズ……滅多にお目にかかれない気象の一つって噂には聞いてたけど、まさか目の当たりに出来るなんて……」
ひとしきり空からこぼれ落ちた雹は、地面をクリスタルで敷き詰めたかのように輝かせました。
目の前に広がる美しい光景に、壁際に張り付いて避難していた女の子達も感嘆の声をもらします。
が。
その感動も長くは続きませんでした。
再び顔を覗かせた太陽によって氷が溶け出し、水蒸気が上り始め、涼しくなっていたお陰で逆に暑さが増してくるのです。
「暑い、暑いよぉ。サウナに入ってるみたい〜……ん?」
見ると、壊れずにそのままの形を維持した雹がそこかしこに転がっていました。
アディが調べてみると、それは不純物の一切混じっていないとても綺麗な氷だということが分かりました。しかも硬く溶けにくいのです。
「これでカキ氷──作れないかな」
アディがそう言うと、生徒達が賛同してきました。
「いいね、食べようよ! シロップは裏の温室から果物を取ってきて、天然のジュースをかけよう!」
「賛成! あ、でも」
女の子が重そうに口を開きます。
「温室前にはケルベロス君と、中にはタネ子さんがいるわ。
管理人さん、確か今日は一日中外出してるから私達だけで彼等をどうにかするしか……」
彼等は管理人さんにとって愛しい我が子である為、傷つけるわけにはいきません。
誰かが囮になって番犬のケルベロス君を引き付けなければ、温室の中に入ることは不可能でしょう。
温室にはタネ子さん──巨大な食虫花がいます。虫と間違って襲ってくることもあるので用心して果物を持ち帰って下さい。