空京の、「ミス・スウェンソンのドーナツ屋」、略して「ミスド」の店内には、今日も多くの冒険好きの生徒たちが集まっています。
店内には、冒険の依頼や仲間募集の告知を貼れる掲示板があります。店主のミス・スウェンソンが、その掲示板に一枚のポスターを貼り出しました。
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『秋の実り収穫ツアーのおさそい』
空京郊外の森に、ナッツやベリーを集めに行くツアーです。
危険な動物はほとんど居ない場所です。
小さな湖があり、釣りを楽しむこともできます。
お弁当を持って、ピクニック気分でいかがですか?
お弁当は各自持参ですが、「ミスド」でも、コーヒーとお菓子を用意します。
(集めたナッツやベリーは、ご自由にお持ち帰りください)
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「……つまりね、お店で使うナッツやベリーを、店員の皆やミャオル族のアイリ君と集めに行くのだけど、この日はお店は臨時休業にさせてもらうから、良かったら一緒に行きませんか?ということなの。お店で使う分は私たちで集めるから、みんなは自分で持って帰る分を集めてもいいし、収穫よりお散歩やお弁当を楽しみたければそれでもいいし。何かゲームをしたかったら、他の人を誘って皆でしてもいいわよ」
ポスターを見にぽつぽつと掲示板の前に集まって来た生徒たちに、ミス・スウェンソンは言いました。
「あの、危険な動物はほとんど居ない、と書いてありますが、パートナーの居ない地上人でも参加できるような場所ですか?」
東洋系の少年が、ミス・スウェンソンに尋ねました。
(空京に遊びに来た地上人かしら……?)
軽く首を傾げて、ミス・スウェンソンは少年を見ました。店の常連ではなく、どこの学校の制服でもない、普通のブレザーと白いシャツにネクタイ、きちんとプレスされたズボンという服装で、線が細く、運動はあまり得意そうに見えませんが、利発そうな、地上で言えば高校生くらいの少年です。
「そうね、地上の、ありふれた田舎の森や、ちょっとした山のような場所よ。虻や蜂のような刺す虫が少し居るくらいで、極端に攻撃的で危険な生き物は居ないわ。パートナーの居ない人でも参加出来ると思うけど」
「では、是非僕も参加させてください。パラミタの学生の様子を、色々と見てみたいんです」
にこりと笑った少年に、ミス・スウェンソンはうなずきました。
「ええ。歓迎するわ。ええと……お名前は?」
「失礼しました。僕は楊秀明(やん しゅうみん)と申します」
少年の名前を聞いて、ミス・スウェンソンは軽く目をみはりました。
「あら、中国の方?」
「はい」
秀明が答えたその時、
「秀明様。そろそろ……」
店に入って来た、スーツ姿の中年の男性が、彼に声をかけました。
「すみません、今日はこれで。当日を楽しみにしています」
秀明が男性に連れられて店を出て行くのを、ミス・スウェンソンと生徒たちは目を瞬かせて見送りました。
「……どこかのいいお家のお坊ちゃんなのかしら」
お付きの人が居るなんて、ねえ、と店員のお姉さんが呟いています。
「でも、悪い子には見えなかったわ。わがままを言って、一緒に行く人を困らせるような子じゃないでしょう」
ミス・スウェンソンは微笑み、生徒たちを振り向きました。
「彼の他にも、パートナーの居ないお客さんが参加するかも知れないし、あまり過激な遊びをするのはやめてちょうだいね。彼らも含めて、皆が楽しめるツアーにしましょう!」