とある夜のシャンバラ大荒原、波羅蜜多実業高等学校生のブレイズ・ブラス(ぶれいず・ぶらす)は数人のツレと共に課外実習を終えたところでした。――最近の言葉では、『野盗』とも言うらしいですが。
警備が手薄だった旅団からの戦利品を山分けするパラ実生の中、ブレイズは一人で星を見上げ、ため息をつきました。
「俺ぁ、何やってんだろうなぁ……」
いつかビッグになってやる、夢だけ鞄に詰め込んで、パラ実入学したものの、いつの間にやら課外三昧、あの日の夢は今いずこ……。
いつもならそんなことは考えもしない彼でしたが、今日は何かが違っていました。出掛けにすっ転んで後頭部を強打したせいかも知れません。
「このままでいいのか? いや、いいワケがねえ!」
仲間は星に向って叫ぶ彼を放っておいて先に撤収してしまいました。ブレイズの叫びを聞いているのはもう夜空のお星様だけです。
そもそも彼の『ビッグ』の定義も定かではありませんが、いつか信頼できる仲間や舎弟を集め、大きなグループのトップに立ちたいと考えているようです。
「……ただ腕っ節が強ぇダケじゃダメか……う〜ん……」
珍しく頭を使ってみますが、基本的に彼のお脳は考え事に向いていません。体の方は勝手に今日の戦利品の分け前を漁り始めていました。
「何だコレ?」
その中にひとつ気になる仮面がありました。仮面舞踏会などで目だけを隠すタイプのマスクですが、何か心に語りかけるものを感じます。
「……キサマに足りないモノ、ソレは『正義の心』ダ!」
瞬間的に激しいスパークが走ります。なるほど、正しい行いをして人望を集めるのはビッグな漢の第一歩としては悪くないかもしれません。シマの管理をしたり舎弟の面倒を見たりと、人望は確かに必要なのです。
「そうか! 足りないのは正義か! よぉし、俺はヤルぜ!」
彼はアホなうえに、人一倍思い込みが激しいのです。
「キサマが正義を信じるならば我を装着セヨ。さすれば力を与えヨウ」
力、いい言葉です。『この世で好きな言葉ベスト3』に入ります。迷いなくマスクを装着すると、今まで感じたこともないパワーが身体中を駆け巡るではありませんか。
「す、すげえ!」
そのアイテムは『正義マスク』、正義の心を信じる者に強力な力を与えるマスクだったのです。
「正義の基本ハ人助けカラ」
「よぉし! 人助けだな!!」
ブレイズは正義マスクの力で猛然と走り出しました。
☆
「正義スパーク!!」
翌日には彼はツァンダ近郊の大きな街に辿り着き、正義のための人助けを開始していました。今も二人組の男の喧嘩の仲裁をしたところです。『問答無用で叩きのめした』とも言いますが、そのために道路と建物の一部が損壊しました。
そう、問題解決の方法としては、彼の辞書には『腕力』以外の単語は載っていなかったのです。彼はこの街で同様の『人助け』を次々と行うでしょう。はた迷惑な正義の味方『正義マスク』、堂々の誕生です。
それはそれとして、その街の中心地ではある不穏な動きがありました。
「ククク、これで時間がくればOKだぜ」
とあるアパートの裏手、紙ゴミの山の前でゴソゴソしていた男が仲間に呼ばれて去って行きました。どうやら何らかの時限装置を仕掛けたようです。
「準備できましたぜ」
「よし、時間を合わせろ。十三時ジャストに作戦を開始する。」
数人の男たちが物陰からアパートの向いの建物を見ています。その建物はどうやら銀行のようですが――