蒼空学園の学舎内に幾つか存在する家庭科室。
その中の第二家庭科室は従来、服飾研究部『羽衣会（はごろもかい）』が部室としてあてがわれてきました。
ところがこのほど、料理研究部『鉄人組』が羽衣会を攻めに攻め立て、羽衣会は第二家庭科室の覇権を奪われてしまいました。
そう、いまや第二家庭科室は鉄人組の部室へと、変貌を遂げていたのです。
「ふっふふふ……藤原の小娘め、また懲りずに来おったか」
野太い声が、静かに殷々と響き渡りました。
風林火山ののぼりがひしめく第二家庭科室の最も奥に位置する巨大な座椅子に、これまた巨大な人影が深々と腰掛けていました。
鉄人組組長馬場 正子（ばんば しょうこ）です。
身長２０９ｃｍ、体重１３５ｋｇ。筋骨隆々の巨漢婦女子にして、泰山包丁儀と呼ばれる必殺の調理拳を操る鉄人です。
その外観は極めて特徴的で、モアイがストレートのロングヘアーのヅラを被っているような容貌と、山脈のような巨躯がトレードマークとなっている蒼空の女子学生です。
正子は、左右に控える側近のひとりに、顎をしゃくって第二家庭科室の外へ様子を見に行くよう指示を出しました。
指示を受けた側近の女子学生三沢 美晴（みさわ みはる）が、武装を施した組員の女子学生数名を従えて第二家庭科室の外へ出てみると、そこには蒼空学園校長山葉 涼司（やまは・りょうじ）の姿がありました。
山葉校長は左手に白旗を持ち、右手には長い竹竿を携えています。竹竿の先端には僅かな切れ目が入れられ、そこに調停案内なる文書が挟まれています。
「おぉーい、もういい加減、勘弁してやれよ。このまま放っておいたら、羽衣会の連中、まぁた特攻してくる勢いだぜ」
山葉校長がいいながら、半ば呆れた様子で竹竿の先端を差し出します。調停案内を受け取った美晴は、冷淡な表情で組員のひとりにそれを手渡しながら、ふんと鼻を鳴らしました。
「羽衣会も堕ちたもんだねぇ。自分達では叶わないから、とうとう校長にお出まし願うたぁね」
「まぁそういうなって。俺だって、校内で派手に暴れられるのは困るんだからよ。こう見えても、理事会の連中にゃあ結構睨まれてんだ。どこかで手ぇ打ってくんねぇかなぁ」
するとその時、第二家庭科室の扉が開き、人間山脈ともいうべき巨体がのっそり現れました。
組長正子が、自ら山葉校長の前に姿を現したのです。
「藤原と長洲に伝えい。会頭のおらぬ羽衣会など、我が鉄人組の前では雑兵の群れに過ぎぬ。早々に諦めて消え失せるが良い、とな」
まるで男かと思わせる程の太さを思わせる、重低音ばっちりの声音を響かせて、組長正子は勝ち誇ったようにいい放ちました。
山葉校長は小さく肩をすくめるばかりです。
羽衣会のふたりの副会頭、藤原 敦美（ふじわら あつみ）と長洲 美姫（ながす みき）に、この結果を伝えるのが何となく気が重いのですが、かといって鉄人組からの返答を放置する訳にもいきません。
「頼むからよぅ、あんまりあっちこっち壊すんじゃねぇぞ。一応ここは、学び舎なんだぜぇ」
ぶつぶつと文句をいいながら、廊下を去っていく山葉校長。
第二家庭科室の覇権を巡る次なる攻防が、近づきつつあるようです。
