蒼空学園

「ふむ」

　空京大学教授アクリト・シーカー（あくりと・しーかー）は、難しい顔をして湿り気を帯び、腐ってしまった樹皮を撫でています。黒ずんだそれはもう、大樹に命の息吹を感じさせるものではなくなっていました。

「立ち枯れ、にしては多すぎる。老いた樹木からか？　ふむ。老人や子供のウイルスに対する抵抗力が弱いのと同じことか」

　彼は頷きつつ独りごちています。アリクトは今、ニルヴァーナ研究の合間にシャンバラへ戻り、ここ、シボラで環境異常の調査をしているところです。そこここで奇妙な動植物のコロニーが形成されているとの情報を得たためです。

「変異現象とは違うな。巨大化もしていなければ動き出すわけでもない。ふむ。そもそも原因はなんだ？　寄生生物か、ウイルスか、何らかの化学物質か、はたまた心霊的な作用によるものか」

　ぶつぶつと呟きながら素早くメモに筆を走らせます。雨の多い密林では紙が湿気てうまくペンが走りません。半ば速記のように書きなぐり、メモを閉じようと筆を止めたちょうどその時、アリクトの耳に草木をかき分ける音が飛び込んできました。そっと腰の魔道銃に手を添えて身構えます。
　ばさっと飛び出してきた影に照準した時、次にアリクトが耳にしたのは、悲痛な叫びでした。

「た、助けて、ください……！」

　擦り傷だらけの少女が、アリクトの元に倒れ込んできたのでした。

※

「落ち着いたか」

　彼女を抱えて拠点のキャンプに戻り、軽く治療を施してから鎮静作用のある茶を淹れ、アリクトはそれを勧めながら少女に問いかけました。

「は、はい！　ありがとうございます。でも、すぐに村に……」
「状況が分からないことには助力の仕様もない。焦る気持ちは理解するが、まずは説明してくれると有難いな」

　薄暗いテントの中、自分の茶を啜りながら、アリクトはあくまで冷静に言います。少女はぐっと言葉に詰まってから、絞り出すように呟きました。

「村が、村が化け物に……」
「化け物？」

　少女が言うには、今まで見たことのないような獣や植物が村を取り囲んでしまったということです。彼女の両親を中心とした大人たちが血路を開き、子供と老人を避難させたはいいのですが、彼女のみがはぐれてしまったというのです。そこで何やら人の声が聞こえたので飛び込んだら、アリクトがいたと。そういうことだったようです。

「どんな形か、覚えている限りでいい。話してくれないか」

　少女は怯えながらも、いくつかの特徴を話してくれました。獣が単純に大きくなったもの、蔦や根を使って移動する樹木の化け物、巨大な蟲、奇怪な鳥……

「それから、ひときわ大きな、大きくて太い角を持つ化け物が」
「角？」
「はい。その角から、何か霧のようなものが。それを吸うと痺れて動けなくなるんです。誰も倒せなくて」

　アリクトはしばし何か考えていたようでしたが、やがて頷くと、少女に向かって言いました。

「外にいる彼らを呼んで来て欲しい」
「え？」

　少女が問い返すと、アリクトは立ち上がり、何やら準備を始めながらもう一度言いました。

「外に、今回のフィールドワークに参加してくれた有志の契約者たちがいる。彼らに準備をしてここに来るように言ってくれ。直ぐに村へ向かう」
「はっ、はいっ！」

　少女は慌ててテントを飛び出し、アリクトに同行していた君たちの元へ向かったのでした。
　
　

　初めまして。ゲームマスターを務めさせて頂くことになりました、宇賀野美也と申します。
　今後ともよろしくお願いいたします。

　少女の村は周囲を森で囲まれた小さなもので、それを押し包んでいる怪物達になんとか村の人たちが抵抗しているという状態です。包囲を切り崩して村の中に入ることが出来れば、彼らを助けることができるでしょう。

　また、包囲された村から逃げ出した人々がいる模様です。既に安全な場所に逃げ込んだことも考えられますが、少女は不安そうです。

　少女から得た敵の情報によれば、獣型、植物型、蟲型、鳥形の敵が確認されています。
　ひときわ大きな敵は、バリケードで抑えるのが精いっぱいで、まともに戦える人は村にはいないようです。闘う場合は霧のようなものに注意してください。

　また、敵を調べる人が居れば敵がいったいどのようなもので、どうしたら追い払うことが出来るのか、わかるかもしれません。

　なお、皆さんはアリクトの調査に同行しているものとしてシナリオは開始されますが、広義には

・アクリトのフィールドワークに協力している

　などの状況でシボラへ来ていることに出来ます。
　また、独自の理由でシボラに居る場合でも、少女の話を聞いたとすることは可能です。

　それでは、皆様のアクションをお待ちしております。

・村人を護衛する！

・敵を殲滅する！

・脱出した村人を捜索する！

・敵の正体をつきとめる！