「助けてくれ! 俺の村が強奪者に占拠された!」
ツァンダ郊外を散歩していた市民の元に、一羽の伝書鳩が紙切れを運んできます。
差出人はマクルバ村の村長 アリフ。雑に折りたたまれた紙を開くと、驚愕の事実が書かれていました。
「今、俺の村には20人近い黒マントの強奪者がいて、村人を一か所に追いやって脅し、好き勝手に畑を荒らしては森の中のアジトに運んでやがる」
「それだけじゃねぇ……村には毎日薬を飲まなきゃ死んじまう、ムゥっていう女の子がいる。だってのにヤツら、薬を飲ませてもくれねぇんだ!」
「このままじゃ村も、ムゥも死んじまう! 誰でもいいから頼む! この強奪者どもをどうしかしてくれ!」
市民は驚き、急いで蒼空学園にこのことを伝えました。
すると学園はすぐに報酬を付けて、マクルバ村の救済と黒マントの強奪者のアジトの制圧の依頼を契約者に出しました。
◇◆◇
その手紙を送った数分後、マクルバ村ではある出来事が起こりました。
「けほ、けほっ……」
マクルバ村の小さな家に、ムゥの喘息のようにかすれた咳が響きます。
「大丈夫か、ムゥ」
「けほ……大丈夫、だよ。アリフさん……」
その声はあまり大丈夫そうには聞こえませんでした。
アリフとムゥと、それから村人たちは縄で縛られており、身動きが取れません。
アリフは目の前で椅子に座っている巨体の男を睨みつけ、こう言います。
「親分さんよぉ。いつになったら帰ってくれるんだ? そろそろムゥに薬を飲ませてやりたいんだが」
「薬? あぁ、コレのことだろ?」
親分と呼ばれた男は立ち上がり、その巨体の胸ポケットから小さな小瓶をつまんで出しました。
「ははっ! 欲しいだろうなぁ、飲まないと死んじまうんだもんなぁ、可愛そうによぉ」
そういうと、意識をもうろうとさせて横たわっているムゥの目の前にしゃがみ込み、静かに瓶の蓋を開け、傾けます。
――さらさらと、煎じられた薬草の液体が木造りの床にこぼれ出していきました。
「ひゃはは! さあ飲めよ、その汚ぇ床を舐めろ! 早くしないと木に溶けてなくなっちまうぞぉ?」
「っ! てめぇ……どこまで外道だッ! ムゥがもう動けないくらい弱ってるのが解るだろうが! ふざけてねぇでさっさと棚の……」
そこまで聞くと親分は、空いている右手で思いっきりアリフの顔面を床に殴りつけました。
「がはっ……!」
「誰に口きいてんだ? オレはダインスレイヴのダグザだぞ? そこの小汚ぇ女を助ける義理も、貴様の要求に答える義務もねぇんだよ!」
気絶したアリフは、そのまま頭髪を掴まれ、引きずられるように建物の入口に連れて行かれます。
そこに、黒いマントを羽織った男たちの内の一人、ヤバルが歩み寄ります。
「ダグザ様。どちらへ?」
「この男をアジトの拷問部屋に連れて行く。気に食わねぇ男だ。あらゆる痛みを与えて精神から殺してやるぜ……!」
「作物の回収はどうします?」
「全てヤバル、お前に任せる。全部取り終えたらコイツらは殺せ。絶対に外部に情報を漏らすなよ」
「あい、あいさ! へへへ、さっき厠から飛び立ったハトは撃ち抜けなかったが、今度こそ俺の左腕の銃が唸るぞぉ!」
今の会話が聞こえていた村人が数人、小さく悲鳴を上げました。それを背中に聞きながらダグザはにやりと笑って、家から出ていきました。
アリフやムゥはどうなってしまうのか。
それらは全て、契約者であるあなたたちに託されたのでした。