空京

たとえそこにある世界が幻でも、そこで得たものは確かに「ここにある」――


　ティル・ナ・ノーグ、ハイ・ブラゼル地方。

「それじゃあ、私がいた第四世界は仮想世界だってこと？」
「ああ、そうだ」

　ガンマンの大会が終わり、第四世界から帰還した雅羅・サンダース三世（まさら・さんだーすざさーど）に、高円寺　海（こうえんじ・かい）は告げました。

「俺たちが便宜的に第一世界から第四世界と呼んでいるところは、『大いなるもの』を封印するために四賢者が創った幻の世界なんだ。
　それぞれに『大いなるもの』を封印しているものがあるが、あの世界自体も結界の役割を果たしている」

　そのため封印に綻びが生じても、「ゲート」の出現以外の影響がこちらの現実世界で起こらなかったというのです。
　しかし――、

「なんだ……あれは？
　雲？　いや、違う……」

　ドロシーの小屋のテラスから、海はそれを見ました。
　ちょうど、四つの遺跡のある村外れの方角です。

　――『大いなるもの』！

　ドロシー・リデル（どろしー・りでる）が目を見開き、声を漏らしました。
　空を覆い始めた『大いなるもの』自体は、ただ空に漂っているばかりです。

（いや、あれはその一部に過ぎない。封印の綻びから無理矢理這い出てきた、不完全な姿だ）

　ドロシーの呟きに応じたのは、第一世界の封印を守っていた『偉大なる賢者』ファフナーでした。

（こうして我がいる世界からそちらを窺い知れるということは、結界が弱まっているからに他ならない。だが、これは僥倖だ。我の知る『大いなるもの』を倒す術を異国の戦士たちに伝えることができる）

　ファフナーの声は、花妖精の村にいる契約者たちにも届きました。

（かつての『記録』を見た者たちがいれば、あの瘴気の中には人の負の感情を『大いなるもの』としてこの世界に繋ぎ止めるための核――依り代があるということは既に知っていることだろう。それを倒せば、『大いなるもの』を形成している負の感情は離散し、ナラカへと帰依する。
　だが、相手は人の心の闇から生じている存在。ただ敵意や殺意を向けるのでは、たとえ依り代を倒したとしても、今度はその感情を持つ人間を依り代として蘇ってしまう。それを防ぐためには、依り代を浄化しなければならない）

　その方法が伝えられます。

（今、我の元には勇気・慈愛・希望、三つのクリスタルの力を集約した『光のクリスタル』がある。これを用いれば、依り代となった者の闇に蝕まれた魂を救うことができよう。
　我にはこれを使うことができぬ。あまりに瘴気にあてられ過ぎた。『大いなるもの』の瘴気の影響を長きに渡って受け続けた、四つの世界の住人もまた、この力を最大限に引き出すことは叶わぬ。
　汝らが希望なのだ。異郷より来たりし者たちよ）

「おねーちゃん、大変よ！　ゲートが閉じちゃったわ！」
「何ですって！？」

　そんな時、マリーゴールドの花妖精の少女マリーが慌てた様子でドロシーの元へ駆けつけてきました。
　『大いなるもの』出現と同時に、ゲートが機能しなくなったというのです。

「ゲートがなかったら、光のクリスタルを取りにいけないじゃない……！」

　雅羅の顔に、絶望の色が浮かびました。
　
（こちらの世界に来る方法はまだ残っている。
　『大いなるもの』の内部は本来、瘴気に満ちた異空間になっているが、今は違う。四つの世界がその瘴気を抑え込んでいるということは知っているはずだ。つまり、あの不完全な『大いなるもの』の内部と四つの世界は繋がっているということになる。汝らが封印を死守してくれたおかげで、どの世界もまだ形を失っていない。
　四つの世界は重層構造になっており、接点となっているのはおそらく『大いなるもの』の封印に深い関わりのある場所だ。我が守っていた封印の地は、『大いなるもの』の中心へと繋がっている。ここに辿り着くには、他の三つの世界を通らなければならないだろう）

　しかし、不完全であるとはいえ『大いなるもの』が現実世界に現れた影響で、四つの世界の瘴気が濃くなったとのことです。
　それによって、かつて現実世界から取り込まれた者やその子孫ではない、仮想世界にしか存在しない人々は完全に正気を失っているようです。

　それだけではなく――、

「空に……イコンサイズの魔物か！」

　内部への侵入を阻むかのように、上空には無数の魔物が出現しました。
　その中には、黒く染まった第三世界のバーデュナミス、フィーニクスの姿もあります。
　地上にはまだ出ていませんが、いずれは昔のように地上も魔物で溢れかえってしまうでしょう。

（もう時間がない。『大いなるもの』が完全に蘇ってしまう前に……頼んだぞ）

　ファフナーの声はそこで途切れました。

　現在分かっている限りでは、第三、第四世界は封印を破ろうとする元凶を打破しており、第二世界はまだ闇黒饗団（あんこくきょうだん）が残っている状況です。
　この組織が、大きな障害となる可能性は高いでしょう。
　また、黒いフィーニクスの存在が確認されていることから、何らかの理由で現実世界には干渉できないはずのバーデュナミスが干渉可能になっているようです。
　加えて、ドールズが消滅したはずなのに現れたことを考えると、第三世界にもまだ何かが残されている可能性が高いでしょう。

　そして、瘴気の中心に存在する『大いなるもの』の核とは、一体――。

　『異郷より来たりし者、閉ざされた世界に光を照らさん』

　幻と現にまたがった「物語（おとぎばなし）」の結末は、異国からやってきた契約者たちに委ねられました。

■2011年12月27日：追記
　■クラス適性にクラスを追加しました。


■2011年12月29日：追記
＜アクション締切が延長されました＞

関連シナリオ「【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと（後編）」
公開が遅れているためスケジュールを変更させて頂きました。

参加締切は１月３日、アクション締切は１月４日となります。
お客様には大変ご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ございません。

また「【重層世界のフェアリーテイル】ムゲンの大地へと（後編）」につきましては、
１２月３０日（金）発表予定となっております。


　「重層世界のフェアリーテイル」のラストを飾るシナリオです。
　これまでシリーズに参加していた方だけでなく、参加していなかった方もシナリオガイドと特設ページの基本事項を見て頂ければ基本的な情報は得られるかと思いますので、お気軽にご参加下さい。

　また一部関連シナリオのリアクションが公開されておらず、誠に申し訳ございません。こちらは執筆完了次第すぐに公開する予定ですので、今しばらくお待ちください。


■このシナリオについて

　既にＰＣは、「四つの世界が仮想世界である」ということを知った状態にあります。また、シナリオガイドの内容は全てＰＣ情報として戴いて問題ありません。

　今回のシナリオは以下のパートで、各マスターによって執筆されます。
　どのパートに参加するか、アクションの目的に番号を書いてください。
　無記入や番号違いの場合は判定で不利になりますのでご注意ください。
　また、複数の番号をまたいだ行動はご遠慮頂きますようお願いいたします。

　なお、ＰＣたちは調査団の用意した大型飛空艇や、個人所有の乗り物（飛行可能）で『大いなるもの』を形成する瘴気の中に飛び込んでいくことになります。

　また、各世界におけるルールは今回も適用されます。
　連絡手段である通信機器の扱いにはご注意下さい。

【１】『大いなるもの』外周戦と第三世界（イコン参加可）
　担当：黒井　威匠
　イコンでの参加が可能なパートとなります。
　イコンはお手持ちの好きな機体をお選びください。
　『大いなるもの』内部への突破口を開くために、イコンサイズの魔物と戦うことになります。
　なかには、第三世界のフィーニクス、スフィーダも混ざっています。
　現実世界と第三世界は繋がっており、第四世界への入口があるのはドールズと呼ばれる異生体の本拠地だったヘリオポリスという廃都です。

【２】第四世界（イコン参加不可）
　担当：丹野佑
　正気を失ったガンマンたちが蔓延っていますが、それほど強くはありません。
　ただ、数は多いです。
　ジェニファー・リードや有情のジャンゴは正気を失っておりません。ただ、二人は自分のいる世界の正体を知らないため、仮想世界の住人と現実世界出身者の区別がついていません。
　また、情報の伝え方には注意が必要となるでしょう。
　第二世界への入口は、サンダラーの本体である銃があった武器庫です。

【３】第二世界（イコン参加不可）
　担当：泉　楽
　闇黒饗団の新たな首魁、メイザースが饗団を率いて協会と全面抗争を繰り広げています。また、彼女は仮想世界の住人です。
　『大いなるもの』の瘴気の影響下にある魔法使いを束ねているため、協会が不利な状態にあります。
　レディ・エレインは正気ですが、幹部を含む協会所属の大半の人間は仮想世界の住人のため協会を裏切っています。
　イブリスは行方不明のままですが、彼は現実世界出身者の末裔です。
　瘴気に支配された魔法使いたちは、魔力が底上げされているため、下っ端でも相当な強さを誇ります。
　第一世界への入口は、『古の大魔法』復活の儀式に使われた遺跡の内部です。

【４】第一世界、『大いなるもの』の核（イコン参加不可）
　担当：風間　皇介
　ファフナーは正気を取り戻し、光のクリスタルを託すべく神殿の最深部で待っています。
　しかし、『大いなるもの』の意志が瘴気から幻獣を生み出しており、襲い掛かってきます。とはいえ、元々の幻獣たちに比べれば遥かに劣ります。
　なお、この第一世界が本来のハイ・ブラゼル地方の姿に近く、住人の大半は現実世界出身者です。
　ファフナーのクリスタルが失われれば、『大いなるもの』を完全に倒すことはほぼ不可能となります。
（仮に倒したとしても誰かが犠牲になり、いずれはまた復活してしまう）

　『大いなるもの』の核がどのようなものかは、まだＰＣは知りません。
　物理的な攻撃もしてきますが、幻術や精神操作のような人の心を蝕む攻撃が中心となります。

【５】花妖精の村（イコン参加不可）
　担当：高久　高久
　村にいる花妖精の子供たちの避難誘導や、村外れの遺跡で『大いなるもの』から生み出される魔物に対処することになります。
　『大いなるもの』内部到達まで時間がかかればかかるほど、地上にも魔物が現れる確率は高くなっていきます。【１】～【４】の戦いがスムーズに進めば、地上にはほとんど被害が出ずに済むかもしれません。

　この他、【１】～【４】に関しては仮想世界にいる現実世界出身者を救出するということも必要になるかと思います。
　早い段階ならば正気を失っているかどうかで判別がつきますが、時間がかかった場合現実世界の人も瘴気に蝕まれてしまうため、見分けにくくなってしまいます。
　戦闘、避難誘導の人数バランスが重要となるでしょう。

■クラス適性
　クラス適性は継続して有効となっております。
　一部のクラスはそれぞれの世界において高い適性を持ち、適性のないクラスよりも有利になります。
　各世界における適性クラスは以下の通りです。

・第一世界
　セイバー(剣士)、サムライ(侍)、フェイタルリーパー(大剣士)、ラヴェイジャー(梟雄)、ローグ(盗賊)、ニンジャ(忍者)、ナイト(騎士)、モンク(格闘家)、グラップラー(拳王)、ケンセイ（拳聖）、ビーストマスター(魔獣使い)、ドルイド、ドラゴンライダー(龍の乗り手)、アドベンチャラー(冒険者)、スプリガン（妖精騎士）、スペランカー（洞窟探検者）

・第二世界
　ウィザード(魔法使い)、プリースト(僧侶)、フェルブレイド(魔剣士)、死霊術師(ネクロマンサー)、メイガス(賢人)、魔法少女、オンミョウジ（陰陽師）、シーアルジスト(召喚師)、パラディン（聖騎士）、ハイエロファント（神官）、ミンストレル（吟遊詩人）、ディーヴァ（歌姫）

・第三世界
　アーティフィサー(機工士)、サイオニック(超能力者)、技術官僚(テクノクラート)、トランスヒューマン、スカイレイダー（空賊）、指揮官（コマンダー）、コンジュラー（降霊者）

・第四世界
　ソルジャー(兵卒)、狙撃手(スナイパー)、ヘクススリンガー(魔銃士)、ジャスティシア(判官)、トレーダー（商人）、バトラー(執事)、メイド(給仕)、セネシャル（家令）、トラベラー（旅人）、クイーン・ヴァンガード、セイヴァーシード（種もみ剣士）、コスプレイヤー


■関連
　今回のシナリオと連動したキャラクタークエスト、ロボットミッションが公開されます。そちらもプレイされますと、より一層お楽しみ頂けるかと思います。


　それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

・【１】イコンに乗って魔物を迎撃

・【２】ガンマンの対処

・【３】正気の魔法使いを探す

・【４】ファフナーの元へ向かう

・【５】避難誘導