「わぁ……見て下さい、陸斗くん! 咲きましたよ!」
蒼空学園の広大な敷地。その一角に、ぽっかりと寂れた空間がある事はあまり知られていません。花や木々などの植物は根付かず、小鳥達さえ寄ってこないと噂される、学園に不似合いな打ち捨てられたような場所。
学園を花でいっぱいにしたい……春川 雛子(はるかわ ひなこ)はこの場所で花を咲かせたいとずっと頑張ってきた少女でした。
「お〜、良かったじゃないか」
ようやく咲いた、たった一輪の花。それでも雛子の頑張りを知っている井上 陸斗(いのうえ りくと)は、その喜びに水をさす気にはなりませんでした。
「はい! この調子でこの辺もお花でいっぱいにしたいです」
「つっても、俺らだけじゃ限界あるしな……いっそ、手伝いでも募集するか」
「一緒にお花を植えましょう、で人が集まるですか?」
「だから、何かで釣るんだよ。ボランティア活動の後、美味しいお茶とかお菓子とかご飯とか出します、って」
「お茶会ですね、それって素敵です……でも人、集まってくれるでしょうか?」
「それはまぁ、物好きが居る事を願うという事で」
そんなわけで、学校の掲示板に『お花を植えて、お茶会をしましょう』な張り紙が出されたのです。
問題が起こったのは、お茶会当日でした。
「はぁ? パラミタウサギの大群が蒼空学園に向かってばく進中?」
「うん、そういう事らしいわ」
パートナーの言葉に、チラリと雛子を見やる陸斗。ちっちゃな身体は、期待と不安でいっぱいな様子です。
「知らせるわけにはいかない、か」
パラミタウサギは野に生息している、日本のウサギとよく似ている動物です。
但し、それも300匹からなると……充分脅威と言えるでしょう。
「学校にそれが一斉に進入してきたらマズいよな」
怪我をする生徒も出るかもしれません、お茶会だって中止になるでしょうし、勿論花なんて一たまりもないでしょう。
「とはいえ、片っ端からやっつければいい……ってわけ、いかないよな」
「可哀相です、って女子生徒が泣くわね」
そうして、パートナーである剣を手に、
「それにしても、パラミタウサギがこんなに人の居る所に近づくなんて……しかもよりによってこんな日に」
陸斗はそう溜め息をついたのでした。