「心配させてしまったお詫びと、助けてくれたお礼も兼ねて──旨いものを食わせるぞ!」
数ヶ月前──
温室管理人オーバタ・マナーブ(62)は、行方不明になりました。
我が子のように可愛がっている巨大食虫花、タネ子に喰われ、あの世に逝きかけていたのです。
そこを、生徒達によって奇跡的に救い出され、九死に一生を得ることが出来ました。
あれから管理人さんは、感謝の気持ちを皆に伝えたいと、ずっと思っていました。
騒動で荒れた温室は整理され、ようやく元の姿に戻ろうとしています。
管理人さんの生活も落ち着いてきて、お礼をするなら今を逃す手はありません。
『──美味しいものを、腹いっぱい食わせてやるぞ』
その言葉に、生徒達は飛び上がりました。
「美味しいもの??」
「ご馳走ですね! 高級レストランにでも連れてってくれるんですか??」
「何を食べさせてくれるんでしょう?♪」
「タネ子」
「…………え?」
「タネ子だ」
興奮冷めやらぬ生徒達に向かって、管理人さんは淡々と答えます。
「た、たね? たね…タネ……………はいぃいぃ!???」
「何をそんなに驚く?」
「タネ子さんって食べられるんですか!?」
「だ、だってタネ子さん、三連のあの大きなハマグリ頭は……この間、しじみサイズになって……」
「あんなの一週間もすりゃ元通りだ」
「…………」
「アイツは美味いぞぉ!」
管理人さんの言葉に──笑顔に、嘘は感じられませんでした。
タネ子は一体、どんな味がするのでしょう?
「──タネ子さんの頭を食べるのは……グロテスクって気がするんだけど……」
「そうだよねぇ。頭だよ頭ー……でも、美味しいって」
「言ってたねぇ、美味しいのかなぁ」
「行って…みる?」
「……行っ…てみよっか」
恐々と、足が前に出ます──…
◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇
管理人さんはタネ子を網焼きするため、足りない材料を買いに出かけます。
つまりハマグリ頭三つは、自分達で採取しなければならないのです。
どうやら首(?)の根元辺りをぽこんと叩くと、頭は簡単に落ちていくとのことでした。
復活したタネ子は、またしても巨大な根や茎を張り巡らせ、我が物顔で温室を優雅に浮遊しています。
触手の森も盛大に復活し、誰かが囮にならなければハマグリ頭へは向かえないでしょう。
温室の最奥には珍種の果物が生息しています。普段は決して入ることの出来ない未知の領域。
上の人間しか口に出来ない果物を食するのも一興かと。
そして温室の番犬である
ケルベロス君──彼は今、風邪気味で調子が悪そうです。
しきりにクシャミを連発しています。