五獣の女王器を探すこと。
剣の花嫁である生徒たちを洗脳し、空京で暴れさせることで各学校の評判を失墜させること。
十二星華天秤座《リーブラ》のティセラによって引き起こされた空京での美術品破壊騒動は、皇彼方・テティス・レジャやカンバス・ウォーカーに協力した生徒たちの活躍により、その目的を断たれ一応の決着を迎えます。
カンバス・ウォーカーはその存在と引き替えにティセラから女王像の破片を奪うとそれを、空京の街に向かって放り投げました。
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「たかだか愚にもつかないレプリカ像の番犬……出来損ないの、生命体のくせに」
パラミタの空に溶けたカンバス・ウォーカーに呆然とする生徒達の囲いを突破。
空京の街へと駆け込んだティセラは、そうこぼして空を仰ぎました。
口許は忌々しそうに、わずかに歪められ、それはこの空京に現れたティセラがはじめて浮かべた焦りの表情だったかもしれません。
ピタリと足を止めてから、考えをまとめるように一瞬俯くティセラ。
再び顔を上げたとき、そこにはいつもの余裕が浮かんでいました。
そして、それに呼応したかのように、街路からはぞろぞろと人影が姿を現します。
現れたのは、やはり一様に表情の消えた剣の花嫁達。
まばゆい光を放つ光条兵器だけがその存在を主張しています。
「お聞きなさい。わたくしの可愛い妹達。目標は……女神像の胴部。邪魔をする者がいるなら、ふふふ。お分かりですね? 遠慮など、いりませんわ」
その言葉で、剣の花嫁達は空京の街へと散っていきました。
「さて、わたくしも行きましょうかしら。輪舞曲を申し込んでくる者がまだいるのであれば……」
ティセラは胸元に手をやってから、先ほどカンバス・ウォーカーを切り捨てたばかりのビックディッパーにちらりと目を落としました。
「お断りする理由はありませんわよね」
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「彼方、わたし達もっ!」
空京に駆け出したティセラを追って、テティス・レジャもパートナーに声をかけますが、一方の皇彼方は思案顔です。
「彼方? 早く行かなくちゃ、このままじゃ、カンバス・ウォーカーさんの想いが無駄になっちゃうわっ!」
「わ、わかってるっ。けど、どうすればいい? 女王像の胴を見つけても、いや、誰かが見つけてくれても……空京にはまだ洗脳された剣の花嫁達がいるだろうし、これでまたティセラは自分の手駒を増やそうとするかもしれない。ティセラを追い返さなけりゃ……どうしたって手詰まり……どうにか、どうにか考えなきゃ」
前途多難の、追走劇の始まりです。