蒼空学園

「ダメだ、と仰っておりますが」
　イルミンスール魔法学校の保健室。仰向けに横たわりながら、ベルバトス・ノーム（べるばとす・のーむ）教諭は携帯を耳に当てていました。
　電話の相手はクイーン・ヴァンガードの隊員でしたが、先程からの同じ答えに、教諭は思わず笑みを零しました。
「埒があかないねぇ、代わってくれないかなぁ…　居るんだろぅ？　女王候補殿様」
「それは出来ません、ミルザム様は病床に伏しておりますので―――」
「……　構わないわ……」
　隊員の背後から聞こえた声は酷く弱々しいものでしたが、電話口から聞こえてきた時には、いつものミルザム・ツァンダ（みるざむ・つぁんだ）の声でした。
「何度仰られても同じです。彼女に会わせる訳には行きません」
「これはこれは、元気そうでなによりだ。病床に伏しているなんて、ガラじゃないよねぇ、くっくっくっ」
　元気であるはずは、ありませんでした。彼女の周りには３人の隊員が定期的に治癒魔法を唱えているのです。
　ガラクの村でパッフェル・シャウラ（ぱっふぇる・しゃうら）に侵された毒は、青龍鱗の力を用いても解毒することは出来ませんでした。
　村から戻って丸２日、休まず治療を受ける事で何とか自我を保っている、そんな状態でした。
「せっかく捕えたんだ、調べる事は山のようにある、さて、どこから手をつけたら良いのだろぅねぇ？」
「ですから、それは私たちクイーン・ヴァンガードが―――」
「水晶化の解除法、知りたくないかぃ？」
「なっ！」
「解けてないんだろう？　先に水晶化されたユイード君は、私が解除したよ」
　ガラクの村にて、パッフェルに協力した生徒たちの身柄は、蒼空学園の校舎内にて２４時間体制で監視されているのですが、その中には全身を水晶化された生徒が数名いました。それらはユイード・リントワーグが受けた水晶化と同じく、ミルザムでは解除できない水晶化だったのです。
「……　方法さえ教えて頂ければ、私たちが―――」
「呪術の解き方なんて、見当もつかないだろう？」
「呪術……」
「私も研究室を全壊されて困っていたんだ、暫くそちらの世話になるとするよ、くっくっくっ」
「…………」
　教諭の笑い声だけが、響いては床に落ちて行くのでした。


　電話を切ったミルザムは、横たわる事なく部屋をあとにしました。
「ですから、奴は殺すべきです！」
「そんな！　彼女だって悪い娘だと決まった訳では…」
「情報を聞きだすのが先だろう！」
「あの力は脅威であるが、味方につければ十分な戦力になる」
「ティセラ側が奪回に来たら…　恐ろしくて考えたくもない…」
「反逆者たちはパラ実送り、で宜しいでしょうか」
　隣室では連日の大討論会が開かれていましたが、彼女が向かったのは地下の演舞場でした。
「体内の毒さえ浄化できれば、この娘もきっと……」
　更生を信じて。己を蝕む毒さえも浄化できていないと言うのに。
　拘束されたまま、今も目を覚まさないパッフェルに、彼女は今日も青龍鱗を向けるのでした。


「さぁ、アリシア、向かうとしようか」
「えぇ、ですが…」
　体重計の上に乗せたままのユイード像に瞳を向けてから……。
　それでも教諭は小さく声をあげて笑いました。
「そうだったねぇ、くっくっくっ。まぁ、着くまでに考えれば良いさ」
　固まり動けない全身ともに。水晶と化したままのユイードの頬が、きらりと輝いているようでした。

　
　こんにちわ、そしておかえりなさい。ゲームマスターの古戝正規です。

　このシナリオは「【十二の星の華】狂楽の末に在る景色（全３回）」の続編となります。
　好き放題に暴れておりました「パッフェル」が、前回、遂にその身柄を拘束されました。
　彼女の処遇をどうするのか、それを何と！　全１回で描き完結させたい！　と思っております。　

　舞台は主に蒼空学園内に設置されているクイーン・ヴァンガード本部となるかと思いますが、他校の生徒たちは、前回の事件の「当事者ゆえの報告」や「事件に関する情報提供」という名目で蒼空学園内に入る事ができます。
　
　反逆者たちにかけられた水晶化やミルザムを蝕む毒は、「青龍鱗」の真の力を引き出す事ができれば解除・浄化する事ができます。しかし、正式なシャンバラ女王ではないミルザムにはそれが出来ない、という事です。

　また前回、全身が水晶化され『水晶化（phase-4-ii）』の称号を所有しているＬＣは、水晶化が解かれるまでは自分の意思で動く事ができません。
　ご参加の際には、水晶化が解かれた後のＭＣとの会話や行動をアクションにしていただきければと思います。　


　疾風の如きに駆け抜ける、そんな”ひととき”となりますよう、一緒に楽しみましょう♪
　

・パッフェルを殺すべきだと提案する。

・敵を迎え撃つ。

・校内の警備をする。