蒼空学園

　世界樹セフィロトの化身である女神イナンナを封じられ、征服王ネルガルに支配されたカナンは、徐々に滅びへの道を歩んでいました。
　西カナンは領主ドン・マルドゥークの反逆によりさらに荒廃が進み、砂の降る不毛地帯へと変えられています。それには、南や東に対するみせしめの意味もあったのでしょう。

　東の領主バァル・ハダドは早期からネルガルに自ら忠誠を誓い、弟のエリヤを差し出しました。そのためネルガルの歓心を買い、その庇護を受けたおかげで東は西とは対照的に緑が残り、比較的イナンナが封じられる前の状態を維持しています。
　特に東領主の居城のあるアガデの都は、ほぼ変わらぬ繁栄を続けてこられていました。

　これまでは。

　しかし女神の加護を失ったカナンの斜陽は、容赦なく東にも押し寄せていました。
　西・南との国境付近の町や村には頻繁にモンスターが出没し、降砂の影響で田畑は荒地化しました。餓死者も出始め、人心が荒れて野盗となる者も現れました。行路を行く商人は途絶えがちになり、人々は戦々恐々とした日々を過ごしています。
　領主にモンスター討伐の嘆願書を出す者もいましたが、領主からの返答はなく、人々は自衛をとらざるを得ませんでした。



「ネルガルを倒さねば、カナンは滅びる！」

　国境近くの町・マリがモンスターにより壊滅したとの書状を握り締め、バァルの幼なじみで、彼が領主の地位についてからはその側近として常に彼のそばにつき従っていたセテカ・タイフォンが、声を荒げてバァルに詰め寄りました。

「ネルガル殿に従えば、この東カナンは安泰だ」
「こんなものはまやかしの平和だ！」
「西や南よりましだろう。逆らえばどうなるかは、西を見ればあきらかだ」
「『まし』だと？　そんなことが理由になるか！　いずれはこの地にも荒廃は押し寄せる！」

　セテカはネルガルに反旗を翻すよう説得に努めましたが、バァルは「できない」の一点張りで、応じようとはしませんでした。
　むしろ、不敬罪で謹慎を命じられてしまったのです。
　翌日セテカは、今の状況を憂い、民を脅威から解放する意思を持つ者を兵の中から募りました。
　兵の中には地方出身の者も多く、家族からの手紙で故郷の惨状に胸を痛めている者も数多くいましたので、セテカに従う者は相当な数に上りました。

「これよりわれらは離反者となる。われらはもはや領主の命には従わず、よってその庇護を受けることもない」

　自分に賛同する兵士たちを連れ、セテカはアガデの都を離れました。

　数日後。
　蒼空学園校長山葉　涼司（やまは・りょうじ）の元に、東西シャンバラ代表者およびマルドゥークとの会談の申込みがきました。
　セテカはバァルの腹心であったため、マルドゥークとも幾度か顔を合わせたことがあります。
　セテカの名の入った文書に、ついに東の領主が立ったのかとマルドゥークは喜びましたが、それもつかの間。現れたセテカは追放された離反者でした。
　彼は領主のやり方に不満を持つ者を集めて離反しましたが、それでも戦力が足りません。そこで彼は、マルドゥークが東西シャンバラ人の手を借りて効果を上げていることから、自分もそうしようと考えたのです。

　セテカは東西シャンバラへの応援要請と、マルドゥークには彼の行動に対する承認を求めました。
　セテカたち反乱軍は、モンスターの襲撃から町や村を解放しつつ仲間を増やすことでバァルを説得するつもりです。しかし、結局のところそれは主君への謀反であり、武力による脅しです。
　現領主がどのような者であれ、ハダド家はイナンナよりカナンの東を統治する役割を賜った由緒正しい家柄ですが、あくまでも応じないのであれば彼を弑することも辞さないと言うセテカに、マルドゥークは、領主が起たないのであればそれもやむなしと考えました。

　そこに、反乱軍が拠点とするメラムの町が、ネルガルの放ったモンスターに襲撃されるという一報が入りました。
　現在ネルガルは東の領主の居城にて、厚い歓待を受けています。そして宴にて離反者たちのことを聞き、彼らを受け入れたメラムの町への制裁を考えついたのでした。

　反乱軍を受け入れたとはいえ、メラムの町には一般市民も多数います。

「メラムの町をモンスターの襲撃から救うため、手を貸してくれ！」



「クク……愉快愉快…」

　酒の入った杯を片手に、黒水晶の映し出す光景にネルガルは見入っていました。
　地中を進む10匹のワームの群れ。
　東はまだ地盤が固いため、西の砂のようにはいきませんが、それでもワームたちはメラム目掛けて掘り進んでいます。
　このワームたちが自分に逆らう反逆者たちをことごとく屠る様を思い描き、ネルガルは浴びるように杯を飲み干していました。
　その姿を、バァルはただ、背後から見つめているだけです。

「ネルガル様。酒のにおいに少々酔いました。退室してもよろしいでしょうか」

　女神官アバドンが席を立ちました。

「おお、よいよい。構わぬぞ」

　そう言う間も、ネルガルの目は黒水晶に引きつけられたままです。彼の全関心は、今、黒水晶のみにあるようでした。
　アバドンは一礼し、俯きかげんで背後の扉へと向かいます。
　背の高いバァルとすれ違うときだけ、面を上げました。
　深くかぶったフードの下から盗み見るように若き領主と視線を合わせます。一瞬意味ありげな笑みを送ったあと、アバドンはゆっくりと部屋を出て行ったのでした。

　こんにちは、または初めまして、寺岡　志乃といいます。
　今回【カナン再生記】にて東カナンのメインストーリーを担当させていただくことになりました。
　よろしくお願いいたします。

　東カナンは現在、領主バァル・ハダドがネルガルに服従することによってどうにか荒廃を食い止めています。しかしそれも中央付近のみで、国境近くから徐々に荒廃は進んできています。また、モンスターの襲撃はなくても他の町や村からの物資が滞りがちになっており、アガデの都の者でも商人や地方出身者などで一部には危機感を感じる者はいますが、まだまだ数は少なく、大半は「領主さまのおかげでこの町は平和」と考えています。
　バァル本人も、文武に秀でた良い領主として領民からの人気は高く、信頼が厚いため、セテカたち反乱軍はまだ数がそれほど多くはありません。

　舞台となるメラムの町について。
　人口5000人ほどの小さな町で、西との国境付近にあり、荒廃が進んでいます。対モンスター用の外壁（５メートル）が築かれています。この壁は３メートルほど地中にもあります。
　町には反乱軍兵士もいますが、ほとんどは一般市民です。家屋は平屋か２階建てで、高い建物は鐘塔しかありません。中央部には広場があり、噴水施設がありますが、現在は干上がっている状態です。この広場を中心として放射状に道が走っています。
　また、広場に面した施設に、女神イナンナを祀る礼拝堂があります。ネルガルによる指示で長らく封鎖されていましたが、反乱軍の手によって再び開かれています。
　このほか、小さな町にあると思われる物は、突飛な物でない限り大抵あります。

　ワームの群れについて。
　地中系モンスターです。ヘビのようなミミズのような姿をしており、前面部は全て口です。内側にはサメのような刃が３重になって内向きに生えており、動く物は何でも丸呑みします。体中に短い剛毛が生えていて、蠕動することによってこれが周囲の物を引っかけ、地中あるいは地上を進みます。表皮は普通に剣で傷つけられますが、体脂肪が厚く、60〜70センチほどあって、なかなか内臓までは届きません。
　目は退化してありませんが、体表に散っている微小な視細胞によって光の方向や相手の動きを感知します。呼吸は皮膚呼吸です。
　武器として、毒液を飛ばします。５メートルほど飛びます。通常は餌を痺れさせるための物ですが、人間には強すぎて毒となります。
　ワームのうち２匹は巨大で、地中の壁をもぐって越えて内部に侵入する力があります。残りの８匹は壁を越えられないため、地上に出て襲撃します。


　東カナンの地面はまだ砂に埋もれきってはおらず、硬いため、モンスターがメラムの町にたどり着くには猶予があります。
　連絡を受けて準備をし、向かうことになりますが、モンスターとほぼ同着と思ってください。
　モンスターより以前に到着したい場合は、なぜそれができたかの説明を入れてください。その内容により判断させていただきます。
　また、飛空艇等で壁を越えて空から町に入ることはできますが、町の門は襲撃のために閉ざされており、地上からは入れません。町のワームと戦いたい場合はどうやって壁を越えるかもアクションに盛り込んでください。

　そのほかとして、建物は現状、荒廃により傷みが激しいため、戦闘が激化すると崩れる可能性が高いです。大技を使う場合は気をつけてください。


　皆さんの個性あふれるアクションをお待ちしております。

・町の中で戦う

・町の外で戦う

・町の人を守る