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シナリオガイド

その力、F5
シナリオ名:ピラー(前) / 担当マスター: 革酎

 ツァンダの名門クロカス家には、バスケス家という分家が存在します。
 そのバスケス家の領地はシャンバラ大荒野との境界に接する、ツァンダ地方の最東端に位置していました。
 ところが、バスケス家の領地から僅かに数キロメートル程東側、即ちシャンバラ大荒野内へ僅かに入ったところで、気象研究学者クレイグ・バンホーンが妙なものを発見しました。
「博士、これは……」
 照りつける太陽のもと、額の汗を拭いながら、助手の若者は緊張した面持ちでバンホーン博士に問いかけました。対するバンホーン博士も、深い皺が刻まれた老齢の面に、渋い色を浮かべて、その光景にじっと見入っていました。
 彼らがジープを止めた岩場から西へ向けて、幅数百メートルにも亘る巨大な破壊の跡が、延々と続いていたのです。緊張するなという方が、無理な話でした。
 まるで巨大な掘削機が地面を掘り返していったような、凄まじいまでの蹂躙の形跡でした。一体どれ程の巨大な化け物が、これだけの暴虐を残していったというのでしょうか。
 しかしバンホーン博士には何か思い当たる節があったらしく、渋い表情ではあるものの、ある確信を抱いた様子で、静かにしわがれた声を絞り出します。
「これは……恐らく、ピラーじゃな」
「ピラーって、あの……伝説の巨大竜巻、ですか?」
 助手の若者は信じられないといった様子で、思わずジープの運転席からバンホーン博士の顔を覗き込んできました。
 ですが、バンホーン博士は信じて疑わないといった強力な視線を、助手の若者にじろりと向けてきます。
 助手の若者は思わず、ごくりと息を呑み込みました。

 ピラーとは、地面に接する基底部の直径が数百メートルにも及ぶという、壊滅的な破壊力を誇る巨大竜巻です。
 シャンバラ大荒野では数百年に一度の確率で、このピラーが発生するとの伝説が、そこかしこの集落で静かに伝えられてきました。
 その破壊力は、地球の竜巻計測基準に照らし合わせればF5クラス、即ち竜巻としては壊滅的な威力を誇るランクに当たるともいわれています。
 キマクやツァンダで記された、古代から近代に至るまでの様々な文献によれば、過去に発生したピラーは全てシャンバラ大荒野内でのみ発生し、他の地方には一切脅威を及ぼすことは無かった、という記録が残っていました。
 しかし今回は、少し毛色が異なるようです。
 少なくともバンホーン博士は、今回発生したピラーが、過去の文献とは明らかに異なるルートを取り始めていることを強く危惧している様子でした。
「ピラーは亡者の怨念が創造した、ナラカへの使者……その怨念を静めるは聖石クロスアメジスト」
「それって、冒険家のカニンガム・リガンティが発表した論文の一節ですよね。事実かどうかは分かりませんけど」
「複数の文献にも似たような文言が記されておる……あながち、嘘ではないかも知れん」
 バンホーン博士の言葉を受けて、助手の若者は依然として青ざめた表情のまま、掘り返された大地をじっと見据えています。

     * * *

 バスケス家の邸宅に、レティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)が現れたのは、その日の夕刻でした。
 酷く慌てた様子で広大な面積を誇る居間に飛び込んできたレティーシアですが、バスケス家の当主であるヴィーゴ・バスケスは、レティーシアのそんな様子を随分と冷めた目で見詰めていました。
「……せめてノックぐらいしたらどうだね、レティーシア。仮にも、クロカス家の令嬢であろう?」
 ヴィーゴの粘っこい声質のひとことに、しかしレティーシアは全く意に介さず、半ばまくし立てるような勢いで一気に声を絞り出しました。
「ヴィーゴ叔父様、どうか明日の使節団受け入れは、延期してください!」
 レティーシアの藪から棒ないい草に、ヴィーゴは露骨なまでに不機嫌な表情を浮かべました。
 実はレティーシアがいうように、バスケス家は明日、ツァンダ家の使節を領内に迎え、家格の昇格審査を受ける運びとなっていたのです。
 ところがレティーシアは、その昇格審査を延期しろ、というのです。ヴィーゴが機嫌を損ねるのも、無理からぬ話でした。
「突然何をいいだすのだ? 分家の分際でありながら、本家たるクロカス家に我がバスケス家が家格で並ぶのがそれ程に気に入らんというのか?」
「違います! その程度のことで、態々ここに来たりしません!」
 言葉の弾みとはいえ、レティーシアに『その程度のこと』と断じられてしまったヴィーゴは、益々不機嫌そうな色を強め、あからさまに敵意を剥き出しにした視線をレティーシアにぶつけるようになりました。
 それでもレティーシアは、相手にどう思われようが知ったことではないとの勢いで言葉を繋ぎます。
「つい先程、バンホーン博士から重大な報告が届いたのです!」
 曰く、ピラー発生の可能性が極めて高く、しかも今回はバスケス家の領内にまで侵食してきている恐れがあるとのことでした。
 ところが、ヴィーゴはレティーシアからの必死の忠告に対して、眉ひとつ動かさずに冷淡な声を返すばかりです。
「……それがどうした? ただの気象予報如きに、大事なイベントを中止せよというのか? お前が案ずるまでもなく、昇格審査に来られる方々は、我がバスケス家が全力を持ってお守りする。それで良いではないか」
「ですが! 領民はどうなさるのですか!? 早く避難指示を出さないと、どこでどのような被害が出るのか、全く予測がつかないのですよ!?」
 レティーシアの必死の申し入れを受けて、ヴィーゴが放ったひとことは、レティーシアにとっては信じ難い内容でした。
「領民が何だというのだ? 私にとって大事なのは昇格審査だ。領民の代わりなど、幾らでも居る」
 そのひとことにレティーシアは愕然たる思いを抱き、その場に立ち尽くしてしまいました。

     * * *

 先日、五歳の誕生日を迎えたばかりのミリエルは、薄暗い納屋の中でひとり、すすり泣いていました。
 粗末な麻の衣服から伸びるか細い手足や、端整な愛らしい面には、幾つもの青痣が浮かび上がっています。毎日のように、里親から受ける虐待の痕でした。
「パパ……早く、返ってきてよ……」
 納屋の隅、藁が堆く積み上げられた一角で、ミリエルは光を失った両目から大粒の涙を流しながら、小さな両手で十字型の紫色に輝く石を握り締めていました。
 それは、行方不明となり、今では生死も知れぬ身となった父親から貰った、大事な思い出の品でした。
 ミリエルの父親は、行方不明となる前は高名な冒険家で、保持する資産は極めて莫大であるといわれており、その資産にあやかろうとしたフェルヴィル・ゾーデとアネッサ・ゾーデの夫妻が、父親不在時にはミリエルの里親として、彼女を養育する約束となっていました。
 ところが、ミリエルの父が生死不明の行方知れずとなって以降は、ミリエルはゾーデ家にとってただの厄介者と化してしまい、見込んでいた養育の報酬も受けられなくなった腹いせとばかりに、毎日の如く虐待を受け続ける身となってしまっていたのです。
「おいミリエル! いつまでこそこそしてやがる! さっさと出て来て、水汲みやらねぇか!」
 納屋の外で、フェルヴィルの獰猛な声が響きました。
 ミリエルは一瞬、全身で大きく震えました。出て行こうにも、体が上手く反応してくれません。
 このまま愚図愚図していると、また酷い目に遭わされる……そんな恐怖心が、更にミリエルの華奢な体躯を硬直させてしまっていたのです。
 と、その時。
「あ……誰?」
 ミリエルは思わず、藁山の傍らに顔を向けました。何かの気配を、感じ取ったのです。フェルヴィルの怒鳴り声も恐ろしいのですが、突然現れた謎の気配に、ミリエルはすっかり気を取られてしまいました。
 絶対に、そこに何か居る――ミリエルは手探りで土間床を這い回り、その気配の方向へと進んでいきます。
 そこに佇んでいたのは、鈍い黒光りを放つ鋼糸製の三度笠を目深に被り、同じく鋼糸製の蓑でほぼ全身を覆っているという不気味な巨躯でした。
 幅の広い頭骨は亀とも蛙ともいえるような形状で、乱杭歯が並ぶ大きな顎と、顔面のほぼ中央に位置する握り拳大の単眼、即ち、巨大なひとつ目が、薄闇の中で随分と目立っているようにも見えました。
 ところがミリエルは、全く恐れた様子も見せず、その巨漢の足もとにまで這っていきました。
 そう彼女は――目が見えなかったのです。

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 本シナリオガイドをお読みくださり、ありがとうございます。

 ちょっと色々情報が交錯していますが、敢えて、あまり詳しい話はここでは致しません。
 ご参加頂ける皆様方に、あれこれ頭を捻って頂こうというのが、今回の下名の意図でございます。ただ、何も指針を示さないのは不親切に過ぎるので、ここで簡単なアクション例を提示致します。

 行動例としましては、以下のような内容が考えられるでしょうか。
 ・レティーシアと共にバスケス家領内で領民救助に動く
 ・ピラーの謎を調べる
 ・クロスアメジストの所在を調べる

 また、タイトルの通り、今回は前編です。後編にも話が続くことを踏まえ、どの辺までストーリーが進むのかを推理しながらアクションをかけて見るのも、良いかも知れません。

 それでは、皆様からの素敵なアクションをお待ちしております。

▼サンプルアクション

・レティーシアと共にバスケス家の領民を救助。

・ピラーについて調べる。

・クロスアメジストを探す。

▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています)

2011年09月13日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2011年09月14日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2011年09月18日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2011年09月30日


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