荒れに荒れ果てた朽ちた遺跡にて、少女は一人でした。
瓦礫の一つに腰掛けて、足をぶらりぶらり、うつろな目で自らの足を追いかけています。
「何年ぶりに目覚めたのかな。なんだか、何千年も経ってるような気がするよ」
かつて彼女が「願いの魔精」と呼ばれていたことを知る人は、今はあまり多くありません。
「願いの魔精」とは、その名の通り、人の願いを叶える魔精です。その代償に魂を求めて、魔精はどんな願いも叶えます。
億万長者にしろ、難病を治してくれ、欲望も祈りも区別なく叶えます。代価の魂も、等しく求めます。
けれど、それも昔。
最後に願いを叶えたのは、いつのことだったか。今や「願いの魔精」の伝承はごく一部の地域に伝わっているだけ。
願いを叶える時にだけ呼び出され目覚める彼女は、長い眠りから、たった今目覚めたところでした。
「また、願いを叶えなきゃいけないんだ」
彼女がこうして目覚めているということは、何者かが願いを叶えるために願いの魔精を呼び出したということです。
少女は憂鬱そうにため息をつきました。彼女の精神性は人間の少女となんら変わることはありません。
欲にまみれた願いを叶えることは嫌だし、清く尊い祈りからの願いを持つ人の魂を奪うことは心が痛みます。
叶えた願いのせいで争いが起こり、恨まれ、なじられたことも一度や二度ではありませんでした。
いつだって、もうこんなことはしたくない、と思ってきました。
「でも、それも最後」
少女が目覚めた時、呼び出した者は目の前にはいませんでした。どうやら召喚の儀式に失敗して、召喚地点がズレてしまったようです。
おそらく、「願いの魔精」の伝承はすっかり色あせ、召喚儀式の作法が完全には伝わっていなかったのでしょう。
願いを叶える魔精である彼女は、願いを叶え、代償に魂を得て、呼び出されるまで再び眠りにつく、という制約から逃れることはできません。
ただ願うだけの自由もありませんでした。
だけど、今なら。
彼女ははじめて願いました。
もう二度と人の願いを叶えることのないように、と。
差し出すような魂はないけれど、ひょっとしたら、どこかの誰かが願いを聞き届けてくれるかもしれないから。精一杯、多くの人に伝えました。
「なんでも叶えることができるはずなのに、自分の願いは叶えられないなんて、バカみたい」
小さく笑って、彼女は夢心地な気分で待ちます。
自分を消し去ってくれる人のことを。