蒼空学園

「このオレが映画の主演に……！？」　
　突然届いた一枚のはがきに、高円寺　海（こうえんじ・かい）は戸惑いと喜びの入り混じった表情で呟きました。

　こっそりと見ている深夜番組。
　あのファンの三反田白黒（さんたんだしろくろ）監督が次回作として撮影する映画の俳優を一般募集していたので、あくまで「知人に勝手に推薦された」と別人の名前を使って応募していたのですが、その彼に、当選の通知が来たのです。

　撮影する映画は『電撃・ドラゴン刑事（デカ）』
　主人公のドラゴンにふさわしい！　と監督は惚れ込んだようなのです。

「いやしかし……オレはプロの俳優ではないし、そもそもこんな低俗な番組に出演するわけには……」
　自分で応募しておきながら、まさか本当に当選するとは思っていなかった海は葛藤します。
「こんなチャンスはもうないかも知れないが……、まあそんな美味い話なんかあるはずないし、釣りかなにかだろう、バカバカしい……」
　ポイッと葉書をゴミ箱に捨て、彼はそんなことなどすっかり忘れたかのごとく眠りにつきます……。

　次の日……。
　空京の映画制作会社、ジャバラ映像には大きなポスターが張り出されていました。

　『電撃・ドラゴン刑事』の出演者、大募集中！

　噂はケータイも介してたちまちに広まり、お祭り気分で様子を見に来た人たちが集まってきていました。
　一体何が始まるのかと興味津々です。

　そんな中、空京へ遊びにやってきていた雅羅・サンダース三世（まさら・さんだーすざさーど）は山葉　聡（やまは・さとし）の姿を見つけて声をかけます。
「なんだ、聡も来ていたの？　みんなヒマよねぇ……」
「ふっ……、山葉聡だと？　誰のことだ、それは？」
　すっかりやる気満々でかっこいいポーズをとる聡。目つきがカンフー使いの主人公になっています。
「俺は……ドラゴンだ！」
「……春よねぇ……まあ頑張って……」
　呆れ顔で見つめる雅羅に、聡はにやりと笑って言います。
「そういう雅羅こそ、ずいぶんとめかしこんで来ているじゃないか。さては、ヒロインの座を狙っているな？」
「な、何を言っているのよ。いや、違うの……これは、その……余った服を着てきただけなんだからねっ。勘違いしないでよね！」
　雅羅、必死に言いつくろいますが、バレバレです。出る気満々です。
　一方、聡の方も可愛い子たちが集まってきているっていうので、テンション上々。
「まあ、どっちでもいいさ。雅羅が出演するなら俺も気合入れていい演技が出来そうだぜ。一緒に楽しもうぜ……」
「……だから、私そんなつもりじゃ……」
　と……。
　熱気をたぎらせて迫る聡の肩を背後からトントンと叩いたのは高円寺海でした。
　昨夜ゴミ箱へ直行したはずの招待葉書をアピールしながら、聡に言います。
「ドラゴンは……オレだ」
「ふふふ……それをもらったのは海だけじゃない。俺もだ……！」
　得意げに後ろポケットから葉書を取り出す聡。どうやら他の応募者にも同様の葉書が送られていたようです。
　ですが、それくらいで引き下がる海ではありません。
「要するに……勝てばいいんだろ……？」
　海は、意味ありげに指先をちろっと舐める仕草をしてから、くいっくいっと手で挑発します。
「……」
　聡は無言で距離を取ると、真顔でヌンチャクを振るマネをしてから、ビシイっ！　と構えます。
　しばしの対峙……。
「ホアタアアアアッッ！」
「トゥアアアアアッッ！」
　二人のドラゴンが雌雄を決しようと同時に飛びかかった時でした。
　ガンッ、ゴンッッ！　と鈍い打撃音が響き渡り、横合いから力任せに振り下ろされた金だらいが聡と海の脳天を直撃します。
「二人とも失格。天井から金だらいが落ちてくるレベルの演技力だね」
　現れたのは、全身黒ずくめの格好をしたアゾート・ワルプルギス（あぞーと・わるぷるぎす）です。彼女は金だらいを手に言いました。
「心配しなくても、これ客寄せイベントだよ。どうせ……厳しいオーディションがあって大半は脱落するのは目に見えているよ」
　どうやら金だらいの硬い部分が命中したらしく頭を痛そうに押さえてうずくまった聡と海を無表情で眺めてから、アゾートは雅羅に向き直ります。
「あ、それからこの衣装は、余った服を着てきただけなんだからねっ。勘違いしないでよね！」
「……どうして私の台詞を真似するのよ」
　雅羅が眉根を寄せると、アゾートは視線をそらせます。
「まあ、なんとなく……。ドラゴン刑事には闇の錬金術師が必須でしょ、だからだよ……？」
　ちなみに、金だらいはお笑いも理解しているとのアピールから用意してきたらしいです。
「全然、必須じゃないし、わけわかんないわよ！」
　雅羅は全力で突っ込みます。

　そんなこんなでワイワイしていますと、間もなく三反田監督がプロデューサーと共に登場します。
　監督は集まった人たちを見回して、開口一番。

「あえて言おう。オーディションなどただの飾りである、と！」

　えええええっっ！？　と皆は目を丸くします。あえて言っちゃっていいのでしょうか、そんな台詞。
「というわけで、集まってきた人、全員採用。……さて、早速撮影に入るか」
　いや、ちょっと待て、本当にいいのかこれ……？　監督の言葉に辺りがざわめき始めます。
「ちなみに……この番組、本当に放送されるからそのつもりで。
　　……ちっ、あの所属俳優連中め。ちょっとギャラカットしたくらいで撮影ボイコットしやがって……」
　えええええっっ！？　と皆はまた目を丸くします。小声でも聞き逃しません。テンションだだ下がりです。
「それってつまり、ギャラは出ないってこと？」
　誰かが聞きます。まあ、イベントなんだろうけど……それでも何か欲しいのは人としての自然な欲求です。
　質問を察していたかのように、プロデューサーと監督は顔を見合わせて頷きます。
「有線放送、一年間視聴料無料でどうだ？　……それくらいなら提供できる」
「……」
　うん……どうなんだろう？　これは……微妙だけど悪くないかもしれない……。コンテンツだって立派な商品ですし受信料だって結構な金額です。それが無料になるなら……。

　そんな様子を見やって監督は得意げに頷きます。
「では、撮影を始めよう。もちろん……なんでもありだ……！」

みなさんご機嫌いかがでしょうか。車　修理です。

今回は、深夜に放送されているちょっと残念なC級映画を撮ろうというお話です。

低予算、チープなセット、破綻した脚本、安っぽいメロドラマみたいな過剰演技、そして使い古された陳腐なシーンの連続……。
巷にあふれている、思い付きだけで作ったとしか考えられない、時間枠を埋めるためだけに作られたような番組をここではC級映画と呼びます。
特にやることもなく夜更かしの暇つぶしにふとつけてみた深夜の番組で見たことがあるのではないでしょうか。
低予算映画の中でも芸術性の高いものもありますが、このシナリオで登場する映画はそんな「お上品」なものではありません。いわゆる低俗番組です。

そんな低予算C級映画に、俳優、女優として出演してもらいます。

え、低俗で低レベルな映画には興味なんてない……？
そうでしょうか？

C級映画だからこそできることがあるのです。

そして、出演者の演技やシーン次第でそれは極上の映画に生まれ変わるかもしれないのです。


◆状況

出演を依頼してきたジャバラ映像は、空京にある三流の映画制作会社で、マイナーな映画や深夜のちょっと残念な番組を量産している会社です。
制作のための資金があまりなく、技術あるハイレベルなスタッフを雇うことができないため、演出の特殊効果は一切なしのガチンコ撮影です。
そのため、スタントマンを必要とするような危険なアクションシーンや、特殊効果の必要な迫力のあるシーンを上手く撮ることができず、これまで出演していた（低ギャラ）俳優たちも腰が引けてしまい思い切った演技ができず、その結果残念シーンの連発となっているのです。
今回も条件は同じですが、その代りに契約者たちのスキルをフルに使ってもらおうなどとムシのいい考えをしています。

放映は大人の事情で急遽決まりました。撮影は二日間にわたって行われます。放映はさらにその二日後の深夜、AM1:45〜AM4:15で、すでに放送枠が設定されてしまっているため、いまさら番組を中止にすることができません。
これまでいたスタッフや俳優たちは、別のもっとギャラがよく受けのいい番組の撮影に行ってしまっているので、監督以外には誰もいません。
困り果てたプロデューサーが「深夜番組だし、C級映画だから即席俳優でもいいだろう……。いやむしろうちの俳優よりいいかも……」などと考え今回の募集にいたったのです。


◆今回撮影する映画について

三反田白黒（さんたんだしろくろ）監督
　その筋ではちょっと知られたエロ監督で、どんな映画にでも必ずお色気シーンを入れたがります。ジャバラ映像のホープで、深夜番組の視聴者の中にはコアなファンが多かったりします。

『電撃・ドラゴン刑事（デカ）』
　今回撮影する深夜映画の脚本です。２時間もののドラマです。

　カンフー使いのはみ出し刑事（通称：ドラゴン）がキャリアのエリート刑事とともに、ゾンビの出る製薬会社を捜索するアクションで、最後には巨大化したボスとの対決で巨大ロボット（イコン）に乗って戦います。なぜか途中で意味もなく出てきた美少女とロマンスがあります。
　
　「流行の要素をぎゅっと詰め込んだ脚本！」と三反田監督は自信ありげです。

　△主なキャスト
　　ドラゴン……本編の主人公。カンフー使いの熱血刑事。その熱意から暴走が多い。
　　エリート……ドラゴンのコンビ。沈着冷静な理論家で銃器の名手。ドラゴンと組まされ不満げだが……。
　　課長……ドラゴンの上司。口癖は「ばっかもん！」
　　Dr.カテゴラス……製薬会社で怪しい実験を行っていた博士。現在消息不明。
　　研究員A……ドクターの実験の手伝いをしていた。現在消息不明。
　　ヒロイン……ドラゴンの幼馴染。温泉に入っているところを何者かにさらわれる。その後、救出待ちに……。
　　魔法少女……危機に陥ったドラゴンたちを助けるために、なぜか突如現れた魔法の国のお姫様。一緒に戦ってくれる。
　　老師……ドラゴンの師匠。必殺技を伝授してくれる。
　　博士……巨大ロボ（イコン）の基地の司令官。Dr.カテゴラスとの因縁が……。
　　サラマンダー・マーク３……イコン。撮影用のハリボテで派手な装飾に外装をチェンジしてあるが実際の戦闘力は？　炎を吐いてくれる。


◆参加について

俳優、女優として参加する場合、PCたちはある程度脚本に介入できます。

本筋は変えることはできませんが自分のシーンと演出を決めることができるのです。
低予算映画は俳優の能力に大いに依存する映画です。それゆえ俳優は映画に対して大きな影響力を持ちます。出演俳優は監督にワガママを言うことで、映画の物語を自身の都合の良い展開にすることができるのです。さらには、監督は出演者たちに無理難題を押し付けた手前負い目もあり、たいていのシーンはオッケーされます。
例えば……脚本にないキスシーンや水着シーン、温泉シーンなどを挿入することができます。とはいえ18禁シーンはここでは禁止とします。
出演者は、本来の配役を押しのけてドラゴン役をカッコよく演じることもできますし、どういうわけかヒロインを助け出し“いい仲”になるシーンを選択することもできます。その場合、本来の俳優の役は取って代わられそのシーンが正規のシーンとなります。
ドラゴン役が何人いても構いません。途中で配役が変わっても視聴者は『そういうもの』として楽しんで見ることでしょう。

また、上記以外のその他の配役も登場してもらって結構です。基本的に何でもありです。

ここが、「お上品な映画」ではできない、今回のC級映画撮影の醍醐味です。

シーンや演出を考えていただく際は、この脚本のシチュエーションに沿った理由をつけてもらいます。

　MCとLCが同時に俳優として出演する場合、そのワンシーンのみです。ここでいう1シーンはおおよそ2〜5分程度。登場キャラとその相手、といった程度にとどめてください。
　また、残ったメンバーは裏方やメイク、演出、スタントマン（後述）などで出演者を盛り上げる役になってもらいます。
　

◆演出について

　上でも記しましたが、今回の撮影は、基本的に特殊撮影、SFX等一切なしの体当たり撮影です。例えば、高所からダイブするシーンでは本当に飛んでもらいますし、炎の中から出現するシーンでは本当に炎の中から出現してもらいます。
　
・出演俳優はパートナーをスタントマンとして使うことができます。スタントマンはパートナーの代わりに１シーンにつき一回だけ無茶なシーンを演じることができます。いかなるダメージを負おうとも、次のシーンでは俳優本人はダメージ無しで演技を続けることができます。俳優出演者がいながら他キャラ俳優のスタントマンを引き受けることはできません。
　従者をスタントマンとして使うことはできません。
　
・演出は、ありとあらゆるスキル、アイテム、武器類を使用しても構いません。アイテムとして存在していない道具類でも、「日常品として簡単に手に入る物」なら使用可能です。
　マスタリングにおいては、PCの装備欄に装備されているアイテム類やスキルのみを適用します。

・PCは他PCのスタントマンを行うのも可能です。こちらについても、登場はいずれかの１シーンになります。


◆その他の番組について

映画の放映時間は２時間ですが、放送枠は２時間半とられています。
これは、残りの３０分で通信販売のCMが流れるためです。
今回は、この深夜の通信販売CMに登場してくれる俳優、女優も募集しています。

『お家で簡単、一日５分のトレーニングでみるみる痩せるフィットネスマシーン』
『水なしでどんな汚れでも取れる魔法のワックス』
『体調不安をたちまち改善、医学博士も絶賛の有機サプリ』
　など……。
　どしどし宣伝してください。

・何か他にも売り込みたい物があるPCはこの時間枠を使って宣伝することが出来ます。
　
・出演人数によっては『電撃・ドラゴン刑事』の放映時間が短くなることもあります。

・MCとLCが本編と通販CMに別れて出演することはできません。


◆NPCについて

ガイドには高円寺海、雅羅・サンダース三世、アゾート・ワルプルギス、山葉　聡が登場していますが、これ以外にも、カールハインツ・ベッケンバウワー、イングリット・ネルソン、アッシュ・グロック、 浦安　三鬼、魔威破魔　三二一は誘えば撮影に参加してくれます。
記載以外のNPCは誘っても出演してくれません。

・もちろん主演をやるぜ！

・脚本そっちのけで、ラブシーンをやるに決まってるでしょ！

・スタントマンをやる！

・通販CMに出演する。