ヴァイシャリー、本日晴天。
グィネヴィア・フェリシカのための親睦会が野外で開かれています。その主催者は、イルミンスール魔法学校のロズフェル兄弟です。世間知らずなグィネヴィアにもっと色んな学校の生徒達と打ち解けて貰おうと自ら開催したのですが、実際はグィネヴィアの事を知り、驚かせたかっただけです。当然、グィネヴィアはロズフェル兄弟に誘いを受けるまで何も知りませんでした。
テーブルには双子が調理した見た目美味しそうなクッキーがたっぷりとテーブルに用意されています。
「ほら、ここに座って俺特製のお紅茶でも!」
ヒスミは突然の親睦会に驚いているグィネヴィアを強引に椅子に座らせ、すかさずカップを渡します。
「突然の事で驚きましたわ。でも本当にありがとうございます……素敵な香りですわね」
グィネヴィアはロズフェル兄弟の迷惑な親睦会に巻き込まれてしまった事に気付かず、優雅に紅茶の香りを楽しんでいます。
香りの次は味です。そっと一口。
途端にぼうっとした表情になってしまいました。
「…………美味しいですわ。まぁ、お花畑や海が見えましたわ」
ぼうっとしている間に妙な幻覚を見たようです。
「だろ、ただ味を楽しむだけじゃつまらないと思って一工夫!」
「次はクッキーでもどうだ。オレの渾身の作」
ヒスミは自慢げな顔をし、キスミは大量のクッキーが載った皿をグィネヴィアの前に置きました。味は申し分無いのに余計な事をするのがこの兄弟の定番です。
「……頂きますわ」
グィネヴィアは疑いもせず、キスミに勧められるままクッキーをひとかじり。
「とても美味しいですわ……わたくしが二人」
クッキーをかじったグィネヴィアは軽い金縛りに遭った後、可愛らしい口から青白い煙が宙に溢れ出てグィネヴィアの形を作りました。地上にはクッキー片手にぐったりと椅子に座る自分が見えます。
「おっ、成功だな、キスミ!」
「おう! 残念なのはまだその二つしか用意出来ていない事だけだな。まぁ、それも作れば問題無いけどな」
ロズフェル兄弟は互いの拳を突き合わせ、グィネヴィアの反応に満足していました。
その隙にグィネヴィアは何か引きつけるものがあったのか姿を消していました。
ようやく、満足から現実に戻ったロズフェル兄弟は
「……いないぞ」
「どこに行ったんだ」
霊体となったグィネヴィアがいない事に気付きました。
きょろきょろと周辺を捜していると少し困った顔をしたグィネヴィアが現れました。
「……申し訳ありません。お困りの方がいらっしゃって。皆様、とても良い方ですからどうぞ皆様にも見える姿でお願いしますわ」
グィネヴィアは後方に向かって優しく声をかけました。
「……何だよ」
「老夫人と紳士?」
グィネヴィアの言葉で現れた地球人の老夫婦にロズフェル兄弟は驚きました。
現れたのは、青白く半透明な上品な老夫人とあるべきものが無い夫人の旦那らしき人物でした。
「この人ったら生きてる頃は時計や傘を忘れたりと本当に私がいないとだめで本当にごめんなさいね。普通忘れようもないものを忘れるなんて。私が先に死んでからというもの……」
夫人は腕を絡めている旦那を見上げながら事情を話しました。見上げた先にあるはずの頭がありませんでした。
「探そうにもこの人を一人に出来なくて困っていたところなのよ。私はハナエ・ウルバスでこの人は私の夫のヴァルドー・ウルバスよ」
ハナエはようやく名乗りました。途方に暮れていた時にグィネヴィアを発見し、これ幸いと助けを求めたのでした。
「……早くイルミンスールに行かなくちゃいけないというのに。この人は」
ハナエはため息をつきながら頭があったと思われる空間を見上げました。
「……成仏じゃないんだな」
「面白そうだな」
面白い予感を察知したロズフェル兄弟は楽しげな顔をしていました。
「……元に戻りましたわ」
クッキーを食べたのが少しだったためかグィネヴィアは速やかに肉体に戻りました。
「少ししか食べなかったからな」
「で、ヒスミどうする?」
これからの行動を楽しそうに考えるロズフェル兄弟。
そして、
「そりゃ、俺は頭を探しに行くぜ」
「じゃ、オレは美味なる作品を作って親睦会の料理を増やすぜ。と言う事だから試食を頼むぜ」
ヒスミはクッキーを食べてヴァルドーの頭探しいに行き、キスミはあらかじめ用意していた調理スペースに移動し、作品製作に挑み始めます。
「はい。とても楽しみですわ」
グィネヴィアは楽しそうに笑んでいました。
「本当にごめんなさいね。生前は忙しくて二人で旅行もした事なくてせっかくだからってしたらこんな目に遭ってしまって、もう本当に……」
ハナエは夫を見てため息をついていました。