温泉旅館の風船屋で、
またまた事件が起こっているようです。
モンスターを捕まえてもふったり、
アルバイトしたり、
お客様としてくつろいだり巻き込まれたり、
はたまた事件の裏を探って解決したりできますので、
おなじみの方も、はじめての方も、ぜひどうぞ。
風船屋は、みなさまのお越しを心よりお待ちしております!
連なる山々が、紅葉で真っ赤に染まった晩秋。
「5年ぶり、いや、6年ぶりか? まあ、どっちでもいいか……」
老舗の温泉宿、風船屋にふらりとやってきた和装の旅人は、何やらボソボソと呟きながら、門をくぐっていきました。
「その屏風は、こっちに……床の間には、あの掛け軸を……ああ、それより、生け花の手配、どないしよ、忘れとりましたわ……」
てんてこ舞いで行ったり来たりしているのは、14歳の女将、音々(ねね)。
「女将さん、落ち着いてくだせえ」
先代の女将が亡くなってから、風船屋を支え続けている板前の源さんが声をかけ、
「そうだ、まだ時間はたっぷりあるんだ、手伝ってやるから、何でも言ってくれ」
10歳の少女の姿をした居候の英霊・平清盛も、音々を励まします。
明日はいよいよ「温泉へGO!秋の行楽特集」の生中継日。人気番組で、風船屋の魅力をパラミタ中に伝えるチャンスなのです。
「正念場や、ここで、踏ん張れば、風船屋の経営も、今度こそ軌道に乗る……けど、もし、上手くいかんかったら……」
「おい、音々」
「だ、誰や?」
「もしや、あなたは、音彦さん……? 音々さんの兄さんの、音彦さんですか!」
「おう、久しぶりだなあ、源さん。達者でなによりだあ」
不意に現れた旅人の姿に怯え、平清盛の後ろに隠れた音々が、おそるおそる顔を見上げると、それは、確かに、音々が子供の頃に風船屋を出て行方をくらませていた兄の音彦だったのでした。
「……兄さん? ホンマに音彦兄さん?」
「ああ、ここは、変わってねえなあ、いや、建て替えたのか? どっちでもいいが、小綺
麗になったのは有り難い、売値が上がるからなあ」
「売値?」
「実は、兄ちゃん、地球で、賭け事に誘われてなあ……はじめは調子良く勝っていたんだが……」
博打で負け、莫大な借金を背負うことになった音彦は、風船屋を、借金の抵当に入れてしまったのです。
「そ、そんな……なんで、勝手にそないなこと……」
「オレは、風船屋の長男だぜえ。音々は女将だが、経営権は、オレにある!」
「けど、お母はんの残してくれはった風船屋が……」
「風船屋を残す方法がないわけじゃないぞ。音々、おまえ、買収先のロイヤルリゾートの若旦那と結婚しろ。それが、風船屋を残す条件だ」
「はあ?」
「若旦那は明日、借金取りたちを引き連れて、風船屋にやってくる。そこで、見合いをするよう、手はずを整えてやろう。ここを売り払って更地にするか、音々が嫁になって、今まで通り温泉宿を続けるか。オレとしては、どっちでもいいぞ」
「どっちも良くないっ!」
おろおろと狼狽える音々と源さんを背に、平清盛が、立ち上がりました。
「風船屋を、潰されてたまるか!」
「お嬢ちゃん、引っ込んでな。若旦那と一緒にやってくる借金取りたちは、それはそれは強くて、しつこくて……」
「私たちは、こういうときに頼りになる者どもを知っているぞ! 今、宿に泊まっている客も、事情を話せば、きっと力になってくれるはずだ!」
ちょうどそのころ。
腰まで届く銀色のポニーテールが優雅な美人なのに、強引すぎる性格がかなり残念な空京TVの敏腕プロデューサー、マーガレット・スワンの元には、籠いっぱいの卵が届いていました。
「これを温泉に沈めれば、中から、色とりどりの巨大なひよこが生まれる……かわいらしくも迷惑なモンスターが温泉に乱入! ははは、面白い、面白いぞっ!」
「し、しかし、風船屋では、明日、女将の見合いが行われるようですし、生中継中のハプニングは……」
「モンスターとはいっても、所詮、デカいヒヨコだ。大した害はないさ。せいぜい、服を盗んで走り回るくらいだ」
マーガレットは知らなかったのです。
巨大ひよこの卵の一部が、危険なの寄生型モンスターにすりかえられていたことを……!