蒼空学園

　荒れ果てた大地に、乾いた風が吹きすさんでいきます。
　ここは、波羅蜜多実業高等学校。
　校舎とは名ばかりの廃墟へ、身なりの良い少女が迷いこんできました。

「ちょっとあんた、こんなところにいちゃ危ないよ」
　熾月瑛菜（しづき・えいな）が声をかけます。
　それもそのはず。少女はピンクのフリルがついたドレス――いわゆるロリータ・ファッションをまとっていたのです。
　荒くれ者が巣くうパラ実では、場違いもいいところでした。

　そこへ、燕尾服を着たイケメンの男性が、少女のあとを追ってきました。
「沙耶お嬢様！　勝手に出歩いてはいけないと申したでしょう」
「お願い。一日でいいから、外にいたいの……」
　両手を組んで、必死に訴える少女。
　ふたりのやりとりを不審げに見ていた瑛菜へ、少女が説明しました。

『自分は、日本にある財閥西園寺家の娘であること。
　病弱のため、ツァンダにある別荘で療養していること。
　しかし、親の管理が厳しく、いままで一度も外に出ていないこと――』

「不憫に思い、私がこっそり外出させたのです。思いのほか元気に走るので見失いかけましたが」
　鏡夜と名乗ったイケメン執事が、眼鏡を押し上げながら言います。
「ですが、もう時間です。お嬢様の外出がバレたら大変な騒ぎになりますから」
　それでも沙耶は、もっと外にいたいと言い張りました。

「気持ちはわからないでもないけど……」
　沙耶を見つめていた瑛菜は　ふとあることに気が付きました。
　ふたりは、見た目がそっくりだったのです。服さえ交換すれば、見分けがつかないほどに。
「じゃあ、今日だけ入れ替わろっか」
　瑛菜の提案により、彼女たちは一日だけ、立場を交換することなりました。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆　　　☆　　　☆

「ほんと、瑛菜おねーちゃんに似てるね！」
　変装した沙耶をつれ、空京へくりだしたアテナ・リネア（あてな・りねあ）が言います。
　アテナは、外の世界を知らない沙耶に、街の観光スポットを案内していました。
　彼女たちの背後では、鏡夜がしっかりとボディガード。
「沙耶ちゃん。楽しむことならアテナに任せてね！」
「それは頼もしいですわ」
「そうだ！　どうせなら、皆も呼んじゃおう！」
　にこやかに言って、方々へ連絡を送るアテナでした。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆　　　☆　　　☆

　盛り上がるアテナとは、打って変わって。
「こんな格好、恥ずかしすぎる」
　慣れないロリータ・ファッションに、瑛菜は困り果てていました。
　それでも彼女は、教えられた別荘へ向かいます。
「見つけたぞ、西園寺沙耶！」
「誰！？」
　ふと、瑛菜の周りを、不審な男たちが囲みました。
　男たちは一斉に彼女へ跳びかかったのです。

「ちょっ。なによ、あんた達！」
　襲いかかる男を蹴り飛ばす瑛菜。
「おい、病弱じゃなかったのかよ！」
「こんなに強いなんて聞いてないぞ！」
　男たちは、入れ替わった瑛菜の強さに困惑していました。

　しかし、動きづらい格好が災いしたのか。
　ついに瑛菜は、男たちに拘束されてしまいます。
「俺たちは綾小路院ヶ崎家から雇われた人さらいだ。大人しくするんだな」
　リーダー格の男が、勝ち誇った顔でいいました。

　綾小路院ヶ崎。
　それは、西園寺家と対立している財閥の名でした。



　財閥の娘と間違えられ、誘拐されてしまった瑛菜。
　そのことをアテナたちが知るのは、もうすこし後になります。

　
　水琴桜花です。
　よろしくお願いします〜。

　今回のシナリオでは、財閥の娘と入れ替わった瑛菜が誘拐されてしまいます。
　皆で力を合わせて彼女を助けだしてください！

　でもその前に、アテナといっしょに沙耶の観光を手伝うこともできます。
　事件が起きる前の穏やかな時間。のんびりと楽しむのもありですよ。


●人さらいについて

　瑛菜の誘拐犯、綾小路院ヶ崎家が雇った人さらいたちは、なかなか強力です。
　現時点では五人ですが、パラミタにある別荘から援軍がくることが予想されます。


●プレイヤーの行動

　事件の前は、沙耶の観光案内です。
　事件を知った後、すぐにアテナと鏡夜が助けに向かいます。
　病弱な沙耶は戦力になりませんが、正義感だけは強いので、彼女もひそかに救出を手伝います。

　よって、本シナリオのポイントは観光案内、瑛菜の救出、沙耶の護衛になります。


　また、事件の前後にまたがってアクションが書かれていた場合、ダブルアクションとなる可能性が高いです。その際は、どちらかのアクションが不採用となりますので、ご注意ください。


■ＮＰＣ説明■


　西園寺沙耶（さいおんじ　さや）
　財閥の娘。病弱。ロリータ・ファッション好き。血を触媒にした魔術が使える。一種の占いで、「血液を澄んだ水の上にこぼすと、水面に浮かんだ血が未来を表す模様になる」というもの。それにより業界の動きを予見できる。
　ライバルの綾小路院ヶ崎家が彼女を誘拐したのは、能力を利用するため。


　鏡夜（きょうや）
　執事。イケメン。眼鏡。経歴は不明だが、幼少期はとある殺人部隊に所属していたとの噂。身体能力が高く、体中に暗器を仕込んでいる。沙耶が占いの途中、貧血で倒れてしまってからは、彼の血を代わりに使っている。

・※沙耶を楽しませる

・※アテナと共に瑛菜を助ける

・※鏡夜と共に瑛菜を助ける

・※沙耶と共に瑛菜を助ける