真夏のイルミンスール魔法学校、実験室。
「出来たぞ! これで今夜はぐっすりだ!!」
「連日の睡眠不足におさらばだ!」
悪戯好き双子の兄ヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)と弟キスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)の手に先程実験に成功した大量の紙束が握られていました。
「ほら、一枚やるから、ロズも今夜何か見たらいいぜ。俺達みたいに睡眠不足って訳じゃなくても面白いからさ」
ヒスミが自分達の保護者役のホムンクルスであるロズに札を一枚差し出しました。
「……確か、自分が望む夢を見せる夢札だったな」
ロズは受け取るなりまじまじと札を見つめつつ幾度もヒスミがやり過ぎを起こしそうになる度に止めた事を思い出していました。
「そうだぞ。この札を枕の下に入れた途端、あっという間に眠る効果も付加しているから最近続く寝苦しい夜も大丈夫だぜ」
キスミは楽しそうに夢札の説明をしました。実は連日の夜の暑さに寝苦しく眠れず睡眠不足となった末に快眠効果のある夢札を作り上げたのです。
「よし、キスミ、ロズ、俺達みたいに眠れずお困りの方々にプレゼントしに行くぞ!」
「おう、たっぷりと楽しんで貰おうぜ!!」
双子は夢札配布を開始し、
「……」
ロズは双子に同行しおかしな事をしないよう見張っていました。
双子は出会う人みんなに配り、自分の学校での配布が終われば他の学校にも赴いて配布を続けました。寝苦しい夜の癒しになればと願い。
暑さ満ちる寝苦しい夜。夢札を枕の下に忍ばせ心地良い睡眠と様々な夢を見せる時。
ロズフェル兄弟の夢。
様々な実験器具や素材が揃っている賑やかな研究室。
「さて、今回はどうする? ここに留まってやって来る奴を迎えるか? この世界を色々変えてさ」
「ロズとか他人の夢を楽しみに行くか。どっちも面白そうだよな」
双子はすぐには動かず相談を始めました。
どちらに転んでも平和にはほど遠い事は明らかでです。ちなみに初夢を見るために使用した際説教まみれの初夢の後現実で悪戯をして正夢にしました。全く懲りた様子がありません。
一方、ロズの夢。
「……水槽……書類……撮影機器……見覚えがある……ここは研究室か」
ロズは水槽や書類に撮影機器など実験器具が溢れる見覚えのある研究室に懐かしさを感じていました。見たい夢など思いつかないまま使用した末、夢札はロズの心底の願いを汲み取ったのでした。
背後から扉の開く音がし
「……?」
ロズが振り返ると見覚えのある老翁、自身を作り出した製作者である平行世界のヒスミがいました。
とにもかくにも長い長い夢時間が始まりました。