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砂上楼閣 第一部(第1回/全4回)

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シナリオガイド

空賊来襲! 外務大臣を守りきりタシガンへ帰島せよ
シナリオ名:砂上楼閣 第一部(第1回/全4回) / 担当マスター: 芙龍らむだ

 砂漠の空に夕日が落ちる。いつの間にこんなに時間が経ったのだろう。
 黒い巻き毛の少年は服についた砂を手早く払うと、連れの少年に告げた。
「今日はもう帰らなくちゃ」
 夢中になって、乾燥させた駱駝の腸で作ったボールを追いかけていたから、気が付かなかったけれど。礼拝の時間が迫っている。
 別れを告げられた少年は不満だった。もう少しでボールを奪えるところだったのだ。
「勝ち逃げなんてずるいぞ、ターフィル。もうちょっとだけいいだろ」
 ターフィルと呼ばれた巻き毛の少年は静かに首を振った。
「ダメだよ、ルドルフ。僕たちにとって礼拝は欠かせないものなんだから」
「しょうがないな。早く帰れよ」
 少年が敬虔なイスラム教徒であることは、ルドルフも知っている。これ以上引き留めるのは無理だろう。それでももっとターフィルと遊びたい気持ちは隠せない。ルドルフは口を尖らせ、顎をしゃくる。
「うん、またね。ルドルフ。明日も遊ぼう!」
 ターフィルは真っ白な歯を見せ笑うと、オアシスに向かって走り出した。
 それから間もなく、陽は完全に落ちきった。砂漠のあちこちで、アッラーを讃える朗々たる声が響きはじめる。


「…夢、か」
 薔薇の学舎の片隅に設けられた豪華な寄宿舎で、ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)は目を覚ました。部屋の中はサイドランプの灯りをつけなければ時計も見えないほどに薄暗かったが、間もなく夜が明けるのだろう。その証拠に、部屋の外からは密やかにコーランを唱える声が聞こえてくる。
 サウジアラビアの王族であるジェイダス・観世院が作った薔薇の学舎には、アラブ諸国からの留学生が多い。そのため、学舎の一角にはモスクも作られていた。モスクでは夜明け前にはじまり、正午過ぎ、午後、日没後、夜と、一日五回の礼拝が行われている。
 信仰を持たない生徒にとって、夜明け前の礼拝は安眠妨害とも言えなくもなかったが。ルドルフ自身はイスラム教徒ではなかったが、コーランが日常の一端である環境で育った。それもあってか元来、寝起きが悪い性質であるルドルフは、コーランの祈り程度の声で目を覚ますことはないのだが。
 寝台の上で身体を起こしたルドルフは、ボサボサの頭を手櫛で整えながら呟いた。
「アイツの夢を見た後で、聞きたいものではないな」
 否、夜明けを告げるコーランが誘った夢なのかもしれない。あれは彼が夢見る「理想郷」を手に入れるまで、封印しようと決めた幼き頃の記憶だ。ルドルフは、無意識にこめかみに手を当てた。普段は仮面で隠されたそこには、ナイフでえぐったかのような深く大きな傷跡がある。ルドルフにとってこれは、ジェイダス以外の誰にも見せたことのない罪人の証。パートナーであるエリオ・アルファイ(えりお・あるふぁい)ですら、間近で見たことはないはずだ。
 ルドルフが傍らのサイドテーブルから仮面を取りあげ、顔に付けたちょうどそのとき、控えめなノックの音が聞こえた。応える間もなく、静かに開いた扉の向こうから顔を出したのは、エリオだった。
「おはよう、ルドルフ。そろそろ起きないと…って、あれ?  起きてる!」
 あからさまに驚くエリオに、ルドルフは苦笑で応えた。大袈裟な様子で両手を上げると肩をすくめてみせる。
「そんなに驚くことはないだろう? 今日が地球とパラミタの友好にとって大切な日であることくらい、僕にも分かっているさ」
「それはそうだけど…」
 いつもルドルフの寝起きの悪さに手を焼いているエリオは、虚を突かれた形になった。呆然と扉の前に立っているエリオに、手早く着替えを済ませたルドルフが告げた。
「行こう、エリオ。今日は我が祖国から外務大臣をお迎えするために、空京まで行かなくてはならないんだ。万全の警備体制を敷くためにもやることは山ほどあるぞ」


 その頃、薔薇の学舎校長ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)はタシガン家の屋敷にいた。豪華な応接室に通されたジェイダスは、煌めく黄金の髪と白磁の肌を持つ少年と向き合っている。
 遠くから聞こえてきたコーランに、少年は未だ闇夜が支配する窓の外へと視線を移した。
「そなたは礼拝に参加しなくても良いのかね?」
 紅をさしたかのように艶やかな唇から発せられた言葉には、少年のものとは思えない老巧な響きを含んでいる。
「タシガンの領主である貴方との会談を優先するのは、当然の礼儀でありましょう?」
 ジェイダスは些か慇懃すぎる態度で、タシガン家当主アーダルヴェルト・タシガンの問いに応えた。
「これは失礼した。アッラーとは我らが女王に等しき存在かと思っていたのでな」
 アーダルヴェルトの瞳には軽蔑に等しい冷たい光が宿っていたが、ジェイダスは意に返さなかった。
「それは人や地域によりますね」
「貴殿は違うと?」
「さぁ、どうでしょうか」
 モスクに集まり一身にアッラーに祈りを捧げる人々。ジェイダスが薔薇の学舎を作ったことでタシガンに広がった光景である。それにも関わらず、持ち込んだ本人が信じていない…とは忌々しい限りだ。ならば何故、タシガンにその街並みとは相容れない存在であるモスクを建てた? アッラーへの祈りを推奨した?
「初めは耳障りだと思いもしたが、慣れてくれば時計と変わらぬ」
 寛容を示したアーダルヴェルトの言葉の裏にある感情を知ってか知らずか。ジェイダスは飄々と言い放つ。
「地球の伝承では、貴殿達の一族は陽の光を嫌うと言われていましてね。コーランの祈りは夜明けを告げる一番鶏の声よりも早い。これに従い行動すれば、迂遠にも日焼けをしたあげく、灰燼に帰すこともありますまい」
 親和に満ちた表情と口調とは裏腹に、内容は痛烈な皮肉だ。アーダルヴェルトは、顔を歪めた。
「貴殿は自ら信じてもおらぬ神を薦めるか」
 ジェイダスは「降参」とばかりに大げさに肩をすくめて見せた。
「貴殿ら地球人の伝承はどうであれ、我らタシガンの吸血鬼にとって、太陽の光など恐れぬに足りぬ。努々忘れぬが良いぞ」
「承知しております」
「では、また黄昏の鶏が鳴く刻に」
 そう言うと、アーダルヴェルトは踵を返した。ジェイダスも後に続く。扉の外で召使いが聞き耳を立てていたのだろう。二人が近づくと、廊下へとつながる扉は開いた。
 ジェイダスがタシガン邸の豪華な玄関を出ると、車寄せに一人の男が待っていた。トーブと呼ばれる民族衣装を身につけ、頭にはチェック柄の赤い布をかぶり黒い輪っかで止めている。
「お疲れ様です。ジェイダス様」
 丁寧な一礼とともにジェイダスを労った男の名は、ディヤーブ・マフムード。ジェイダスがサウジアラビアにいた頃から彼に仕えてきた男だ。寡黙な男だが、その揺るぎない忠誠心は本物だ。イエニチェリとして共にタシガンに移り住んだ後も、アラブ時代同様、ジェイダスの側近としての仕事を続けている。
 ジェイダスは軽い会釈でディヤーブのねぎらいに応えると、誰に聞かせるともなく呟いた。
「とりあえずアーダルヴェルト卿の言質はとったと見るべきかな」
 ディヤーブはジェイダスの肩に外套代わりの着物を着せかけた。まだ夜が明けきれていない。空気が冷たかった。
「満足できる結果を引き出せたみたいですね」
「所詮、口約束に過ぎないがね。そんなもの何時でも反故にできるものだ。それよりもディヤーブ。君は礼拝を行わなくて良かったのかね?」
 コーランの祈りは続いている。イスラム教を信仰するアラブ人にとって、一日5回の祈りは欠かせないものだ。しかし、ディヤーブは無言で微笑み、首を左右に振っただけだった。
 ディヤーブにとっては、ジェイダスこそがアッラーなのだ。祈りを捧げるよりも彼のために働くことこそが、ディヤーブの喜びであり、信仰心の現れであった。
 ディヤーブの真摯な視線を受けたジェイダスは苦笑を浮かべる。
「私はささやかな冨を持つだけの唯人にすぎないよ。何かと面倒な事が多い俗世とは早く縁を切りたいとは思っているけどね」



***   ***   ***



 皆さんの物語は、タシガンを訪問するイスラエル外務大臣をルドルフとともに空京で出迎えるところからはじまります。

 大いなる夢や野心を胸に、次々とパラミタの大地に足を踏み入れる地球人。彼らを受け入れることで、パラミタの文明は飛躍的な進化を遂げました。
 しかし、その一方で地球人の移民を不満に思っている人々がいたのも事実。パラミタの原住民の一部は、先祖から受け継いできた土地を侵略者に荒らされると考えていたからです。
 中でも薔薇の学舎が建てられたタシガンは、地球人排斥の傾向が強い土地でした。荘厳な石造りの建物が並ぶ霧深き街に、見たこともない奇妙な建物や文化が浸食していきます。タシガンの民と地球人は良好な関係を築いているように見えますが、あくまでも表面上のこと。内心は「面白くない」と考える者達もたくさんいました。

 そのような状況下、パレスチナ人の受け入れを願うイスラエル政府から手紙が届きました。イスラエルは、ジェイダスのイエニチェリの一人ルドルフ・メンデルスゾーンの故郷です。自国民であるルドルフがジェイダスの元にいることもあって、イスラエル政府はジェイダスに打診することとなったのです。

 ジェイダスの度重なる説得もあり、タシガン家領主アーダルヴェルトは、イスラエル外務大臣との会談を了解。外務大臣はタシガンへ向かうため、パラミタの玄関口である空京に降り立ちます。
 空京には厳重な警備体制が敷かれたこともあり、ルドルフ達は無事に外務大臣を出迎えることができました。しかし、タシガンへ帰島する途中、外務大臣を乗せた飛空挺に突如、空賊が襲いかかりました。
 護衛部隊が空賊と戦闘を繰り広げる中、飛空挺の貨物室で一人の少年の姿が発見されます。激しく揺れる貨物室でため息をつく少年は、服装から見ても警備のために同行していた薔薇学生でないことは明らかです。

 果たして彼は何者なのでしょうか?

 そして外務大臣は無事にタシガン家当主アーダルヴェルト・タシガンとの会談を果たすことができるのでしょうか?


担当マスターより

▼担当マスター

芙龍らむだ

▼マスターコメント

薔薇の学舎キャンペーンシナリオ「砂上楼閣」を担当させていただきます。芙龍らむだです。第一部は全4回、第二部は全3〜4回と長丁場になりますが、皆様よろしくお付き合いくださいませ。

第一話目のメインは空戦になります。空戦参加組の皆様は、小型飛空挺部隊として空賊を迎撃するか、飛空挺に乗り込んでくる空賊から外務大臣を守るか、どちらかのアクションをお選びください(他校生は外務大臣と同じ飛空挺には乗り込めません。型飛空挺部隊の所属として勝手についてくる形となります)。もちろん、飛空挺内にいる方でしたら貨物室にいた謎の少年と接触を図ることもできます。

他校生の女性PCの方が、厳重なボディチェックと身元調査を受けた上で、外務大臣の接待役として飛空挺に乗り込んでいる…というのもありですね。薔薇の学舎には男子生徒しかいませんし、外務大臣も接待役は可愛い女の子の方が嬉しいでしょうから。

その他にも、空賊として襲いかかるという悪役アクションをとることもできます。
空賊を選ばれた方は、学校を問わず小型飛空挺に乗ることができますが(イルミンスールの方は魔法の箒でも可)、ミサイル等の武装はされておりません。攻撃は皆さんが持っているスキルやアイテムのみを使って行ってください。

これは小型飛空挺部隊や、外務大臣の乗っている飛空挺も同じです。どこから持ってきたのか分からない「ご都合主義の最強武器」に頼らず、皆さんの手持ちの武器やスキル、そして知恵と勇気だけで見事空賊を迎撃してください。

また、第二回ジェイダス杯で登場したイエニチェリ中村雪之丞はタシガン空港を、ディヤーブ・マフムードはタシガン家の警備を担当しています。今回、二人の出番は少なめとなりますが、次回以降、重要な役割を果たす予定です。なので、そちらを見越して雪之丞やディヤーブと行動をともにするのも一興です。後から「やっぱりコッチの方が…」となっても、時間軸が合わなければ部隊の移動はできません。

最後に当シナリオに参加するにあたって、ご注意いただきたいことをお伝えしておきます。

キャンペーンシナリオは、グランドシナリオへと結びつく特性上、多くの方々が読まれる可能性があります。そのため今回、薔薇のお家芸とも言えるBL的展開は封印とさせていただきます。
どうしてもその手のお話は、読者を選んでしまいますので(期待されていた方、ごめんなさいっ)。
スタンスとしては「校長をはじめ、一部の人たちはそうみたいだけど。大多数の生徒は普通に女の子が好きだよ」という感じです。なので、PCとLCでカップル設定をされている方でも参加に問題はありませんが、イチャラブ描写は控えめとなります。ジェイダス杯程度の描写と考えていただければ良いかと思います。

また、アクションの内容によっては次回以降の行動に制限をかけさせていただく場合がございます。こちらも合わせてご了承くださいませ。

▼サンプルアクション

・ルドルフとともに外務大臣の護衛を担当(薔薇学生専用)

・強引に警備を買って出る(他校生専用)

・雪之丞とともにタシガン空港の警備を行う(薔薇学生専用)

・ディヤーブとともにタシガン家の警備を行う(薔薇学生専用)

・空賊として飛空挺に襲いかかる(学校問わず)

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2009年09月22日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2009年09月23日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2009年09月27日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2009年10月07日


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