『攻城戦』も終わったところで、シャンバラ教導団は、いったん封印した遺跡《工場(ファクトリー)》の調査を再開することにした。
大規模な調査をするためには、人数も、大掛かりな計器や装置類も必要になる。そこで、輸送手段を確保するため、樹海を切り開いて道路を作ることになった。
しかし、道路を作るとなると、これまで《工場》に敵が侵入するのを阻んでいたバリケードや壕を、部分的にでも潰さなくてはならない。以前の、《工場》をめぐる戦いで『黒面』を数名取り逃がした可能性もあることから、鏖殺寺院がまた《工場》内に侵入しようとするかも知れない、と教官たちは考えている。
「《工場》内部の警戒システムは、再起動するとまた侵入者を片端から排除しようとするから、切っておくしかない。何らかの認証システムが導入できれば良いんだろうが、すぐには難しいそうだから、当分は《工場》内外の警備は人力に頼るしかないぞ」
前回の探索から、引き続き《工場》とその周辺の警備の指揮をとることになった歩兵科の教官林 偉(りん い)は言う。
「バリケードや壕を設置した部分を手入れし直して、道路を敷いて……人数が必要だから、前回の作戦で義勇隊に参加した者や、その他の他校生も《工場》外の警備や作業には受け入れるぞ。本校近くの山岳地帯からヒポグリフを連れて来て航空部隊を作ろうって案があるんだが、そっちにも人手が欲しいしなあ……」
航空機やオートジャイロはは離着陸に使う滑走路を《工場》付近に作るのが難しいし、燃料の問題もあるので《工場》がある樹海周辺では使い勝手があまり良くない。ヒポグリフなら、大きな荷物を運ぶことは出来ないが、遺跡の周辺に直接降りることが可能になる。警戒や伝令には充分役立つだろう。
「ヒポグリフは誇り高い生き物だから、ヒポグリフ隊希望の奴は馬に蹴られないように注意しろよ?」
生徒たちに向かって、林はニヤリと笑う。
なお、新しく義勇隊に参加した他校生には、以前同様査問委員長の妲己以下、『お世話役』の教導団生徒が同行することになる。これまでの《工場》の探索でヴォルフガング・シュミットら『白騎士』におくれを取った風紀委員の李 鵬悠(り ふぉんよう)は、《工場》の警備を担当したいと林偉に申し出ている。ヴォルフガングとパートナーのエルダは、ヒポグリフ部隊に関わりたいと考えているようだ。
一方、本校では、樹海に眠っていた遺跡から発見された《冠》の、実用に向けての本格的な試験が始まろうとしていた。
《冠》は、パラミタ種族が持つ力を吸い上げて、汎用的なエネルギーに変換し、供給するシステムであると考えられている。本来は巨大人型兵器を動かすためのものらしいが、《工場》内では主に、量産型機晶姫が内蔵兵器の能力を向上させるために使用していた。
「持ち出した資料や、量産型機晶姫や円盤型迎撃機械を調べた結果、内燃機関のかわりに動力源として使うことは比較的容易だと考えているわ。ただ、今はまだ出力調整が出来ないから、乗り物や工作機械の動力としては不適当なのよね。効率的な使い方はやはり、兵器のエネルギー源としてピンポイントに使うことだと思うのだけど……直接火薬を使用する銃に繋ぐことは出来ないから、量産型機晶姫の内蔵兵器や、《工場》で発見されたものを改造して何か作れないか、技術科の方で検討中よ。何かアイディアや希望があったら、出してみてちょうだい。ただ、今のところは小型のものは難しいかも知れないわ。大口径の重機関銃くらいが最小サイズになるかしらね」
技術科主任教官楊 明花(やん みんほあ)は、《冠》についてそう語った。
《冠》の試験に関しては、十五名の被験者が既に選定されている。しかし、被験者に選ばれた生徒が辞退して空きが出る可能性や、何らかの事情で入れ替えが行われる可能性もあると言う。
「……楊教官は容赦のない性格ですから、《冠》の試験に関わる人は、覚悟して来た方が良いと思います……」
初期のテストにパートナーの機晶姫ネージュと共に参加した、技術科の深山 楓(みやま かえで)は、明花の話を聞きに来た生徒たちに、こっそりそう耳打ちしたと言う。