今日は、クリスマスイヴ。
蒼空学園のあるツァンダでは、夜から雪が降り始めており、朝には軽く積もりそうです。
明日はきっと、ホワイトクリスマスになるでしょう。
シャンバラ地方に地球の文化が伝わって早十年。
『クリスマス』や『サンタクロース』は、純心なシャンバラ人に瞬く間に伝わり、今ではシャンバラ人の子供の実に9割以上がサンタクロースを信じているという統計まであるほどです(2018年蒼空学園リサーチ愛好会調べ)。
しかも、サンタクロースは英霊として実在しており、シャンバラ地方の子供達のために、地球だけではなくパラミタにもプレゼントの配達に来るようになっていました。
「ふぅ、これで10000軒目か……まだまだ先は長いよね」
雪の降る中、大きな白い袋を背負った少女が歩いています。
白い縁取りのある真っ赤な衣装とお揃いのナイトキャップをかぶったその姿はサンタクロースのようですが、服からは細い腕や綺麗な鎖骨が露出しており、女の子特有のボディラインを活かした大胆なアレンジが加えられています。
そのサンタクロースっぽい少女――サンタ少女――は、白い袋を下ろすと、赤いサンタ帽子から覗く、少し癖のある栗色の髪を掻き上げて額の汗を拭いました。
疲れてはいるものの、針葉樹の葉を思わせる深い緑色の瞳は強い使命感に燃えています。
彼女の名前はフレデリカ・ニコラス。サンタクロースとして親しまれている英霊、聖ニコラウスの孫娘です。
祖父のサンタクロースは、肝心なこの時期にぎっくり腰になってしまい、シャンバラ地方へプレゼントの配達に来られなくなっていたのです。
プレゼントを楽しみにしている子供達のためにも、プレゼントのお礼の手紙を何よりも楽しみにしている祖父のためにも、孫娘であり、新米とはいえ曲がりなりにもサンタクロースであるフレデリカが、祖父の代わりにシャンバラ地方の子供達にプレゼントを配ろうとしているのですが……。
そりもトナカイも祖父が使っており、彼女は徒歩でプレゼントを配るしかありません。
先日、百合園女学院の校長桜井 静香(さくらい・しずか)に頼んで、一緒におもちゃを配ってくれる人を探してもらったり、先ほどまで各校の生徒達に自主的にプレゼントを取りに来てもらうようにしていましたが、それでも間に合いそうにありません。
「ううん、弱気になっちゃダメ! 頑張らなきゃ! おじいちゃんの名に掛けて! ……おじいちゃんの名に……おじいちゃんの名前………そうだよ!!」
フレデリカは何か思いついたようです。
―――明けて25日。
クリスマス当日は、ホワイトクリスマスになりました。
そんなクリスマス気分で浮足立つ各校の掲示板に、こんな張り紙が貼られていました。
『あなたもサンタクロース、しませんか?
サンタクロース公認、1日限りのお仕事です☆』