イルミンスール魔法学校

「いち、に、さん。……あなたは今、どこにいますか？」
「……あたしの、部屋」
「そこにはあなたの他に誰かいますか？」
「いない。自分、だけ」
「あなたは何をしていますか？」
「……外に出ようとしてる。けど、ドアが開かない。あ、開けなきゃ……外に、出たい」
「ドアから少し、離れて下さい」
「あ……ぅ」
「何か聞こえてきませんか？」
「……ママが、パパと喧嘩してる声。い、行かなきゃ」
「では、もう一度ドアを開けてみましょう。ドアノブに手をかけて、そっと開けてください。ドアは開きましたか？」
「……ぁ、開いた」
「声はまだ聞こえますか？」
「ううん……ママが、こっちを見てる」
「後ろには何が見えますか？」
「ドア……外に、出られた……ぁ、ママが抱きしめてくれてる……」
「どんな気分ですか？」
「嬉しい……ママが笑ってる。嬉しい」
「それでは、両目を閉じてください。数字を三つ数えると、あなたは元の世界へ戻ってきます。さあ、ママに別れを告げて」
「ママ……バイバイ」
「いち、に、さん。……両目を開けてください」
　ソファにぐったりと座り込んでいた少女がぱちりと両目を開きます。
「どうですか、気分は？」
　と、少女へ尋ねるのは空色のショートカットの催眠術師トレル・ウォーカー。
「何か、すっきりしました」
「それは良かった。あなたは外へ出ることが出来たんです。これからは不安に襲われることもないでしょう」

　空京市内にあるアパートの一室で、トレルは退行催眠による治療を無償で行っていました。
　その腕は確かなようで『自分一人では克服できないトラウマもトレルの手にかかればたちまち克服する』との噂も広がっているほどです。
　その影響か、彼女に催眠術を教えてほしいと集う人たちも多くなり、トレルは定期的に講習会を開いていました。その為、巷では人に催眠術をかけるのがちょっとしたブームになっています。

　しかしその一方で、トレルが本物のセラピストであるか怪しむ声も挙がっています。
　彼女の治療を受けた人は皆、一様にやる気を失くしてしまうのです。無気力になり、不安や焦りを感じる、いわゆる五月病です。
　その五月病を治したくて、再びトレルの元を訪れる患者も出てきました。ですがトレルには身に覚えのない、まったく予想外の事態です。

　その原因は、治療の際に焚いているアロマキャンドルでした。一カ月ほど前にトレルが普通のお店で購入した「マジカルみかん」という香りです。
　トレルはすっかり忘れているようですが、購入した際に説明書が付いてきました。
　暗示効果のある魔法を込めた特殊なロウで出来ており、使い過ぎるとポジティブを超えてネガティブになるので要注意という内容です。
　使い方さえ間違えなければ良い道具なのですが、今回はトレルが説明書を読まなかったのが原因のようです。彼女からアロマキャンドルを取り上げるか、説得して使用をやめさせましょう。
　ちなみにトレルが五月病にならないのは、アロマキャンドルが彼女を術者と認識しているからです。

アロマキャンドルに魔力があるなら、トレルの催眠にも影響を及ぼしているはずです。トレル自身の力でトラウマを克服させてやれているわけではないのかも。

今回はトラウマ披露祭であると同時に、トラウマ克服大会となっております。
前回の流れも汲んでたりしますが、前回参加してなかった方もお気軽にどうぞ。

「ちーとさぷり」の売人・トレルですが、今回はどう見ても女の子にしか見えません。アロマキャンドルを使うなんて、さらに女の子らしさを演出しています。
前回、トレルに関わった方はこの辺りに絡んだアクションを取るのもありでしょう。名前も偽名である可能性が高いですし、男か女か、はっきりしろや！　的な。
もちろん、トラウマを克服しに来てくださっても構いません。
ちなみにジャンルがコメディになっておりますが、正しくはシリアスコメディです。
トレルの性質上、コメディとさせていただきました。でもシリアスです。

トラウマは過去のものでも、最近出来たものであっても結構です。
その際は、どんなトラウマであるかの詳しい説明と、それをどのようにして克服するか、はっきり書いてください。
別シナリオで出来たトラウマの場合は、アクション内で説明を完結させるよう、お願いします。正確に書けない可能性があります。
また、全年齢対象の範囲を逸脱するような描写が必要なトラウマや、それに類する目的で他のＰＣに催眠術をかけるアクションも、書けない場合がありますのでご注意ください。

ちなみに他のＰＣに催眠術をかけることが出来るのは、本シナリオ限定とさせていただきます。
このシナリオ内で習ったからといって、他のシナリオで使うことはできません。

・退行催眠でトラウマを克服する

・知人に催眠術をかける

・アロマキャンドルを取り上げる