「紅葉狩りに、行ってくれない?」
奈夏は祈るような面持ちで告げた。
秋の青空の下、大分色付いた山……校庭から見える鮮やかな『紅』を指さし。
「モミ……ジ」
言われた相手、奈夏のパートナーたる機晶姫エンジュは、暫し沈黙し。
「モミジ……紅葉……かり……刈り…………了解」
ポツリと呟き、踵を返した。
「……ぁ」
その背を見送る奈夏の胸に浮かぶのは、あぁやっぱりダメだったか、という諦め。
出会ってから半年、けれど、二人の関係はお世辞にも良好とは言い難かった。
目覚めたばかりの機晶姫と、パラミタに来たばかりの女の子と。
主として従おうとするエンジュと、戸惑う事しか出来ない奈夏と。
新しい生活に追われ戸惑い互いの距離を測れぬままの、半年。
奈夏は悩んでいた。周りの同級生達のようになれない、自分達に。
それ故の、互いに歩み寄る為の、紅葉狩りの誘いだったのだが。
「何でこう、上手くいかないかなぁ?」
最近では随分と多くなってしまった溜め息を、一つ。
こぼしてエンジュの後を追った奈夏は直ぐに知る事になる。
蒼空学園のどこにも、エンジュがいない事を。
「……ウソ」
ここで初めて奈夏は先ほどのやり取りを思い出す。
「そういえばエンジュ、了解とか言ってた? というかそもそも、エンジュ紅葉狩りって知ってたのかしら」
そして、自分はもしや『私と一緒に』行って欲しいと聞けていただろうか?
思い至り、青ざめた顔で二人で向かう筈だった場所へと向かう奈夏。
最早、嫌な予感しか、していなかった。
「はぁい、皆さん。これから山に入りまぁす」
その頃、件の山では。
蒼空学園・幼等部の生徒達がフィールドワークに来ていた。
この時期の山の木々や植物・茸等の生態を直に観察する為だ。
「引率のお兄さん・お姉さん達の言う事をちゃんと聞いて、しっかり観察して下さいねぇ」
「「「はぁ〜い、よろしくお願いします」」」
護衛というか教師役についてきていた蒼空学園・高等部の生徒達に、子供達が元気良く頭を下げた時、それは起こった。
ザザッ。
ギャギャギャっ、バサバサっっっ。
大きく、木々の擦れたようなイヤな音と、狂ったような鳥の鳴き声と、羽ばたき。
そして、子供たちの視線の先、確かにあった筈の紅が、消えていた。
「……」
枝に広がる紅を散らしていくのは、エンジュだった。
主の『命令』通り、楓やイチョウには目もくれず、ただ紅葉の葉だけを『刈って』いく。
「数が多い……でも、全部刈らねば……」
主の元へは帰れない。
小さく落ちたそれを追うように、散らされた紅が空に舞った。
市倉奈夏:蒼空学園一年生。真面目で常識人。環境適応能力は低めかも。
エンジュ:遺跡から発掘された機晶姫。奈夏を主(マスター)と認識。常識に欠ける。