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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ

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シリーズ最終章、“魔戦記”はどのような結末を迎えるのか!?
シナリオ名:【ザナドゥ魔戦記】盛衰決着、戦記最後の1ページ / 担当マスター: 蒼フロ運営チーム



●イルミンスール魔法学校:校長室

(……やれやれ。私としたことが、懐かしい、などと思ってしまうとはな。
 到底そのような事を思える立場ではなかろうに)

 久方ぶりにイルミンスール魔法学校校長室へ戻って来たアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)が、自嘲めいた笑みを浮かべます。
 ザンスカールに留まらず、隣国カナンまでをも巻き込んだ一大戦争、その発端の一つはアーデルハイトの過去と、結果として浅はかだった自身の振る舞いにありました。アーデルハイト自身もその事を理解した上で、なればこそと自らの命を賭して、復活を果たさんとしていたザナドゥの“大魔王”、ルシファーを再び封じんと試みるも、自ら乗り込んできた“孫娘”、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)とイルミンスール生徒達によって連れ出される格好になったのでした。
(愚か者め。私を助けることが、イルミンスールにとって致命傷であることを分かっとらんな。
 ……じゃが、あの場にエリザベートが来んかったら、私は文句を言ったであろうな。まったく、嘆かわしい限りじゃ。何年生きとると思っとる)
 嘆息し、アーデルハイトはいつの間にか成長したエリザベートを思います。
(しばらく見ん間に頼もしくなりおって。……なるほど、私ももっと早く知っておくべきだった。これほど楽しい事が、他にあろうか)
 脳裏に、かつて自分が置き去りにした“子”、そしてそれを育てた“母”の姿が浮かびます。二人に羨望のようなものを抱きつつ、アーデルハイトは自らの為すべき事――母として、子を助ける――を為さんと、杖を振り上げます。
(魂を分かたれた私に、出来る事はせいぜいこの程度。後は……)
 まだ顕在の世界樹クリフォトからベルゼビュート城への道、そこに飛ぶテレポーターを設置したアーデルハイトは、生徒達に呼びかけます。

「ここ校長室から、ベルゼビュート城への道を用意した。エリザベートはそこで戦っておる。
 ……おまえたち、エリザベートの力になってやってくれ。これは私からの、あの子の母親としての願いじゃ!」



●ザナドゥ:ベルゼビュート城

「フッ……やれやれ、折角の親子感動の再会というに、もっと嬉しそうにせぬか」
「ふざけるなですぅ! あなたが私の父親だなんて、絶対認めませぇん!」

 最上階『王の間』にて、妖艶な笑みを浮かべるアーデルハイト――中身はルシファー――を、エリザベートが鋭く睨み付けます。
「そうは言うても、貴様に流れるその力は間違いなく、我と我の妻のを受け継ぎしもの。故に我は貴様の父であり、アーデルハイトは貴様の母である」
「……私の力がどうなのか、私が何なのかは、この際関係ないですぅ。私はザナドゥと戦う、そう決めましたぁ! 決着をつけるまで、止めるつもりはありませぇん!」
 言い放つエリザベートに、アーデルハイトがふぅ、と息を吐きます。
「……まぁ、よかろう。貴様が退かぬというなら、我も退くつもりはない」
 アーデルハイトが手をかざすと、空間に映像が映し出されます。
 ――それは魔族の軍勢が、先にある小さな砦を目指して進軍する光景でした――。


●イルミンスール:ウィール砦

「やはりと言うか、ここを狙ってきたか……。分身まで出現させて、奴ら、本気だな」
 見張り台から、左右に長くかつ太い魔族の軍勢、背後にそびえるクリフォトの分身らしき魔樹を確認して、ケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)が緊張した面持ちで呟きます。
「どうしてここなのよ、もう! ……ま、遺跡か洞穴、イナテミスに直接出られるよりはマシだけど」
「それだけこの砦が重要な役割を果たしている、ということになりますね。魔族の狙いは、フォレストブレイズでしょうか」
「おそらくはな。森を再び瘴気で覆い、自らに適した環境へ変えることで形勢を立て直そうとしているのだろう」
 カヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)に続き、セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)の言った言葉に、ケイオースが答えます。
「ザナドゥでも、魔族とカナン側で大規模な戦いが行われているとのことですわ。
 アーデルハイト様もエリザベート様を助けるため、ベルゼビュート城への道を拓いたと仰られました」
「皆、それぞれの地で頑張っている。彼らの頑張りを無駄にするわけにはいかない。
 私達はここで、魔族を食い止めよう。私達はその為に、これまで準備をしてきたのだろう?」
 セイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)のもたらす報告を耳にして、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)が皆に決意を促します。
「おかげさまで、十分休めたしね。恩返しも兼ねて、暴れてやるわよ!」
「殺生を奨励するつもりはございません、ですが、守るもののため……今一度、わたくしは弓を取りましょう」
「願うなら……魔族の方とも、歩み寄る事が出来たらいいですね」
 三者三様の表現ながら、魔族と事を構えることを否定せず、立ち向かう意思を示します。
「そこまで言われて、一人俺だけが尻込みしていては格好がつかないな。
 俺は状況をまとめ、協力者を募る。皆はその間、防衛の準備を頼む」
 ケイオースの言葉にそれぞれ頷き、やるべき事を為すために散っていきます――。


●ザナドゥ:ベルゼビュート城

「……我ももう限界と思うていたが、息子が手を打ってくれた。……それでも、今出現させておる樹で最後じゃろうな。世界樹の回復は易々とはいかん。我を封じた奴ら、アーデルハイトとイナンナを贄に捧げた所で、我の身体を取り戻す事は出来ても、ザナドゥを地上に顕現させるにはまた数千年の時を待たねばならぬ。
 ……アーデルハイトが独りここを訪れた時は絶好の好機と思うておったが、結果として企みを挫かれる事になろうとはな。全く忌々しい」
「……そこまで分かっているなら、どうしてまだ戦おうとするですかぁ?」
 ある意味で当然の疑問を口にしたエリザベートへ、アーデルハイトが答えます。
「色々と理由は付けられるが……一度振り上げた拳の落とし所、と言っておこうかの。五千年前は拳を振り上げた所で止められてしもうたしな」
「…………」
 貴様にも分かるだろう? と言わんばかりの視線を向けられ、エリザベートは黙る他ありませんでした。

 無闇に戦うことはいけないよと教えられても。戦う必要がなければそれに越したことはないと知っていても。
 ……それでも、戦った方がいい時だってあるはずだ。何より、その時の自分はきっと、満足しているだろう。

「しばしの余興に付き合え、“エリザベート”。親孝行もたまには悪くないと思うぞ?」
「誰があなたなんかぁ!」

 二人の放った魔弾が中心でぶつかり合い、互いに打ち消されて強烈な光と衝撃を生みます――。


●カナン:キシュ

 龍の逝く穴から伝説のイコン、エレシュキガルを持ち帰り、キシュに辿り着いたニンフ(ニンフルサグ)はそこで、イナンナ・ワルプルギス(いなんな・わるぷるぎす)世界樹セフィロトに起きた異変の対処に当たっていることを知らされます。
「イナンナ様! セフィロトは……イナンナ様はご無事なのですか!?」
 イナンナの代わりに置かれた像へニンフが呼びかければ、像を通じてイナンナの声が響きます。
『コーラルネットワークを通じ、クリフォトがセフィロトとイルミンスールに干渉していたようです。多少力を奪われはしましたが、今は遮断しました』
「あぁ……」
 安堵に胸を撫で下ろすニンフ、折角エレシュキガルを持ち帰ったのに、イナンナの身にもしものことがあれば報われません。
『あなたが持ち帰ってくれた予備部品で、ギルガメッシュも稼働出来るようになりました。ザナドゥの環境下でも、十全に力を発揮することが出来るでしょう。ごく一時的にではありますが、他のイコンにもザナドゥでの稼働を可能にする力があるようです』
 イナンナの言葉は、エレシュキガルというものがいかに強力で、そして一歩使い方を誤れば多大な代償と、自らの身を滅ぼしかねないことを同時に伝えていました。
『……エレシュキガルをお願いします、ニンフ』
「はい……イナンナ様」
 それきり声を発しない像に頭を垂れ、ニンフはエレシュキガルの下へ向かいます――。


●ザナドゥ:メイシュロット東

「さて、ここまでは何事も無く来れたが……あれは、迂闊には攻め込めそうにないな」
 セテカ・タイフォン(せてか・たいふぉん)が呟き、空に浮かぶ街、メイシュロットを見上げます。行く手は毒々しい大河に遮られ、その上空に佇む浮遊島の下半分は中心にそびえ立つ塔のようなものの他、無数の穴が穿たれていました。それが、接近を試みる者たちを排除するための機構であることは、容易に想像がつきました。

 魔神 ロノウェ(まじん・ろのうぇ)の治める街、ロンウェルでの一件は、まるで嵐のようなものでした。
 魔神 バルバトス(まじん・ばるばとす)の企みを防ぎ、ロノウェに中立としての立場を約束させたものの、婚約者であるアナト=ユテ・アーンセト救出に向かったバァル・ハダド(ばぁる・はだど)は十二騎士の一人エシム・アーンセトに襲われ、一時は意識不明に陥りました。
 エシムによる襲撃はバルバトス側コントラクターの手によるものではありましたが、実際に手を下したのがエシムであることは疑いようのない事実です。エシムとその姉アナトは既に地上に送り返されています。処分は追って決定されるとのことでしたが、厳しい運命が待ち構えているのは確かであるように思われました。

 ロンウェルの無力化に成功した東カナンの下に、凶報の如く、南カナン領主シャムス・ニヌア(しゃむす・にぬあ)を襲った出来事の顛末が伝えられます。
 シャムス率いる一行はバルバトスに攫われたエンヘドゥ・ニヌア(えんへどぅ・にぬあ)救出の一手として、後方の憂いを絶つべく魔神 アムドゥスキアス(まじん・あむどぅすきあす)と共に魔神 ナベリウス(まじん・なべりうす)の治めるゲルバドルへ向かいました。そこでは一応の成功を収めはしましたが、そのことがバルバトスの怒りを買ったのでしょう、シャムスの下に首だけになったエンヘドゥのブロンズ像が送りつけられてきたのでした。
 妹の仇討ちとばかりにメイシュロット侵攻を決意したシャムスに、一時的に東カナン軍の指揮を預かる形になっていたセテカは呼応します。エンヘドゥは彼にとっても親しい友人であり、これまでも自分達を翻弄してきたバルバトスは、もはや許し難い敵でした。
 折しも、先にバビロン城調査を行っていたドン・マルドゥーク(どん・まるどぅーく)率いるコントラクターの影響か、バビロン城が崩壊したため、東カナンと西カナンはここに至って合流を果たすことが出来たのでした。
 マルドゥークから詳細を聞き、魔神 パイモン(まじん・ぱいもん)が傷を負い、ベルゼビュート城を空けている間にメイシュロットを突破出来ないかとのセテカの言葉に、マルドゥークは「ティアマト様から『エレシュキガル』を借り受け、『ギルガメッシュ』『エンキドゥ』も修理を終えて共に向かっている」と伝えたのでした。

「『エレシュキガル』『ギルガメッシュ』『エンキドゥ』等、それらで防御機構を沈黙させ、メイシュロットを落とす。その後俺達が内部へ突入、バルバトスを討つ」
 周囲にだれもいない中、セテカは言葉にすることで物事を明確化するように呟きます。その時、後方の天幕からバァルが姿を現し、セテカの下へ歩み寄りました。
「やあ、領主様。たっぷり睡眠をとって目覚めた気分はどうだ?」
「……意地が悪いぞ、セテカ。分かっていてなおわたしに問うのか?」
 ははは、と屈託なく笑うセテカとは対照的に、バァルはいまだ冴えない顔色ながらも苦笑を浮かべて見せました。その手は傷のあった場所へと添えられています。まだ至近距離から撃たれた衝撃からは完全に立ち直りきれてはいませんでしたが、傷自体はあの場にいた回復魔法の使い手たちによって完全に塞がれていました。
 セテカの視線から、無意識にあてていた手に気付いてバァルは手を下ろします。
(エシム、姫……)
 その名、面影を、バァルは脳裏から振り払います。
 それについて今は考えまい。今はただ、目前に迫った戦いに集中するのみ。
 そんなバァルの決意を横で感じ取ったセテカも、あえて何も口にしようとはしませんでした。そのまま無言で敵の牙城メイシュロットを見続けます。
 外気にあたるうち、すっかり生気の戻った顔でセテカと目を合わせたバァルは、今や完全な『東カナン領主』でした。
「一緒に来てくれるな、セテカ」
「俺がいなかった時があるか? 俺はおまえのひと振りの剣だ。今までも、これからも」
 二人はパンッと手を打ち合わせました。そして出撃の時を待ちます――。


●ザナドゥ:ロンウェル

「ロノウェ様、追加の申請書なのです」
「ありがとう、そこに置いておいて。こっちは確認が終わったわ」
「お疲れさまなのです」

 ロノウェと副官ヨミは、事務作業に追われていました。
 ロンウェルは今や、地上に移住を望む魔族の受け皿となっていたのです。彼らを地上の住民として認めるためには、地上の規則に沿った手続きを取らねばなりません。それは人間の様式について勉強を重ねてきたロノウェにしか出来ないことでした。
「ふぅ……」
 手を休め、ロノウェはぼんやりと外を眺めます。
「バルバトス様……」
 脳裏にバルバトスの言葉が、全身に抱きしめられた感触が蘇ります。
 ――100年後に、また会いましょう――。
「…………」
 100年、魔族にとっては大した時間ではありません。しかし地上の民、特に人間にとっては一生を超える時間です。その頃には人間は約束を忘れ、魔族を貶める……そう思ったからこそバルバトスはああ言ったのだと、ロノウェは気付いていました。
 何より、それだけの間バルバトスと離れることに、ロノウェは今更ながら淋しさを覚えていたのでした。今こうしている間も、「ロノウェちゃ~ん♪」と扉を開けてバルバトスがやって来るのではないかと思っていましたし、「何ですか、今忙しいので後にして下さい」と素っ気ない対応をしていた中に、訪ねて来てくれたことを嬉しく思う自分が居たことを痛感したのでした。
(……もしもバルバトス様の言う通りでしたら、今度こそその時は、バルバトス様に生涯、忠誠を誓います。
 ですから今だけは……お許し下さい、バルバトス様)
 首を振り、ロノウェは作業に戻ります。


●ザナドゥ:メイシュロット南

「この河を越えれば、メイシュロットの真下まで行けるには行ける。でもあそこは空中要塞みたいなものだからねー。近付いたら多分、欠片も残らないんじゃないかな」
「……マルドゥークから、エレシュキガルとギルガメッシュ、エンキドゥが向かっている旨を伝えられた。他のイコンも追従させるとも言っていた」
「へー、ザナドゥの瘴気をものともしないんだ、やっぱり人間って凄いねー。
 じゃあ、彼らの活躍次第ってとこだね。メイシュロットはこんな感じで……」

 テントの中で、アムドゥスキアスが自ら描いたメイシュロット概略図を前に説明しているのを、『漆黒の翼』の団長アムド、それに女剣士サイクスが聞いている中、シャムスはどうしても上の空になってしまいます。
(エンヘドゥ……くっ……)
 気を緩めれば、首だけになったエンヘドゥが頭の中を占め、その都度シャムスはエンヘドゥを守れなかった自分への不甲斐なさと、エンヘドゥを手にかけたバルバトスへの憎悪に支配されかけるのです。アムドゥスキアスのように戦いだけを好む魔族ばかりではない、理解し合える魔族もいることは分かっていても、ありったけの矢を撃ち込んでやりたい、そんな感情が波打つのを禁じ得ない自分が居ることに気付いていました。
「……ってとこかな。あ、そうそう。ボクはモモちゃんとサクラちゃんと、別行動を取っていいかな? ナナちゃんのことが気がかりだしね。
 バルバトス様は多分、ナナちゃんを騙してこっちにけしかけるくらい、平然とやるよ。そうなったらキミたちじゃ、止められないからね。サイクスを置いていくから、何かあったら彼女を通じて伝えてくれれば、出来る事はするよ」
「ああ……こちらの邪魔をしないのであれば、好きにしてくれて構わない。済まない、オレは外に出る」
 アムドゥスキアスの問いに鷹揚に答えて、シャムスがテントを出ていきます。

「アムドゥスキアス様……エンヘドゥ様のこと、お伝えしなくて宜しいのですか? あのままではシャムス様は、自らの身を顧みずバルバトス様を……」
 弛緩した空気の中を破ったサイクスの言葉に、アムドが何の話ですか、と言おうとして、アムドゥスキアスが無言の問いに答えます。
「エンヘドゥは生きてるよ。いや、生き返らせることが出来る、と言った方がいいかな。ボクの力はバルバトス様には及ばないけど、エンヘドゥをブロンズ像に変えたのはボクだ。元に戻すことは出来るよ。
 バルバトス様は、エンヘドゥの欠片をメイシュロットにある六つの塔に分けて置いてる。もちろんただで返すつもりもないだろうし、ガーディアンでも配置してるかな。先に言った通り欠片が一個もなくてもなんとかなるけど、あればあるほどより精巧に元に戻せるのは確かでもあるね」
「では何故――」
 そこまで分かっていながらシャムスに伝えなかったのですか、という言葉は、アムドゥスキアスに封じられます。
「ボクは、自分の作品を壊された上、こんな扱いを受けたことに酷く怒っている。バルバトス様はボクら四魔将のリーダーだけど、それとこれとは別。だから、シャムスが怒りに任せてバルバトス様を滅ぼしてくれるなら、それはそれでいいと思っている。
 ボクを罵るかい? それは理解するさ、だけどボクは魔族でキミたちは人間。それが答えさ。……もちろん、エンヘドゥを元に戻すためには全力を尽くすし、シャムスが危機に陥るようであれば、手助けすることもある。……尤も、彼女はそれを望んでいないかもしれないけどね」


●ザナドゥ:メイシュロット

「ゲルバドルが抜かれては、ベルゼビュート城まで遮るものはない。……ま、その為にもエンヘドゥちゃんには犠牲になってもらったんだけど♪
 アムちゃんもたいそうご立腹よね~。だから必ず、ベルゼビュート城ではなくこちらに軍を案内する。それでも城へ向かおうと言うなら、背後を突いて殲滅してあげるわ」

 偵察から戻って来た部下の報告を受けたバルバトスは、トントン、と机を叩き、方針を示します。河を渡ればベルゼビュート城へも侵攻出来る南カナン軍の動きを第一に注視し、大河の向こうにいる東カナン軍は二の次とし、指示を伝え終えたバルバトスは席を立ち、背後で小さく蹲っていたナナに近付き、天使のような微笑を浮かべます。
「ねぇ、ナナちゃん。エンヘドゥちゃんともう一度、遊びたいわよね?」
 ぶるぶると震えていたナナは、その言葉にこくこく、と頷きます。
「じゃあ、アムちゃんの魂をここに持ってきて頂戴。エンヘドゥちゃんをブロンズ像に変えたのはアムちゃんだもの、その魂があれば元にだって戻せるわ」
「アムくんを……? むりだよ、アムくんはわたしたちのたいせつなおともだちだもの!」
 ぶんぶんと首を振るナナを、バルバトスはあくまで笑顔を浮かべたまま掴み上げ、首筋にスッ、と手を当てます。
「それじゃあ、エンヘドゥちゃんと同じにしてあげようかしら。良かったわね~、エンヘドゥちゃんとお揃いよ♪」
「ひっ……!」
 従わなければ殺される、直感的にそのことを悟ったナナは恐怖に身を引きつらせ、脳裏にモモとサクラ、アムドゥスキアスを思い浮かべます。
「……エンへちゃんを、いきかえらせてくれる?」
「ええ、もちろん」
 一片の曇りも感じさせない微笑みを浮かべるバルバトスを見つめ、ナナはこくり、と頷きます。
「見せて頂戴、魔神ナベリウスの本性……獰猛たる地獄の番人の力を」

「アアアアアァァァァァ!!」

 凶暴化したナナが飛び出していった後で、バルバトスはふふ、と微笑み、手元に入れ物を出しました。
 それはどこか、魔族が魂を入れておく壺に似ていました。
「うふふ。ちゃぁんと、エンヘドゥちゃんは返してあげるわよ~。
 でもね、ただでは返してあげないわ。めいっぱい苦しんで頂戴、そして絶望に打ちひしがれて頂戴」
 入れ物を消して、バルバトスはしばしの間、目を閉じます。彼女は何を思うのでしょう――。


●ザナドゥ:メイシュロット南

 席を空けていたシャムスがテントに戻ると、既にアムドゥスキアスとモモ、サクラの姿はありませんでした。
「……ああ、そうか。彼らは別行動を取ったのだったな」
 おぼろげにアムドゥスキアスの口から語られた言葉をシャムスが思い返していると、サイクスがやって来て告げます。
「シャムス様……このようなことを言って何になるか分かりませんが、どうかお聞き下さい。
 アムドゥスキアス様はおそらく、ナナ様の目を自身に引きつけようとなさったのだと思われます。シャムス様と皆様に迷惑がかからぬよう」
「……済まないが、オレに出来る事は何も無い。オレには為さねばならないことがある」
 サイクスの言葉を聞き止め、背を向けたシャムスがテントを出る直前、言葉を発します。
「だが彼らなら、あるいは、な。……場所は分かるか?」
「ええ、判明しています」

 シャムスの許可を得たサイクスが、アムドゥスキアス一行の目的と場所を契約者に伝える頃――。


●ザナドゥ:ゲルバドル北

「アムくん、ナナちゃんはここにくるの?」
「うん、多分ね。きっとナナちゃんはバルバトス様に、ボクの命を狙うように指示されている。
 バルバトス様も薄々、エンヘドゥを自分では殺し切れない事に気付く頃だから。欠片を集めても、ボクがいなきゃエンヘドゥは生き返らないからね」
「そんな……それじゃナナちゃんは――」

「アアアアアァァァァァ!!」

 一行の前に、ナナ……いや、それはナナだったモノが姿を現します。
「あわわわわ……ナナちゃん、アレになっちゃったの?」
「アムくん、アレになっちゃったナナちゃんは、だれにもとめられないよ。にげようアムくん、わたしたちじゃかてないよっ」
 モモとサクラが、ナナの変貌を知ってかぎゅっ、とアムドゥスキアスを掴んで逃げようとします。
 ……けれども、アムドゥスキアスの足は一歩も、その場を動こうとしませんでした。
「キミたちがこうなってしまった責任の一端は、ボクにあるからね。
 ……戦うのはキライさ、だけど、戦わなくちゃいけない時ってのも、あるんじゃないかな」

 片手に弓を構え、アムドゥスキアスが交戦の意思を示します――。


●ザナドゥ:メイシュロット北

(城へはイルミンスールの軍勢……南カナン軍も接近しつつあり。東カナン軍と西カナン軍はメイシュロットの東で待機。
 四魔将の内、ロノウェ、モモとサクラ、アムドゥスキアスが中立もしくは敵対へと移行……)
 両方を臨める位置まで退いたパイモンは、状況を確認して自嘲めいた笑みを浮かべます。
(結局、最後まで従ってくれるのはバルバトスだけ、ですか。……さて、やはりここは城に戻るべきでしょう――)
 瞬間、強大な気配を察知したパイモンが振り返ると、一体の魔族が姿を現します。
「ハーイ。私のこと、覚えてるかしら?」
「……ベリアル……ええ、よく覚えてますよ。あれほど執拗で陰虐な殺意は、後にも先にも感じた事はありません」
「あら、まだ幼かったあなたをあやそうとしただけですのに、随分な言われようですわ」
殺そうの間違いでしょう?」
「まぁ、酷い。人の行為は素直に受け取るべきだわ」
 余裕たっぷりの笑顔で迫るベリアルに対し、パイモンは警戒を解くことなく受けます。
「一体何の用です? 時間が惜しいのですが」
「もちろん、あなたを殺しに来たのよ。人間に協力するだけで地上に魔族の国を創って貰えるの、ザナドゥと行き来できる橋も造って貰えるのよ。安い取引だったわ」
「人間と取引……? あなたも変わりませんね。利用するだけ利用されて封印される、それがあなたの辿る道ですよ」
「あなたが生きている限り私が封印されることはないわ。あなたが死んだ時はザナドゥの魔族は全て私の下僕。人間が裏切るなら、戦争を起こすだけよ」

「それは聞き捨てならないな」

 ベリアルの背後からマルドゥークの声が届きます。彼らはパイモンの動きを予測したベリアルに先導される形で、ここまでやって来たのでした。
「オレと交わした約束は、ザナドゥの魔王パイモンを生かして捕らえることだ。それを破るようならベリアル、もう一度壺の中に入ってもらうぞ」
 牽制するマルドゥークの傍には、バビロン城で回収した『封魔壺』があります。
「分かってるわよ。この子ったら子供のくせに、口だけは達者だからついノセられちゃうの。あなたも気をつけなさい、利用されたくなければね」
 マルドゥークに言って、ベリアルがパイモンへ振り向きます。
「……なるほど。事情は理解しました」
「物分かりのいい子で助かるわ。あなたはここで死ぬだけでいい、単純な話でしょう?」

 視線の交錯が開戦の合図。パイモンが黒光りする双剣を、ベリアルがやはり漆黒に染まる鉤爪を出現させて構えます――。

 それぞれの地で燻っていた炎が、今一所に集まって燃え盛ろうとしています。
 全てが終わったその時、そこには一体何が残り、何が滅び、何が生まれるのでしょう――。

担当マスターより

▼担当マスター

蒼フロ運営チーム

▼マスターコメント

■2011年11月30日:追記
・各パートのイコンの使用について
・【5】その他の創設について
・エンヘドゥの欠片が置かれている六つの塔の東西の割り振りについて
・アルマインについて
・封魔壷について

 を追記しました。


【ザナドゥ魔戦記】フィナーレを飾るグランドシナリオです。
以下、各パートについての補足説明を行います。

【1】ベルゼビュート城内部に向かう:イコン使用不可
イルミンスール魔法学校校長室、及び世界樹クリフォト外部入口から、ベルゼビュート城内部に向かうことが出来ます。転送された先は『地上1階』です。
こちらはイコンの使用は出来ません。個人で所有する乗り物は使用可能です。

ベルゼビュート城は以下の構造になっています。
・地下:罪人の間……罪を犯した者たちが強制労働に従事させられている。
 脱走者が出ないよう、構造を複雑にし、かつ様々な罠が仕掛けられている。
・地上1階:入口の間……来訪者を出迎える間であり、侵入者を撃退する間でもある。
 仕掛けられた罠はスキルで解除することが可能。
・地上2階:巨人の間……主に巨人サイズの魔族のために用意された間。
 巨人は動きが鈍いが、一撃が重い。正面からまともにぶつかるのは危険。
・地上3階:使用人の間……城で働く使用人たちのために用意された間。
 城の変事に、彼らは怯えて閉じ込もっている。
・地上4階:来訪者の間……何らかの措置で招待を受けた者たちに用意された間。
・地上5階:要職者の間……四魔将や客将といった者たちに用意された間。
 誰もいない。
・地上6階:王の間……パイモン、アーデルハイト(ルシファー)のための間。
 エリザベートとアーデルハイト(ルシファー)は最初、ここで戦っている。
 戦闘が激化すると天井を突き破り、クリフォト上部での戦いになる。

エリザベート側につくかアーデルハイト(ルシファー)側につくかによって、戦況が変わります。


【2】ウィール砦に向かう:イコン使用可能
こちらはイコンの使用が出来ます。
五精霊側につくか魔族側につくかによって、戦況が変わります。

※魔族地上軍編成
ナベリウス軍とアムドゥスキアス軍の残余+空中飛翔タイプ若干名。とはいえ数百~はいます。
四魔将も名だたる魔族もいませんが、その分ザナドゥ側についた契約者の指示には簡単に従い、その場合は脅威と化します。

※その他イルミンスール内の補足
・旗艦『I2セイバー』は前回の戦いを生き残りましたが、武装の殆どと外部装甲の大半を失い、辛うじてイコンの整備・補給が行える程度です。
 五隻の大型飛空艇と二隻の避難船は飛空艇発着場にて健在です。

・ガイドに登場していないNPCは基本、『イルミンスールの岐路~決着~』で登場していた場所に居ます。
(『エールライン』はウィール砦防衛に向かいました)


【3】メイシュロットに向かう:イコン使用可能
サンプルアクションでは一つにまとめましたが、方針としては3つに分かれています。
(カナン側とザナドゥ側も含めると、6つになります)

【3東】『バァル』メイシュロット外部でバルバトス軍(東カナン軍)と相対する。『セテカ』内部突入、エンヘドゥの欠片を取り返す(欠片を取り返しに来た契約者と相対する)。
【3南】『シャムス』メイシュロット内部突入、バルバトスを討つ(バルバトスについて契約者と戦う)。エンヘドゥの欠片を取り返す(欠片を取り返しに来た契約者と相対する)。
【3西】『エレシュキガル』『ギルガメッシュ』『エンキドゥ』と共にイコン搭乗、メイシュロットの防御機構を破壊、地面に落とす(イコン部隊と戦う)。

※バルバトス軍編成
全員、飛翔タイプです。
軍、と呼べる規模ではないのですが(内外合わせても二、三百)、一人一人がコントラクター並に強力です。

※エンヘドゥの欠片が置かれている六つの塔
それぞれ、『嫉妬』『憤怒』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』と名が付けられています。
 【3東】……『嫉妬』『憤怒』『怠惰』の塔を担当します。
 【3南】……『強欲』『暴食』『色欲』の塔を担当します。


仕掛けられているガーディアンも塔の名に相応しく只者ではありませんし、欠片が収められた壺にも仕掛けがあるようです。

※カナンの三機のイコン
ギルガメッシュ:『黄金の騎士型イコン』
ビームを発射出来る黄金の剣と盾を装備。飛行可能。

エンキドゥ:『白銀の銃士型イコン』
ビームを発射出来る白銀の銃と盾を装備。飛行可能。

エレシュキガル:『漆黒の女神型イコン』
ビームを発射出来る漆黒の銃と盾を装備。
胸の膨らみはただの膨らみではないようだ。飛行可能。

各機、2人乗りです。MCとLCのペアである必要はありません。
エレシュキガルにはニンフが搭乗しますが、もう1人乗ることが出来ます。ギルガメッシュとエンキドゥについては決まっていません。
掲示板等で話し合いの上、搭乗者を決めて下さい。

また、エレシュキガルには『クル・ヌ・ギ・ア』という、発動すると3分間、敵味方関係なく辺りのものをバーサーカーのごとく殲滅するシステムが搭載されています。これによりメイシュロットの防衛機構の大部分は破壊されますが、代償は計り知れません

※イコンの扱いについて
エレシュキガル(と、予備パーツで修理されたギルガメッシュ)が発する力により、メイシュロット宙域では通常の運用が可能です。

※アルマインについて
オプション武装や『進化』能力は有効となります。



【4】魔神の下へ向かう:イコン使用不可
これもサンプルアクションでは一つにまとめましたが、パイモンとベリアル、ナベリウスとアムドゥスキアス、ロノウェのそれぞれに、契約者側とザナドゥ側の立場があります。

【4東】ロノウェを守る(殺す)。
【4南】ナベリウスとアムドゥスキアスを仲直りさせる(仲違いさせて死なす)。
【4西】パイモンを捕らえ、戦争を終結させる(パイモンを殺す等)。

どちらにつくかによって、これら魔族の生死が決定されます。
各場所でのイコン使用は出来ません。


【5】その他
これ以外の場所・事柄に関するアクションをかけたい方は、【5】となります。
多岐に渡ると思われますので、サンプルアクションは用意しません。



担当マスターは、
【1】【2】:猫宮烈
【3】【4】:古戝正規・夜光ヤナギ・寺岡志乃
【5】:アクション内容に応じて振り分け
となっています。


※封魔壷について
悪魔・魔鎧以外は通用しません。額があるであろう部分に貼れれば発動します。



以下は、【ザナドゥ魔戦記】に関係する記述です。

 『悪魔LCの立場』『魔鎧LCの立場』『死亡描写につきまして』『ザナドゥ側に付く場合』につきましては、
 【ザナドゥ魔戦記】特設ページに記載がありますので、そちらをご確認ください。

 『魂を奪われた、もしくは捧げたPCについて』
 普通の生活を送る分には、他の人と変わり無く過ごすことが出来ます。
 但し、魔族に反逆する意思が見られた時点で身体の自由が利かなくなり、意思と行動の自由を奪われます。
 シナリオ終了時には元に戻ります。(奪われるかどうかは、皆様の送っていただいたアクションを元に、マスターが判定します)

 また、以上のPCが行動する場合、魔族の力の一部を与えられているとし、身体能力が一箇所強化されています。
 どこが強化されているかは、アクションで指定することが出来ます。(例:目がとても良くなった、速く走れるようになった等々)

 ザナドゥ側に付いて悪事を働いているPCは、その理由に関係なく放校処分になります。
 シャンバラ教導団員やロイヤルガードの場合、その地位がはく奪されます。

 悪魔にパートナーの魂を奪われる、自身が魂を奪われるなどで、やむを得ず、意図せずザナドゥ側に付いている場合も含まれます。
 ただしこの場合は、誤解が解け、身の潔白が証明されれば放校処分は取り消されます。

 今回が【ザナドゥ魔戦記】最後ですので、シナリオが何事も無く成功となれば、奪われた魂は取り戻せます。
 捧げた魂も返却されます。(あくまで方針であって、最終的には皆様のアクションを元に判定しますが)


それでは、最後を飾るシナリオ、どうぞよろしくお願いいたします。

▼サンプルアクション

・【1】ベルゼビュート城に向かう

・【2】ウィール砦に向かう

・【3】メイシュロットに向かう

・【4】魔神の所に向かう

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2011年12月02日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2011年12月23日


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