ある日、百合園女学院で小さな騒ぎがありました。
「見知らぬ機晶姫が迷い込んだわ」
「けれど、まるで会話が成り立たないの。言語が違うのではなくて、意味の分からない単語が混じっているのよね」
「声をかけても、私達が見えていないかのようで、独り言を呟いているの」
「そうかと思えば、大きな声で歌いだしたり……」
「例えるなら……そうですわね。砕けてしまった会話を私達がつながなければ、彼女と会話ができないんですのよ」
百合園女学院でその話がもちきりになると、蒼空学園、シャンバラ教導団、薔薇の学舎、イルミンスール魔法学校、波羅蜜多実業高校にまでその噂は届きました。
その噂の中心である機晶姫は長い赤毛で赤い瞳、黒い肌をした少し大人びた少女タイプの機晶姫だそうです。
名前を聞いたとき、幾度か【ルーノアレエ】と答えたようです。
それが、彼女の名前であると噂は言います。
ただどこから来たのかを問うと、小首を傾げて困った顔をします。そして、また分からない単語を呟きます。
彼女の言葉はまるで魔法の呪文か、何かの暗号だったのかもしれない……。
そんな風に噂する声も、次第に消え入る頃……パラミタ大陸にある各学校に、依頼書が回ってきました。
とある遺跡を探索していた男から、一人の機晶姫が迷子になってしまったので、探すのを手伝ってほしいという依頼です。
男の名前はイシュベルタ・アルザス。
遺跡の中で迷子になってしまったので、多くの人手が必要だといいます。
〜機晶姫の特徴〜
・名前はルーノアレエ
・見た目は長い赤毛に赤い瞳、黒い肌をしている大人びた少女タイプ。
・人見知りするので逃げようとするかもしれないが、無理やりにでもつれてきてほしい。
・その機晶姫が持つ機晶石は、常時金色に輝いており、暗闇でも発見することが可能。
その遺跡はアトラスの傷跡とヴァシャイリーとの丁度中間にあります。
調査をしていると言うイシュベルタ・アルザスは、どこか怪しげな雰囲気です。
服装こそ遺跡探索者ではあります。
ですがその割りに持ち物は武器や爆薬といった、調査というよりも破壊を目的としたようなものばかり持っているようです。
ルーノアレエのパートナーだと言い張っていますが、どこまで信じていいのか分かりません。
彼女は故障したからコミュニケートができないのだと、彼は言います。
噂が本当であるなら、ルーノアレエは全くコミュニケートが取れなかったわけではありません。
それよりも、遺跡には魔獣が住み着いているので、ルーノアレエが本当に遺跡にいるなら心配です。
遺跡は古代シャンバラ人たちの残した財宝が眠っていると、イシュベルタ・アルザスは言います。
彼の目的は調査らしいのですが、財宝と口にしたイシュベルタ・アルザスの目が、妖しく光っているようにも見えました。
不可解なことは重なっています。ですが、一つだけ言えることがあります。
ルーノアレエを救えるのは、あなたたちだけなのです。