イルミンスール魔法学校

　うららかな春の午後。百合園女学院の来賓室を、一人の男性が訪れていました。
　ヴァイシャリーの商家の長男であるフェルナン・シャントルイユ（ふぇるなん・しゃんとるいゆ）です。
　彼の隣には、生徒会長の伊藤春佳。
　コーヒーテーブルを挟んで彼らの向かいに座るのは、ラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）と、校長の桜井静香（さくらい・しずか）。
　テーブルの上には、ヴァイシャリーの地図が広げられ、カラフルな付箋やペンで、次々と印が付けられていきます。

「騎士の橋は外せませんわね」
「近くのカフェ、パフェがすっごく大きいんだよ」
「では、この道を通りませんか？　運河がとても綺麗に見えるんです」
「せっかくですから、この公園もルートに入れましょう」

　四人の話題の中心は、ヴァイシャリーの見所となる場所やモノ。
　地図は将来のヴァイシャリー観光マップの下地になる予定です。そう、男であるフェルナンがここにいるのは、彼が観光マップ作りを言い出したからです。
　シャントルイユ家は、ヴァイシャリーでも有数の古い商家です。長男であるフェルナンは、主に貴族の子弟が集う学校に通いながら家業の手伝いをしており、これはその一環でした。何故なら小売は元より流通の要である水運業にも手を出しているからです。
　ですが……、彼自身にも別の思惑があります。その思惑を成功させるためには百合園生が適任であり、ラズィーヤも賛同したのでした。

　その思惑とは、ヴァイシャリーを訪れる人々に、街への愛着を持ってもらうことです。
　現在シャンバラは建国に向けて確実に動いています。今後、今まで以上に日本や各地から多くのお嬢様や観光客が訪れることでしょう。
　それは、単に国交が開かれるから、だけではありません。
　百合園は日本やシャンバラだけでなく、パラミタの他国からもお嬢様が集うことで有名です。また以前ラズィーヤが発言したように、百合園が設立された理由のひとつとして、シャンバラ建国後に必要とされる女官を始め、宮廷で働く人々を育成することが挙げられます。
　女官になるため、百合園に通う娘に会うため、ただの観光のため。他国からシャンバラの宮廷に繋ぎを作るため、或いは我こそがと宮廷に潜り込むため。
　更にシャンバラ全体で見れば、ヴァイシャリーは隅っこにあります。しかしパラミタ全体で見た場合、ヴァイシャリーは他国との窓口になれる立地条件と交通の便である水運を備えているのです。
　今後、ヴァイシャリーが外交と政治の戦場になる可能性は大いにあります。
　その時、他国出身の人々にヴァイシャリーへの愛着を持ってもらうことは、いくらかプラスになるはずです。
　

「村上さんはどう思う？」
「そうですね……せっかくボランティアを募るのですから、皆さんへのお楽しみもあった方が良いかもしれませんね」
　静香に訊かれ、お茶を出したりと雑用をしていた村上　琴理（むらかみ・ことり）はそう返答しました。
　ボランティアとは、彼女達が作った地図を元に、ヴァイシャリーを実際に回ってくれる百合園生達のことです。ヴァイシャリーで生活している彼女達お気に入りのお店や風景、好きな食べ物などなどを紹介してもらい、マップに書き足す予定になっていたのです。
「でしたら、姉の店を見学できるようにしておきましょう。桜井校長にも成果を見ていただきたいですし、皆さんにも興味はおありでしょうから」
「──と、言いますと？」
　春佳の質問に、フェルナンは面白そうな視線を一瞬だけ静香に送り、
「校長に、私の姉へご協力いただいているのです」
「……今ね、時間があるときに刺繍とかレースとか、作ってるんだ」
　春佳とラズィーヤの視線を受け、静香は話し始めます。
「フェルナンさんの二番目のお姉さんが、デザイナーなんだよ。宝飾品とか服とか、色々ね。それで、僕の作ったものをドレスの一部に使ってもらったりしてるんだよ」
　こちらはボランティアではありません。その対価として得た報酬は、静香のお小遣い及び借金返済資金になっています。
「僕も完成品を見に行く暇がなかったから、嬉しいな」
「ええ、姉もお礼に招待したいと言っていまし。店はこちらです」
　彼が指さしたのは、歌劇場のある一帯でした。
「ヴァイシャリーも広いですから、学生達にも回ってもらう地区を決めて行動した方が良さそうですね」
　春佳が地図を眺め、そんなことを言います。
「それから、私達もどこに行くか決めましょう」
「……でしたら、希望をそれぞれ取ってからにしませんとね」
　それぞれは分担を決めると、ボランティア向けのしおりを作る作業に入りました。

　そして次の休日、朝八時頃。
　ヴァイシャリーの運河に面する＜はばたき広場＞に、お嬢様方が集まったのです。

　こんにちは、有沢です。
　こちらはヴァイシャリー紹介のシナリオとなっています。
　百合園女学院はヴァイシャリーに建っているわけですが（百合園内部もですが）、人々の暮らしぶりはそれほど語られていませんでした。
　ですのでそれを描きたいなと思い、今回は、皆さんには回る地区を指定していただき、ただ観光をしたり、買い物をしたり、デートをしたりする中で、レスポンスとして描く、攻略というよりＴＲＰＧのシティ・アドベンチャーの日常パートのようなシナリオになっています。ただ、地区を指定していただくのは齟齬をなるべくなくすためなので、必ずしも指定していただかなくても、こんな感じ〜というのでも、結構です。
　また出発及び解散はヴァイシャリーの校門前です。ボランティアは百合園内で集ってはいますが、他校生や男性にもご参加いただけます。
　以下、ヴァイシャリーのご紹介です。

　まず、地図につきましては、芙龍らむだマスター「第２回ジェイダス杯」をご覧下さい。
　以前ビギナーズパッケージで書きましたものも含めてご説明いたします。

　ヴァイシャリーの大まかな地区と代表的な店などを挙げたいと思います（それだけしかないわけではありません）
　　・ヴァイシャリー家の屋敷……北部にあります。周辺は貴族などが住まう高級住宅街です。
　　・百合園女学院……ヴァイシャリー屋敷よりやや南下した位置にあります。
　　・住宅街……南西にあります。ここには一般市民が住んでいます。
　　・繁華街……住宅街の北にあります。奥に行けば行くほどいかがわしい店になるのは他の街と同じです。
　　・広場………幾つかありますが、最も大きいのは、＜はばたき広場＞です。
　　　　　　　　　時計塔があり、大運河に面し、水上バスやゴンドラの発着所もある観光名所です。
　　　　　　　　　露天が立ち並んでおり、近くには商店街もあります。
　　・職人街……住宅街と繁華街の間にあります。品質はピンキリですが、手作りの品を売る小さなお店が建ち並んでいます。
　　　　　　　　　青を基調としたトータルコーディネートを提案する、新進デザイナー・オルコット氏のブティックもここ。
　　・倉庫街……倉庫街です。カジノもこの中にあります。
　　・大運河……ヴァイシャリーの水運の大動脈です。ゴンドラ、水上バス、渡し船など、多くの交通手段が用意されています。
　　　　　　　　　＜騎士の橋＞もここです。
　　・その他……以上にはありませんが、レストラン＜湖の畔＞や苺のパフェがオススメの喫茶店など。

　けれど、ヴァイシャリーで生活している皆さんには、自分はこの店でバイトしているとか、お気に入りのこんな場所があるとか、思い描いている方もいらっしゃると思います。その場合も、アクションの手段欄にお書き下さい。もし具体的な店の設定など考えられている場合は、アクションの目的欄に【（場所の名前）】をお書き下さい（こちらは１ＭＣにつき１つまで、採用されない、マスタリングされる場合も多々あります）。

　場所ではなく一緒に回るＮＰＣをご指定いただいても、結構です。
　ＮＰＣにつきましては、ラズィーヤはヴァイシャリーの屋敷周辺。静香は職人街や広場を中心に回ります。フェルナンは運河全体をゴンドラで、琴理は百合園の周辺を回る予定ですが、基本的には皆さんの案内役と雑用係を務めますので予定は変更になる場合があります。白百合会役員メンバー（執行部除く）は百合園で待機及び適宜参加しますが、登場しないこともあります。

　──では、ヴァイシャリー観光に出発です。

・観光マップをつくる

・猫カフェに行く

・静香と観光