ここは深夜の空京のビジネス地区――
「奴ら、どこへ隠れやがった!?」
『エリア2・3・4・5、全て墜ちました。残るはこのエリア1だけです』
「くそっ……」
街の一角で、一人の男が無線で話していました。
コツン
「ち、すぐそこまで来てやがったか」
物音の方へ駆けていったその時だった。
――もらったぜ!
カーン、と金属製の物体が宙へと蹴り上げられる音が響きました。
「くそ、負けたか……」
それを蹴られた方は、悔しそうです。
「お、もう夜明けか。ちょうどゲーム終了だ。今日は攻撃側の勝ちだな」
朝日によって照らされたのは、一本の軽くへこんだ空き缶でした。
ここ最近、深夜の空京ではこのような街一つを舞台にした缶蹴りが定期的に行われているのです。何やら空京大学の学生が、「気軽に出来る高度な戦略知識を要する実戦演習」という名目で始めたらしいのですが、真の理由は分かりません。
ルールは以下の通りです。
1.缶は全部で5つ用意されている。それらは同様に5つに分けられたエリアに一つずつ配置される。
2.参加者は攻守に分かれる。一つのエリアにつき、攻:守=4:1である。
3.攻撃は総数をエリアの数で割り、各々のスタートエリアに均等に割り振る。
4.守備側はエリアを跨いでの移動は出来ない。
5.攻撃側は自分のいるエリアの缶を倒せば別のエリアに移動出来る。
6.捕まった場合、その人は5つ全部の缶が倒されるか、攻撃が全員捕まらない限り解放されない。
7.守備、攻撃ともに直接身体へ攻撃することは禁止とする。
8.ただし、トラップ等の間接的な手段での妨害は認める。
9.缶から半径100メートル以内は射撃、投擲武器並びに光学迷彩の使用を禁ずる。
10.移動手段としての乗り物は、空飛ぶ箒のみ認める。
11.守備の人が全員所定の位置につき次第、ゲームスタートとなる。それまでに攻撃側は身を隠さなければならない。
12.通信手段は使用可能である。
13.守備側は、缶の周囲に結界を張る等の対策をしても構わない。ただし、ダミーの缶を新たに用意してはいけない。同様に、缶そのものへの細工は認めない。(缶の移動も禁止)
14.守備が複数いる場合は、攻撃の人間をタッチし、大声でその人の名を叫べばよしとする。ただし、缶から半径100メートル以内は通常の缶蹴り同様に、缶を踏んで名前を呼ばなければならない。
15.このゲームには「審判」が存在する。エリアがクリアされると、審判から全員に連絡いくようになっている。
16.時間は深夜1時から夜明けまでとする。
寝静まった街の中で、今宵もこの「ゲーム」が始められようとしています――