シャンバラ地方の中央を占める広大な大地――シャンバラ大荒野。
遊牧民や蛮族が放浪するこの荒れ果てた土地で、次なる新たな土地を求める渡り鳥たちの集団がいました。
その名も『ジンブラ団』。物資の輸送や土地柄の仕事などで生活していく、商人たちのキャラバン。
それがジンブラ団なのでした。
「おーい、コビア。あまり遠くまで行くなよ!」
「分かってるよー! すぐ戻るからさっ!」
キャラバンの隊長であるアビト・ビラは、威勢だけは良い少年、コビア・ロンが荒野の岸壁に行くのを見届けて、しょうがないやつだというようなため息をつきました。
「コビアのやつ、元気が有り余ってるな」
それを見た他のキャラバンの仲間たちが、アビトに話しかけます。
「まったくだよ。ありゃあ、きっと初めての荒野ではしゃいでるのさ」
「ちげぇねえ」
アビトと仲間たちは愉快そうに笑い合いました。
「……とはいえ、ここ最近の荒野は物騒だからな。あまり遠くには行ってほしくないもんだ」
「……ああ。みんな、なにか起こるんじゃないかって不安になってるしな。それに、なんでも大都市のほうじゃ、学者さんや戦える奴を、荒野の謎の解明のために送ったりしてるって話だ。何も起こらなけりゃいいが……」
アビトと仲間たちの不安は、ここ数日のシャンバラ大荒野における異常な現象のことを指していました。
突然の砂嵐や、これまで存在してなかった危険な魔物が暴れ回るといった、違和感の拭えない状況。シャンバラ大荒野でも一部の場所の事とはいえ、そこでは、何かが起ころうとしているのではないか、という不安が募るばかりなのでした。
キャラバンの仲間たちの不安などどこ吹く風といったように、コビアは岩肌の近くまで一人でやってきました。
仲間たちの心配をよそに、彼は見知らぬ荒野の光景に胸躍る気分だったのです。
高揚したように感嘆の息をついて周囲を見回すコビアでしたが、ふと、彼の視界に一人の少女が現れました。
「…………?」
それまで誰もいなかったはずなのに、見知らぬ少女は突然現れたのです。
「ねえ、君……!」
コビアは気になって少女を追いかけましたが、岩の後ろに回ったときには、すでにその影すらありませんでした。
一体なんだったのだ、と、無垢な少年は首を傾げます。すると、地面に鍵が落ちていることに気づきました。
「なんだ、これ……?」
少女が落としていったものかと、コビアは古びた鍵を拾い上げました。
すると――
(コビア……。助けてください、コビア)
「な……!」
不思議な声が頭の中に直接響いてきたと思ったとき、周囲の大地が震えだしました。そして、地震でも起こったかのような地鳴りと地響きを起こして割れた大地が、一気に地形を変貌させます。
コビアは揺れ動く大地にしがみつくのがやっとで、ようやく地震が落ち着いたときには、周りの光景が一変していることに気づきました。
「これは……」
目の前にあったのは、まるで迷宮のような姿になった荒野の大地。それまで地であったものは壁となり、コビアを覆い尽くしています。
何がどうなったのか、コビアにはまるで分かりませんでした。しかし、ただ一つ彼の中にはっきりとしていたこと。それは、少女が自分を呼んでいたということ。
あの頭のなかに響いた声は、きっと先ほどの少女の声に違いない。
コビアは鍵を握り締めました。
そして、彼は勇気を振り絞り、助けを求めた少女に導かれるよう、迷宮の中へと足を踏み入れたのでした。
その頃、ジンブラ団も突然変化した地形に戸惑っていました。馬は暴れるわ、団員は混乱してるわで、大騒ぎです。
そんな団員たちを統率していたアビトのもとに、一人の若い団員が駆け寄ってきました。
「団長! 団長!」
「なんだ? どうしたってんだ、こんな忙しいときにっ!」
「コビアが……コビアがこの荒野の変動で出来た変な建物の中に、入っていったらしい!」
「なんだって……!」
アビトの顔が引きつるように強張りました。
「コビアのことを見てた団員がいたらしいんだ。でも、すぐにこの変動で離れ離れになったらしくて……追いつけなかったと」
「くそっ! だから遠くに行くなとあれほど言ったんだ! 勝手な行動しやがって」
アビトは苛立つようにして拳を握りながら言います。しかし、その心中は不安で一杯です。
まだコビアは子供です。そんな彼が一人でわけもわからない建物のなかに入ってしまったなど……。
しかし、アビトはコビアが馬鹿な人間でないこともよく知っていました。だとすると、なぜコビアは建物の中に? もしかすると、この危機的な大地変動と関係しているのか? いずれにしても、助けにいかざるを得ないと、アビトは決心しました。
「いいか、シャンバラ全域に伝書鷹を送れ。特に近くにいる奴には最優先でだ。団員の若い奴も準備しろ。コビアを助けに行くぞ!」
こうして、ジンブラ団はコビアを助けにいくため、数多くの鷹を救援のために飛ばしたのでした。
果たして、少女は何者なのか。そして突然の大地変動で出来た建物とは?
謎は深まるばかりですが、コビア一人では危険なことに変わりありません。
どうか、皆さんで彼を、そしてジンブラ団と荒野の危機を助けてください。