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intermedio 貴族達の幕間劇 (前編)

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シナリオガイド

てのひらを零れ落ちる幸せ。──私は「世界」を救えない。
シナリオ名:intermedio 貴族達の幕間劇 (前編) / 担当マスター: 有沢楓花






 従者  :ヴェロニカの花をお集めに?
      おお我が主よ、恋人と引き裂かれた悲しみが、貴方を狂わせてしまったのですか?
      外には雪が高く積もっております。花を見つけることさえできませぬ。

 バルトリ:花がなければ咲かせればよい。
      花嫁に相応しい、白亜の館を建てるのだ。
      全ての壁の隅々までを、花の意匠で飾らせよう。

 従者  :それをあの方は喜ばれるでしょうか?
      花の影などちらとも見せぬ、武骨な、女王に永遠の忠誠を誓ったあの騎士が?

 バルトリ:私の前では、彼女はもはや髪と兵を束ねる騎士ではない。

      悲しみの涙は雪解けとともに、ヴァイシャリーの運河が洗い流してくれるだろう。
      春になれば、花は湖の水が育ててくれるだろう。
      私はほどいた彼女の髪に花を挿すだろう。

      ああ、愛とはひとりでに生まれるものではないゆえに。

                        ──オペラ『騎士ヴェロニカ』第一幕 第三場









「名門貴族・バルトリ家の名はご存知ですね?」
 突然の質問に、桜井 静香(さくらい・しずか)はお皿から顔を上げました。
 それは、お土産に静香が持参した<カフェ・ホワイトリリィ>の季節限定かぼちゃタルトが、半分以上食べられてからのことでした。
「うん、知ってるよ。ラズィーヤさんとも交流がある人だし……、
 最近だと、クロエさんがこの前まで作ってた舞台衣装、バルトリさんに頼まれてたものなんだよね? 僕もそれに使うレースとかを作ってたんだよ」
 ヴァイシャリーの著名なデザイナーの一人、クロエ・シャントルイユの名を口にして、そうか、と静香は頷きます。
「もしかしてお姉さんから聞いたの?」
「ええ。実はその件で、ご相談があるのです」
 フェルナン・シャントルイユ(ふぇるなん・しゃんとるいゆ)は申し訳程度に口を付けたタルトのフォークを置きました。
「僕に? ラズィーヤさんじゃなくて?」
「はい。……姉はその職業柄、貴族の方のお屋敷を訪ねて服を仕立てたり、コーディネートのご相談を受けることも多いのですが、時には個人的なご相談を受けることもあり──姉は今回、バルトリ夫人からそういった種類のご相談をいただいたのだそうです」
「うん」
「端的に言えば、夫人に殺人の予告状が届いたのだそうです」
「さ……さつじ……」
 びっくりして、静香は大声を出しかけました。慌てて言葉を飲み込もうとしますが、フェルナンは穏やかに大丈夫ですよ、と言います。
 ここはフェルナンの生家である、ヴァイシャリーの旧い商家・シャントルイユ家。それなりに大きなお屋敷であり、ちょっと叫んだところで外には聞こえません。
「ごめん……えっと……予告状、なんだよね?」
「先日夫人が目覚めると、枕元のテーブルにカードが置いてあったそうです。

 『アレッシア・バルトリ お前が28歳になるその日が、人生で最後の日になるだろう』。

 印字のため筆跡は分かりませんでした。寝室に入った可能性があるのは、ごく親しい人物やメイドら使用人だけです。
 姉を頼ったのは外部の者に聞いてほしい、というのもあったようですが、その誕生日に行われるパーティに、姉が招待されていたからなのです」
「それは聞いてるよ」
 アレッシアは芸術を愛する女性として知られています。芸術の中でも特にオペラを好み、これはと見込んだ若い歌手たちには援助を惜しみません。彼女の後援を得て名声を得るまでに成長した歌手も何人もいます。
 毎年の彼女の誕生日パーティには、そんな歌手たちが感謝をこめて、短いオペラを披露することが恒例になっていました。
 ただしその舞台を整えるのはホステスであるアレッシアです。クロエと静香が協力して作成した衣装は、今年のオペラ『騎士ヴェロニカ』ので使用される舞台衣装だったのでした。そして舞台の前後は衣装調整などの役目があるので、クロエは半分仕事として出席するのでした。
「レースの縁もありますし、校長が赴くのはさほど不自然ではないと思います。
 ヴァイシャリー家のラズィーヤ嬢のパートナーとしても。百合園の校長としても」


 フェルナンが頼みたいことというのは、つまり、アレッシアの護衛でした。
「信頼できる生徒を引率して、パーティにご参加いただきたいのです。オペラを鑑賞するのでも良いですし、雑事のお手伝いでも良いかと思います。
 百合園の生徒は契約者。夫人の命を狙う犯人などいなければ良いのですが、いたとして、契約者はその抑止力となるならそれでも良いでしょうし、万が一誰かが何か事件を起こそうとして、契約者であれば対処も容易でしょうから。夫人には姉を通してご理解いただいています」
 それに、と彼は続けます。
「実は、今回の脅迫状のことだけでなく、夫人に関しては繊細な問題を含んでいるのです。百合園女学院の生徒さんであれば、私のような無粋な人間よりも遥かに穏便に、解決していただけるのではないかと思っています。勿論、私もパーティには参加するのですが、男では立ち入れない領域もありますので……」
「うん、いいよ。フェルナンさんにもクロエさんにも、色々お世話になってるしね。ところで、繊細な問題って何か聞いてもいい?」
「恋愛問題が絡むのではないか、と私は予想しています」
 恋愛、と聞いて静香が少し思案顔になります。
(僕にできるかな。自分のこともまだちゃんと分かっていないのに……。でも、僕ももうそろそろ、はっきりさせなきゃいけないんだよね)
「できるだけのことはしてみるよ。……そういえば、パートナーさんはどうしたの?」
 こういった時には、彼の隣にはパートナーである村上 琴理(むらかみ・ことり)がいるはずなのですが、今日は姿が見えません。
「村上さんなら百合園生だし、クロエさんとも知り合いだし、衣装のお手伝いとかで潜入捜査もできそうだけど……?」
 素朴な疑問。
 それに対し、フェルナンははっきりと分かるように、目を逸らしました。窓の外に見える運河に目をやって、言いにくそうに、
「ここ数日、学校を欠席しているそうです」
「病気、なのかな?」
「家にも帰っていないそうです。……失踪したそうです。彼女と親しいメイドによれば、自分の意志で」
 彼は視線を皿の上に移すと、フォークの先で、砂糖でできたカボチャのオバケを持ち上げました。
「……私は、何も聞いていなかったのです」





「お嬢様、お体はもうよろしいのですか?」
 ボーイフレンドデニムに、くたくたのカットソーにスニーカー。ごくラフな格好の少女は、メイドに首を振って、大きな鞄を肩にかけます。もう片手には四角いトランクを転がしており、旅行に……いえ、家出できそうな大荷物です。
「どちらにお出かけになるのですか? 馬車の支度がご必要なら、今すぐに……」
「平気よ。小型飛空艇を出すから」
「いつごろお戻りになられますか?」
「……今日は、戻らないわ。ううん、明日も明後日も」
「お嬢様、あの…………まさか、家出!?」
 飛び上がり、あわあわするメイドに少女・村上琴理は何を大げさなことを言ってるの、と言いました。
「野宿するわけでも、大荒野に行くわけでもないんだし。ちょっと用事を済ませるのに時間がかかりそうだ、っていうだけよ」
「もしかして、この前のことを気になさっているんじゃありませんか? あれはお嬢様のせいでも、誰のせいでもございません。闇龍が暴れて壊れなくても、あの店は、老夫婦がいずれ閉めると言っていたんですよ。いずれにしても、もう二度と──」
 言い募るメイドを、琴理は視線で制します。
「これは、ヴァイシャリーに何もしてあげられなかった、私の責任だから。そうだ……友達や、特にフェルナンには内緒にしておいてね」
 琴理はそれだけ言って、止めるメイドを振り切って屋敷の外に出ました。
 鞄のポケットからぴょこんと顔を覗かせた小さな着ぐるみ──の中身、美しい純白の毛並みで、社交界では名高いゆるスター・真珠の頭を、琴理はなでます。
 真珠とは去年の夏、ヴァイシャリー湖に浮かぶ無人島の違法賭博場をめぐる事件で、偶然出会った仲です。
「ご主人のところに帰りたい?」
 真珠は何も答えません。
「すぐに返すつもりだったけど、ご主人のことを調べるのに手間取っちゃったわね。ご主人はあなたを探しているかしら」
 くい、と真珠は顔を上げて彼女を見つめます。
「ごめんなさい、私の用事が済むまで待っていてね。そうしたらバルトリさんの家へ戻れるからね」
 けれど彼女は真珠を返した後のことは考えていませんでした。
 ヴァイシャリーの屋敷に戻るか、それとも……。





 そして、日は過ぎて。
 誕生日パーティの当日がやってきたのです。
「……本日はお越しいただきありがとうございます」
 バルトリ家の現当主アウグスト・バルトリは応接間で、招かれた貴族や名士たちににこやかに挨拶を続けています。
「シェリーは如何ですか?」
「いただきますわ。……あら、アレッシアさんはこちらにはいらっしゃいませんの?」
「ええ、舞台の準備をしています。すぐに戻ってくると思いますよ」
「うちのは、毎年アレッシアさんの舞台を楽しみにしているんですよ。アウグストさんも、あんなに美しく聡明な方が奥方だとは、うらやましいですな。あのテノール歌手──甘い容貌がご婦人方に絶大な人気を誇る青年──と並んでも、全く見劣りするどころか、たとえ舞台に立っても輝いて見えるでしょうな」
 アウグストは、愛想笑いで応えます。
「いえいえ、お客様もお迎えできず、至らない女で──」
「そういえばあなた、あのディーノさんは、援助を打ち切られたそうですのよ」
 アウグストと話を続ける夫に、貴婦人はこそっと囁いています。
「あんなにお気に入りでしたのに、どうしたのでしょうね?」
 夫は囁き返します。
「何でも、他の女に浮気をしたとかどうとか……。だがまた新しいスポンサーを見つけたようだよ」


担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 お久しぶりです、もしくははじめまして、有沢です。
 今回お送りしますのは『intermedio 貴族達の幕間劇』全二回のうち前編にあたります。


 ヴァイシャリーの、古王国時代から続く名門貴族のひとつ、バルトリ家。
 その屋敷で行われる誕生日パーティが、今回の殺人予告──脅迫事件の舞台となります。
 殺人予告がされたのは、まだ三十三歳の現当主アウグストの夫人アレッシア・バルトリ、二十八歳。とりたてて恨みを買っているようにも思えない、美貌の貴婦人です。
 彼女は芸術を愛し、オペラ歌手達のスポンサーとしても有名です。誕生日には毎年オペラが上演されるほどです。
 今年は脅迫状が届いたため、部外者の出入りが激しくなるオペラの上演をアウグストは反対しましたが、アレッシアはその反対をおして決行しています。

 今年のオペラは『騎士ヴェロニカ』です。
 ヴェロニカとは、古王国時代、女王に永遠の忠誠を誓っていた一人の女騎士ヴェロニカ・バルトリの名です。
 政略結婚でツァンダからヴァイシャリーのバルトリ家に嫁いできた彼女は、その後も女王の騎士としてありつづけました(キャラクタークエスト「女王の騎士」)が、彼女が花嫁としてやってきたとき、当時の当主は彼女を歓迎して、新しく館を建て、壁一面に名の元である花の意匠を掘らせました。(『ヴァイシャリー観光マップ』)。
 バルトリ家と縁の深いオペラということになります。
 誕生日パーティは、この屋敷で行われます。
 実はヴェロニカは女王の復活に応じて自身も復活しましたが、復活後はもめごとの理由になると自らバルトリ家には姿を見せていないそうです。

 なおパーティの準備は早朝からですが、開宴は夕方からです。歓談後夕食、その後オペラを鑑賞しながらお茶やお酒をいただく、という手順になります。

 今回、皆さんが行える行動の例としては、
  ・桜井静香引率、社会科見学(オペラ鑑賞会)に参加
    鑑賞会中は動けませんが、上演以外は通常の招待客と同じく自由にふるまうことができます。
  ・桜井静香引率、パーティのお手伝い
    パーティ当日、準備段階からパーティのお手伝いを買って出ることができます。メイド、執事、雑用係にコックなどなど……。
    裏方を見張ることができますが、持ち場から長時間・著しい距離を離れることは難しいでしょう。
  ※以上二点は、主に百合園生で構成されます。他校生の場合は便宜上静香の監督下に置かれます。

  ・クロエの手伝い
    オペラの手伝いです。クロエは衣装やメイクを主に担当していますので、その補佐が主になります。
    オペラ関係の調査はこちらが一番有利です。また、夫人が脅迫状のことを相談している部外者は、クロエだけです。
  ・フェルナンの手伝い
    百合園生のフォローに回りますが、招待された貴族達から情報収集も行います。
    一方、失踪したパートナーのことも気にかけています。
  ・招待客として参加
    また、自由設定で社会的に地位のある(あるいは高い地位が実家の)PCの場合、夫人から個人的に招待状が届いた、ということで招待客として中に入れます。

 などです。勿論これ以外のアクション、たとえば、事件そっちのけで観劇デートをするのもいいかもしれません。

 ■主な登場人物■、
  ・アレッシア・バルトリ    バルトリ家当主の妻。
  ・アウグスト・バルトリ    バルトリ家当主。
  ・ディーノ          現在、貴族のご婦人方に絶大な人気を誇るテノール歌手。オペラでは、当時のバルトリ家当主役を務める。
                 つい最近まで、アレッシアの援助を受けていた。
  ・クロエ・シャントルイユ   ヴァイシャリーのデザイナーの一人。ドレスから宝飾類までトータルコーディネート。
                 アレッシアの相談を受ける。シャントルイユ家次女。
  ・フェルナン・シャントルイユ シャントルイユ家の長男。桜井静香の友人の一人。
  ・村上琴理          フェルナンのパートナー、百合園女学院の生徒。
  ・桜井静香          百合園女学院校長。今回、百合園生を中心にオペラ鑑賞の社会科見学と、パーティの手伝いをする生徒をまとめる。


 ちなみに。
 今回ミステリ風味ですが、ジャンルが「恋愛」になっているように、ミステリというよりは、心情的な動きに重きを置いたシナリオです。
 フェルナンの言う「繊細な問題」の真相は、脅迫状の件を解決するだけでは、明らかになりません。


 それでは、皆さんのアクションをお待ちしています。

▼サンプルアクション

・静香に引率され、社会科見学として参加する

・誕生日パーティを手伝う

・関係者に聞き込みする

・便乗して殺人事件を起こす

▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています)

2010年10月16日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2010年10月17日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2010年10月21日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2010年11月05日


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