季節は秋へと移ろう頃。
それは、ついに夏も終わりを迎えようとしていたときのお話でした。
「ねえねえ聞いた?」
「うん、聞いたー! 肝試しをやるって話でしょ?」
ここ最近の蒼空学園では、そんな話でもち切りでした。
と、いうのも――なんでも生徒会主催のもと、とある休日に肝試しが行われるというのです。
『修学旅行を控えたこの時期。より良い修学旅行を楽しむために、生徒間での交流を深めること』
それが、この肝試しの目的だそうです。
もちろん修学旅行は他の学校とも時期が被っているところも少なくありません。
『また、これを機に他学校との生徒同士の繋がりも強くしましょう』
だ、そうで……。
つまりは、他学校の学生も参加可能だということです。
「こんな時期に肝試しなんて誰が考えたんだろうね?」
「誰だっていいじゃない。面白そうなんだから」
肝試しの張り紙を見ていた女生徒二人は、そんなことを話しながら談笑にふけっていました。
そんな彼女たちをちらりと横目で見やり、廊下を一人の男子生徒が過ぎ去っていきます。
彼の気配は、まるで忍者が忍び足でもして屋敷に潜り込むように消えていました。ある意味、熟練の技と言えるでしょう。
階段を上り、廊下を歩き、下り、走り、トイレに入り、数分の時間を置き、再び階段を上り、廊下を歩き……。
そんなことを繰り返してようやく辿り着いた部屋の前で、彼は何かを警戒してきょろきょろと目を配ります。誰にもつけられていないか。恐らくはそんなことを確認していたのでしょう。
コンコン、と引き戸を鳴らす男子生徒。
「合言葉は?」
正体を隠すようなくぐもった声で、戸の向こうからそんな返事が返ってきました。
「見えるのが良いのではない――」
「――チラだからこそいいのだ」
相手の声に対して繋げるように男子生徒が言います。
すると、一拍の間を置いて。
「よし、入れ」
扉がガラガラと開きました。
その奥にいたのは幾多の男子生徒たちでした。
学年、クラス、部活。そのどれもがバラバラだが、たった一つの目的のためだけに立ちあがった男たち。
それを取りまとめるのは一人の男子生徒――名は夢安京太郎という青年です。
彼の足元では、少し太った猫のような外見をした珍生物カーネがあくびを噛みしめていました。
「諸君、よくぞ集まってくれた」
京太郎は仰々しい口調で、集会に集まった生徒たちに告げました。
新しく入ってきた男子生徒はすでに自分の席に着き、誰にも見られないようにカーテンが閉め切られています。
暗澹とした部屋に灯るのはわずかなスタンドライトの明かりのみ。
京太郎は続けます。
「君たちに集まってもらった理由は他でもない。ついに……ついに我々の悲願であったあのイベントが実行に移されようとしているのだ!」
「おおおぉぉ!」
男子生徒たちの間にどよめきが走りました。
「詳しくは……彼に聞こう」
京太郎が目をやると、先ほど新しく入ってきた男子生徒が頷きました。
ハッ、といういかにも部下らしい返事を発して彼は立ちあがります。
「先日の生徒会会議にて提案した例のイベント企画は、○月○日に行われる予定になっております。ついに本日、張り紙も張りだされることになり、企画は順調に進んでいると言えるでしょう」
「感づかれてはいないかね?」
「はい!」
「うむ。して…………工作員は?」
「現在半数ほどが、我々の同士によって構成されております。残り半数に関しましても、食券、女生徒から奪った弁当、マニア必見の隠し撮り写真、その他青少年には欠かせない例のビデオなどで買収を予定しています」
「上々…………というわけだな」
生徒会に潜り込んでいる仲間の出来栄えに満足そうにうなずいて、京太郎は男子生徒を再び座るように促しました。
ついに――そう、ついに、である。
男たちの悲願は達成されようとしているのでした。
そしてこれが成功した暁には、大儲けすることは間違いありません。
名付けて、肝試しで工作員を使って女生徒を驚かし、エッチな写真を撮ってしまおうじゃないか作戦!
「みんなは一人のために! 一人はみんなのために! いくぞ、野郎ども!」
「おおおおおおぉぉぉ!」
この日、彼らは作戦の決行を決意し、
「カァ〜」
カーネは素知らぬ顔で鳴き声をあげたのでした。
夢安京太郎率いる男子生徒たちの肝試しを利用した隠し撮り作戦。はたしてその運命は……!?
全てを決めるのは、あなたです!